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海を越えた大陸をメインに起こった戦争だから大陸戦争と名前がついている。
ホセの住まう大陸は合州国という名前で周囲の国々では呼ばれており、大陸戦争以前は星が降った事で多くの都市が破壊され、国中がボロボロだったが。戦争に参加したおかげで国内経済が復活する事になった。
大陸戦争を終え、多くの空軍パイロットが解雇されてしまった今でも、多くのパイロットは空を飛ぶことを生き甲斐に賞金稼ぎを行っており、空に魅了されていた。
三機の空賊を堕として気分上々のホセは純白の戦闘機を動かして近くの飛行場に降り立つ。
先ほど空賊に襲われていた輸送機も視認したので夜の滑走路に着陸する。
「暗いな…」
時間は夜になってしまったので、着陸する滑走路の灯りを頼りに着陸を敢行する。
キッ!
そして何とか着陸して、そのまま輸送機のいる格納庫に移動する。
「やぁ、此度はどうも」
「無事なようだな」
格納庫では修理を始めている輸送機、おそらく戦争後に民間に払い下げられたものだろう。灰色一色に塗り直され、穴の空いた胴体を修理していた。
「今回は救援に答えていただいてありがとうございます」
「たまたまですよ」
そう言いながらもホセは輸送機の機長を見ながら聞く。
「怪我人の方は?」
「あぁ、すでに病院に運ばせました。あの…」
「?」
そこでやや不安げに機長はホセに聞くと、彼はタバコに火を付けながら答える。
「空賊はその後どうなりましたか?」
「あぁ、全機落としましたよ」
ケロッと言った一言に機長達は安堵した様子でホセに言う。
「流石は白鳥ですね」
「…好かんな。その言い方は」
「お気に召さないのですか?」
機長はやや驚いた様子でホセを見返すと、彼は自分の戦闘機を見ながら呟く。
「あぁ、実に気に入らないね」
そう吐き捨てると、彼は格納庫を後にしていた。
その後、ホセは街に入ってそこで街のダイナーに入って夕食を取る。
「なぁ、知っているか?」
「何だよ」
その中で、ある賞金稼ぎが話しているのが不意に耳に入る。
こう言う生き方をしている人間にとって情報収集は命綱でもあり、また他人の噂話も馬鹿にしきれないところがあった。
「最近人攫いが横行しているんだよ」
「マジかよ」
「女子供を狙ってるって話だ。捜索願いも結構届いているらしいぜ」
「そりゃあひでぇ話だ」
聞けばその人攫いには高い懸賞金がかけられていると言う。
「警察署に行ってみるかね…」
基本的に懸賞金を発行するのは警察署の仕事。なので街に必ず一つはある警察署に行けば指名手配犯の写真や詳細を記した情報を仕入れることができる。
そして夕食を摂り終え、その足で警察署に向かうとそこで掲示板に貼り付けられた数多の手配書の中から良さげな物を探す。
「人攫いか…」
行方不明者届けに失された人攫いの特徴をまとめて探すホセ。
こう言う人攫いは大体が身代金目的か、あるいは攫った人を売って金を得るのが目的だ。
「やなこったねぇ…」
厄介なのは人攫いの機体は基本的に大型機、そしてたまに輸送業者に扮している可能性がある事だ。
「こいつの手配書あるか?」
「どうぞ」
そして受付で賞金稼ぎの認識票を見せながら手配書を要望して受け取る。
賞金稼ぎは名前と登録料を支払って認識票を受け取る事で初めて認められる。非公認の賞金稼ぎは手数料を取られるので儲けが少なくなる。登録料もそれほど高くないのでほぼほぼ全員登録していた。
賞金稼ぎの認識票には登録した警察署の場所や名前、性別が記され。もし途中で墜落した飛行機を見つけて認識票を警察署に持っていけば報奨金が得られることがある。
「人攫いの飛行機は双胴機か…」
ここいらで散見される人攫いの飛行機の特徴を見るホセ、こう言うのは気が動転したりしていてあまり参考にならないことが多いが、無視すると痛い目を見るのを知っているので一応目を通していた。
「輸送機だろうが…」
そして格納庫に戻ると、そこでは夕方に救助した輸送機が修理を終えて駐機されており。どこにも搭乗員の姿を確認することができなかった。
時刻は深夜、この時間で飛んでいる飛行機はせいぜい軍の飛行機くらいだ。
戦争が終わって、大幅な軍縮を始めた軍用機の多くは民間に払い下げを行なっており。近頃はジェット機なる新しい高速度の飛行機が注目を集めている。
これまでの空の主役だったプロペラ機はどんどんその活躍の幅を狭めようとしていた。
「やれやれ、これだから技術革新は悲しくなるもんだな」
自分の戦闘機を前にそう溢すと、明日の予定を考えるのと機体の整備の為に翼に登る。
そしてキャノピーを掴んだ時、ホセは目を見開いて驚いた。
「っ!?誰だお前!」
そこでは機体のコックピットの中で一人の薄汚れたワンピース一枚の少女が座り込んでおり、それに驚いて思わず拳銃を抜いてしまった。
「…」
そして銃口を突きつけられた少女はそんな彼に驚くと次の瞬間。
「は…?」
持っていた拳銃がバラバラになってしまったのだ。まるで暴発したように銃が壊れ、しかしホセの体は一切傷つかなかった。
何かされたわけでもなく、突然壊れてしまったそれに困惑していると少女はそれを見て申し訳なさそうな表情を見せた後に小さく、
「…さい」
おそらくごめんなさいと言ったのだろうが、それ以前に今のはなんだ。銃の引き金を引いていないのに壊れたぞ?
「おい、お前…」
何をしやがったとコックピットに座っていた少女の肩を掴んで問い詰めようとする。すると、
パンッ!
格納庫に銃声が響き渡り、その直後に体に強い衝撃が走って痛みを感じる。
「くぅ…!」
腹を撃たれ、後ろを見返すとそこでは助けた輸送機の機長が拳銃を握って見ており、その表情はとても歪んでいた。
「お前…!!」
「悪いな、白鳥さん」
そして続け様に二回引き金を引くと、ホセの体を貫いた。
「そいつを見られちゃあ都合が悪いんでね」
「テメェ…!ゴフッ」
「まぁ死んでくれや」
急所を撃たれ、口から血が出る。
「ボス、こいつの機体はどうします?」
「ふむ、ありがたく頂くか。金になりそうだ」
機長はホセの白い機体を見ながらそう溢すと、ニヤリと笑ってホセを見る。
「っ…!」
「助けてくれて感謝するぜ」
そう言い、ホセの頭に銃を突きつける。
人攫いをしていたその機長にホセは睨みつけながら血を吹きつけた。
「チッ、この野郎っ!」
血で汚れた服を見て機長は腹が立ってホセを蹴り飛ばす。
頬や白いシャツが血で赤く染まり、少なくともここにある装備では洗い流せない状態に悪態を吐いた。
「死にかけのクズが…」
そして機長は地面で血溜まりの中にいるホセに唾を吐き付けて腕を踏みつけて骨を折った。
「じゃあな賞金稼ぎ」
そう言い、機長は他の仲間に叫ぶ。
「おい、行くぞ」
そう言って周りを見回したが、そこに先ほどまでいた仲間はいなかった。
「おい!どこ行きやがった!?くそっ!」
そして機長は消えた仲間に異変を感じて輸送機に戻ると、そこには誰もいなかった。
「どこに行きやがった…」
拳銃片手に機長は毒吐くと、機長の真後ろに何かが落ちた音がきて咄嗟に拳銃を向けて振り返る。
「ひっ…?!」
そして落ちてきたそれに驚愕する。
「なっ…あっ…」
それは顔が土気色の泡を吹いて地面に倒れる仲間の一人だったものだ。
「っ…!?」
悶絶したまま死んだのが見て取れる苦悶の表情を見せる人攫い。それに唖然となっていると、機長の頭上に気配を感じた。
「っ!」
しかし気づいた時にはすでに遅く、彼の頭上に複数の死体が落下し。その重みで彼は押し潰された。
「くそっ!この…!!」
周りは異様に冷たくなった死体ばかり。身動きが取れず、また倒れた衝撃で拳銃も落としていた。
「ぐあぁっ!」
そして人の重みで身動きが取れない所を男の目の前に一人の小柄な影が立った。
「っ!テメェ!」
それは機長達が攫ってきた少女だった。少女は機長の落とした拳銃を手に取ると、それを機長に向けた。
「ま、待てっ!」
少女の行動に機長は目を見開いて驚き静止させる。
「悪かった!俺が悪かった!」
「…」
少女は銃口を機長の頭に向ける。
「やめてくれ!頼む!」
命乞いを始める貴重に少女は少し動きを止めて考える仕草を向ける。
「頼む…!あの男も助ければいいんだろ?!」
「…」
その言葉に少女は一瞬反応する。
後ろでは血を流して倒れている男が血溜まりの中で目を閉じており、少女の目的が理解できた。
そして機長の言葉に反応した少女は一言、
「じゃあ、貴方の命をちょうだい」
「は…?」
「そうすれば、あの人は助かる」
「まっ、待て!」
次の瞬間、少女は引き金を引くと機長の脳幹を破壊した。
そして格納庫に死体がもう一つ増えると、少女はそのまま慌ててホセの方に向かって彼の体に触れる。
「…」
少女はそこで目を閉じると、床に広がっていた血が時間を巻き戻すようにホセに戻って行く。
そして貫通していた体の穴が次々と塞がって行き、少女の顔色は段々と悪くなっていき、顔にどんどん大粒の汗が滴り始める。
「はぁ…はぁ…」
そして最後の貫通痕を前に少女は気を失ってホセに寄りつくように倒れた。