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Page.3

「んっ、んん…」


瞼がゆっくりと開き、数回瞬きして視界が段々と鮮明になってくるとそこでは白い天井が見えた。


「ここは…」


そこで上半身を起こそうとした時、


「痛っ…!!」


肩に激痛が走り、その方を見るとそこでは服の下に白い包帯を巻いていた。


「は…?」


激痛が走り、ホセは困惑して自分の腕を見るとそこにはちゃんと動く自分の腕があった。


「目が覚めたかい?」

「…」


ぼんやりとした様子で声のした方を見ると、そこでは一人の医師がホセを見ていた。


「思ったよりも早い目覚めだ」

「あの…俺はどうしてここに?」


ホセは首を傾げていると、医師は言う。


「昨晩、撃たれた君が運ばれてきたのさ」

「…」

「銃声を聞きつけた警察が倒れてきた()()を見つけてね」

「君達?」

「ほれ、横の」


医師はそこで目線を横にやると、そこでは一人の少女がベッドで横になって寝息を立てていた。


「…」


それは昨日自分のコックピットに隠れていたあの少女だ。あの時から体を拭かれたからか、少々小綺麗になり。服も病院服を着ていた。ただ顔色は少し悪かった。


「格納庫で血を流していた君に寄り添って倒れていてね。まぁ大変だったよ」

「…」


寝ている少女を見ながらホセは唖然となっていると、医師は言う。


「さて、そろそろ警察が来る頃合いだ」

「は?警察?何でまた…」

「詳しくは向こうから聞いてくれ」


すると病室に黒い服装の警官が二人入ってきてホセを見る。


「失礼、こう言う者と申します」


警察手帳を見せながら話しかけてくる警官はホセに軽い聴取を始める。


「昨晩の事件に関してですが…」

「はぁ…」


そこで警官に聞かれたのは昨日の格納庫で死んでいた男達は運送業者に扮した人攫いだったことや人攫いのグループが全員死亡していた事などが知らされた。


「人攫いは指名手配犯のグループでした」

「そうですか…」


まぁ、それよりも気になることが色々とあるのだが。警察に行ってもおそらく不審がられて、逆に薬をやっていると思われて別の検査をさせられることになるだろうから寡黙になって話を聞く。


「貴方の所持品から貴方は人攫いを追っていたと言う事であっていますか?」

「…えぇ、自分は賞金稼ぎですが」


警官はそれを最後に聴取を終えると、少し頭を下げて部屋を後にした。

そして入れ替わるように部屋に入ってきた医師はホセの包帯巻きされた肩を見る。


「銃弾は貫通。まぁそれほど急所じゃないから直ぐに退院できると思うよ」

「そうか…」


すると医師は次に少女を見て一言。


「あの子は警察に保護されて地元に帰る。安心しなさい」

「あぁ、そうだな…」


ベッドの上で寝ている少女を見た後、医師は部屋から出ていくとホセはその少女を見ながら言った。


「本当は起きているんだろう?」


しかし少女は答えない。


「大丈夫さ、部屋には他に誰もいない」


そう言ったところでようやく少女はゆっくりと目を開けて顔をホセに向けた。


「…」

「よく眠れたか?」


そう聞くと、少女は頷いた。


「喋れるか?」

「…少し…だけ」


少女はそう答えると、ホセは軽くため息を吐きながら彼女に近づく。

そして少女のベッドに座り込むと、そこでホセは少女を見るとそこで聞く。


「お前が傷を治したのか?」

「…」


ホセの問いに少女は答えないが、言いづらそうにしているとホセは少し笑みを見せて少女に言った。


「ありがとな。おかげで助かったよ」


ホセはそう答えると、少女はきょとんとした後に嬉しそうな顔を浮かべるとその時。耳鳴りのような少女の声がした。


『よかった…』

「へ?」


それに思わず変な声が漏れてしまうと、少女はハッとなった後にホセを見て怯えるような顔をした。


「今のって…」

「っ…」


明らかに異常な事態が起こっているが、ホセはそれを知識でしか知らなかった。


「魔法…なのか?」


そう呟くと、少女は固まっていた。




かつて、この世に存在したとされる魔法。

あらゆる病を直し、戦場では圧倒的な炎を巻いて圧倒的な火力を有す科学を超えた人外の能力。

しかし時代の推移と共に魔法使いと呼ばれた彼らは戦いや迫害に追われて姿を消したと言われていた。


「…」


少女はホセに怯えた様子で布団をかぶっており、ホセ自身も唖然となりつつもどこか納得していた。

当たり前な話だ。三発も撃たれて生き残っているのだから、そりゃ魔法でも使わない限り自分が生き残れるはずがなかった。


「…そう心配すんな」


そう言いホセは一回息を吐いた後に少女の頭を軽く撫でる。


「お前さんのおかげで俺は生きている。そんな恩を仇で返すような事はしねぇよ」


曲がりなりにも空軍で好成績を叩き出せるそれなりの頭は持っていたので、少女が考えている事を想像するくらいは簡単に予測できた。


「大丈夫だ嬢ちゃん」


少女は魔女として売られることを危惧しているのだろう。

しかし自分は賞金稼ぎであって悪党じゃない。カタギの娘を売って金を得ようと思わないし、それはただの人攫いと変わらない。

自分の矜持として、エース故に人らしくありたい自分なりの心持ちの問題だが…。


「信用してくれ」

「…」


少女の目をしっかりと見つけるホセにその気持ちが伝わったのか、少女は短く頷いた。


「ありがとう」


そう言うとホセはベッドから立ち上がる。


「んじゃあ、俺はそろそろ消えるよ」

「…行っちゃうの?」


少女はホセを見て驚くと、彼は部屋のドアノブを握りながら答えた。


「もし医者が来たら、俺は先に出て行ったと言っておいてくれ」


そう言い残すとホセは病室を後にしていた。






====






その後、病院代を払い。飛行場に向かったホセは少女の安全を願うために教会に向かおうと思ったが。


「…教会は魔女の敵か」


そう思って足をそのまま飛行場に向ける。

かつて魔女を人類共通の敵として迫害した教会、今ではその影響もすっかりと無くなっており。彼等にとっては平和な時代が訪れた事だろう。

しかし信仰の対象としてこの前まで戦争があった今の時期では多くの人々が神に縋って明日の平和を願っていた。


「魔法か…」


なるほど、この力さえあれば戦場は大きく変わり、より悲惨なことになった事だろう。

なにせ死にかけの俺の体を治せるほどの力を持っている。あの女の子が体を張って助けてくれた事には非常に感謝しているのでお礼代わりに少女の分の医療費も払ってきていた。


これから彼女は実家に帰るために警察の飛行機に乗って帰る事だろう。

人攫いの被害者は地元に送還される事になっているのであの少女も同じように地元に帰れるだろう。

あの年齢なので住んでいた街も覚えているだろうから簡単に帰れるに違いない。


「俺はそろそろ帰らなにゃならんからな…」


飛行場に置いてある自分の戦闘機の駐機料をぼったくられるのも癪だ。

自分の飛行機の停めている格納庫に向かうと、横に置いてあった輸送機は警察に押収されたのだろう。姿が見えなかった。


「さて、行きますかね」


飛行服をいつも着ており、飛ぶ準備は出来ているので。少々肩が痛むが、飛ぶだけならそれほど問題なかった。

そしてコックピットに乗り込み、エンジンを始動しようとする。

この戦闘機に積んでいるエンジンは今の空軍の主力爆撃機(B-36)と同じエンジンなので巨大で高出力だが、燃費は圧倒的に悪かった。

そして計器を確認してエンジンを始動させようとした時、


『待って!』

「?」


さっきの耳鳴りのような声がすると、戦闘機の翼に何かが乗った音が聞こえてその方を見ると機体の翼にさっきの少女が立っていたのだ。


「はっ…?!」


これには流石にホセも驚かずにはいられず。思わず始動スイッチから手を話すと、コックピットから立ち上がって怒鳴ってしまう。


「何考えてんだ!危ねぇだろうが!」


そう叫んでしまうと、少女はそれに驚いて飛行機から落ちそうになってしまったので反射的に少女の腕を掴んでいた。


「…」


そんな状況で少女は申し訳なさそうに顔を俯かせると、ホセはコックピットを降りて言う。


「お前はカタギの子なんだ。俺みたいな賞金稼ぎに付いてくるな」


そう言い少女の肩を掴んで言うと、彼女に聞く。


「お前には親が居るんだろう?」


そう聞くと、少女は頷いた。


「だったら警察に頼めば良い。その方が安全に帰れる」

『おじさんと一緒に行きたい』

「あのなぁ…」


そこでホセは呆れた様子で少女に言う。


『泣いてるの』

「泣いてる?」


鸚鵡返しのように返すと、少女はホセに悲しげな顔をみせる。


『おじさんの心、ずっと泣いている。だからついてく』

「…」


少女はそう言うと、ホセは少し驚く。しかしすぐに理由が分かる。

目の前の少女は魔女だ、こう言う芸当ができてもおかしくはない。

普段は寡黙だが、魔法でこうやって話ができるのだから。


『それにおじさん。良い人』

「俺が?馬鹿言うな…」


ホセは少女にそう言うと、少女はホセに言う。


『私、何でもする』

「…」

『だから連れてって』

「…」


少女の懇願にホセは少し考える。

そしてしばし間をとった後に少女の肩から手を離した。


「ダメだ、危険すぎる」


そう言い、ホセは少女を置いて背を向けてコックピットに乗り込む。


「…」


そんな彼を少女は不安げな眼差しを向けており、コックピットで準備を進めてエンジンの始動スイッチを入れると白煙をあげてエンジンが起動し、爆音を轟かせ始める。

そしてエンジンが回転しているのを確認すると、ホセは手を挙げて手招きをする。


「?」


その行動に少女は首を傾げると、コックピットでホセは叫んだ。


「ほら、乗るのか?」


ホセはそう言うと、少女は目を明るくすると翼に登ってそのままコックピットに入るとホセの上に座った。

少女だったので狭い座席でも座ることができ、ホセは皮のヘルメットとゴーグルを付けて操縦桿を握る。


「全く妙な同乗者を乗せちまったもんだ…」


そホセは膝上で静かに、嬉しそうにする少女を見ながらそう溢すと、管制塔に無線を繋ぐ。


「管制塔、こちらWH06。離陸許可を求む」

『こちら管制塔、WH06。滑走路からの離陸を許可します』


エンジンの回転数を上げて二重反転のプロペラを回転して速度を上げると、ホセは小さい同乗者を乗せて拠点に向かって飛んで行った。

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