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Page.4

青い空の下を飛ぶ一機の戦闘機。

純白の機体に黒いカウルと黄色いカウルフラップ。


まるで白鳥のような塗装をしたその戦闘機のコックピット、ホセは操縦桿を握りながら時折周囲を警戒する。

膝の上では病院服を着た少女が座っており、空の景色に興味津々だった。


「下手に立つなよ。狭いんだから」


そう言うと、少女はコクリと頷いた。ホセはそんな彼女の反応を見ながら呟く。


「まずは銃を買わねえとな…」


格納庫で持っていた拳銃は少女の魔法で壊されてしまい、木っ端微塵だ。自分の身を守るための道具がないと思っていると、


「これ…」


少女が徐に人攫いの使っていたL-35を手に持った。おそらく銃を壊したことへの詫びの品なのだろう。しかしホセは少女に言う。


「それはお前が持っておけ」

「…?」


どうしてと言った様子で首を傾げる少女にホセは続ける。


「お前さんを守る術だ。持っていて損は無いだろう?」


ホセの言葉に少女は少しホセを見た後に納得したのか短く頷いて拳銃を自分の膝の上に置いた。


「ただ、安全装置は付けてくれよ」


そう言い、ホセは操縦桿から片手を外して少女の拳銃の安全装置を付ける。

今の高度は生身の少女がいるので低高度ほどの高さである。上に上がるとキャノピーを閉じた状態でも非常に寒いのでこれくらいが妥当だろう。


「何も無い事を祈るか…」


そして速度を上げて拠点にしている場所まで向かう。






そしてしばらく空を飛び、陽が落ちて少しした頃。

遠くに見える街の明かり、郊外の滑走路は舗装され。小さな管制塔が立つ飛行場にホセは無線を繋げて慣れた様子で滑走路に着陸をする。

滑走路脇には対空戦車(M42 ダスター)が等間隔で配置され、空賊の襲撃に対応できるようになっていた。


その景色に少女は興味津々でキャノピーの窓から飛行場や街を眺めていると、戦闘機は誘導路に入って格納庫に入る。

格納庫に入り、そこでエンジンを切ってキャノピーを開けると、そこで一人の整備士が近づく。


「よぅ、ホセ。今日は遅かった…おや?」


その整備士はコックピットに座り込んでいた少女を見てやや驚いた後にホセに真面目な顔で言う。


「お前、そう言う趣味だったのか?」

「阿呆、んな訳あるかよ」


ホセはコックピットを降りて次に少女の体を掴んで降ろす。


「人攫いの荷物だよ」

「あぁ、そうか…そうだよな…」


老練な整備士は安堵した息を吐くと、ホセは少々目を細めながらも聞く。


「悪いんだが、こいつに合う服は無いか?」

「あぁ、服屋ならいつもの場所がいいんじゃないか?」


そう言いながら整備士は少女を見ると、ホセに言う。


「警察に届けないのか?」

「その子が嫌がってんの」


そう言うと、少女は短く頷き。整備士は少女に目線を合わせる。


「お嬢ちゃん、警察には行かないのかい?」

「…」


その問いに少女はホセのズボンを握りながら頷いた。するとその整備士は立ち上がってホセを見る。


「懐かれちまってんな」

「何、親元まで送るだけさ」


そう答えると、ホセは少女を見ながら言う。


「こいつは大丈夫。俺の知り合いだ」


そう言うと少女は信用した様子でズボンから手を離すと、整備士は言う。


「俺はニカノールだ。まぁ、しがない整備士だ」

「…」


少女はそれにお辞儀をして返すと、ホセは言う。


「あまり喋るのは得意じゃないぞ」

「名前は?」

「聞いてない」

「オマエねぇ…全く、」


呆れるように首を軽く振って整備士は少女に聞いた。


「お嬢ちゃん、自分の名前。分かるかい?」


すると少女は少し掠れた声で小さく答えた。


「…マリサ」

「マリサね、良い名前だ」


整備士はマリサを見てそのままホセを見ると、軽く彼の頭を持っていた金属ヘルメットで叩いた。


「痛っ」

「馬鹿たれが。コレだから子無しはよ…」


するとその整備士は呆れた様子でホセに言う。


「お前はこの子を服屋に連れて行け。今すぐにだ」


そう言い、全く考えられん事をしよるとブツクサ文句を溢しながら戦闘機の整備を始め。ホセと少女を格納庫から出すと二人は困惑したまま街の服屋に向かった。




街を歩くと、ホセのそばにいる少女を見て誰もが驚いた様子で軽く茶化すように話しかけてくる。


「ホセ、その子どうした?」

「ついに人攫いか?」


そんな彼らにホセは軽く言い返す。


「阿呆、俺が悪党になるかよ」

「じゃあどうした?」

「人攫いだ」

「あぁ…成程ねぇ」


すると話しかけてきた同業の賞金稼ぎの男はマリサに近づくと、少し怯える彼女に少し気落ちしながら少女に持っていたキャラメルを渡す。


「コレ食って元気を出しな」

「…」


そう言い、キャラメルを見て少し呆然となるとホセが言う。


「おいおい、客引きは止してくれよ」

「分かってるって、コレから警察署に行くのか?」

「いや、このまま服屋さ」

「あぁ、そうか…」


マリサの今の服装は病院服。この姿で街をふらつくのは色々と目立つので彼女のために服屋に入った。


「あら、珍しいお客ね」


店では初老の女性が店番をしており、入ってきたホセを見てそう言った。


「悪いが、今日のお客は俺じゃない」

「あら、どうしたの?」


するとホセはマリサの背中を軽く押して前に出して言った。


「この子の服を見繕ってくれ」

「あら、可愛い…」


本音がポロッと溢れた店主にホセは要望を伝える。


「出来れば…飛ぶ時に邪魔にならないような物を」

「OK、任せな」


マリサを見て意気揚々と答える彼女はそのまま少女に近づくと体を一周して見た後に少女を店の奥に手招きした。


「さっ、男は出てってくれ」

「はいはい…」


そしてホセは店から追い出されると、店先でタバコに火を付けて待っていた。




その後、タバコを二本吸った頃合いで店の扉が開くと店主が手招きをした。


「終わったよ」

「そうか」


そこでタバコを地面に落として踏み消すと、ホセは店に入って着替えた少女を見た。


「ほほぅ…」


マリサはオーバーオールにベージュの長袖シャツを着て、上から裏起毛の革ジャンを羽織っていた。


「あとはヘルメットを被れば完成さ」

「ありがとうメルベール」


そこで支払いの話をしようとすると、メルベールは言う。


「請求につけておくさ。今度の仕事、報酬が入るんだろう?」

「…すまんな」


色々と長年の付き合いで察してくれた彼女にホセは言うと、彼女は手を軽くヒラヒラさせて言う。


「良いさ良いさ、こんなかわい子ちゃんの服を見繕えたんだ。ついでに割引しておくよ」

「やけに甘いな」


時折服をこの店で買うが、今までこの店主が甘かった事は一度もなかった。

するとメルベールはマリサを写真に納めながら言った。


「私のモットーは男に厳しく、女に優しくだからね」


そう言うと、メルベールはウインクをしてホセは背筋が少し冷え込んだ。そして彼女にもう一度頭を引っ叩かれた。




服屋で一色の服を取り揃えた後、街を歩く二人。


『みんないい人…』

「俺の知り合いばかりだからな」


そう言いながら街を歩くと、マリサは革製のヘルメットとゴーグルを被って嬉しげにする。


「大事にしておけよ。お前さんを実家まで送るのに必要だからな」


そう言うと、少女はコクリと頷いてへルメットとゴーグルを大切に手に握ると、そこでホセの耳にも聞こえるほどの腹の虫が鳴った。


「今のは…」

「…//」


ホセがマリサを見ると、彼女の顔は忽ち赤くなって俯いていた。


「…そうか、腹が減ったか」


それを見てホセは少し吹き出すと、マリサはホセの足をポンポンと叩いていた。


「悪かったって。そんなに怒るな」

「…」


頬を膨らませて不満げな表情をするマリサは不満げな様子でホセを見ると、少し困り顔で彼はマリサに言う。


「飯を食って勘弁してくれ。な?」


そう言うと、マリサはそれなら…と言った具合で納得すると二人は街のバーに向かった。




「おや、いらっしゃい」


そしていつものバーで店主のトニーがやってきたホセを見て軽く挨拶をすると、彼の足元にいた見知らぬ少女にトニーはやや驚く。


「どうしたんだその子?」

「人攫いに遭った子。コレからこの子の実家まで運ぶ事になった」

「ほぉ、そりゃ大変だ」


トニーはそう言いながらメニューを取り出すと、少女の前にそれを渡す。


「お嬢ちゃん、好きな物をこの中から選ぶと良い」


そう言いメニューを渡すと、ホセはカウンターにマリサを座らせるとそこで彼女はメニューの内容がよく分かっていない様子で首を傾げていた。


「トニー、悪いがクラブハウスにしてやってくれ」

「分かった」


トニーは注文を受けて店の奥に消えるとマリサはホセを見ながら言う。


『私…お金持ってない…』


少女の不安な顔にホセは少し微笑んで少女の頭を撫でる。


「心配するな。子供が心配する事じゃない」


そう言うと、バーの席でホセはマリサに言う。


「子供は誰からも愛される存在でなきゃならんのさ」


そう言い彼はタバコを取り出して火を付けると料理が出てくるまでタバコを吸う。

そんなホセに少し唖然となりながら見ていたマリサは膝の上にあるヘルメットとゴーグルを見ると、それに触れる。


「さぁ、飯を食ったらお前さんを実家に返す準備をするぞ」


そう言うと、マリサは頷いて答えていた。


「お待ちどう」


すると店の奥からトニーが両手に出来立てのクラブハウスサンドを持ってきてマリサの前に置いた。


「っ…!」


出来立てのサンドウィッチを前にマリサは少し目を輝かせると、両手に切り分けられたサンドを持って一口噛んだ。

そしてその味を感じてマリサは二口目もすぐに食べると、それを見たトニーが嬉しそうな表情を浮かべていた。


「おいトニー…」

「良いじゃないか。自分の作った料理を美味そうに食ってくれる。料理人でコレほど嬉しいこともないんだよ」


そう言うと彼は次にホセの前にさらに乗ったバゲットのサンドウィッチを置く。


「それに比べてオマエと言うのは…」


呆れたような表情でトニーはホセを見る。


「たまには店で食えよ」


そう言い出来立ての料理を置くとホセはそれを食べながら答える。


「生憎と俺は忙しいの」

「金がかかる飛行機乗るからだろう?」

「安かったんだよ」


そう言い反論するとトニーは軽くため息を吐いた。


「定職つけよ。お前さんの腕なら雇って貰えるだろうに」

「俺は自分で稼いだ金でしか飛ばなねぇよ」


そう答えてホセはバゲットを噛みちぎっていた。

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