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異世界で仲間とのんびり冒険してるけど、もしかして気まますぎ?~おしゃれのためなら魔物だって倒します~

作者: 大弓もも

 ある日の朝。あまりの肌寒さに、アインは朝早く目が覚めた。

 アインにとって、この世界に転生してから初めての冬だが、アインにとってなじみ深い暖房器具は、この世界にほとんど存在しない。それらを恋しく思いつつ、宿屋の食堂へと向かった。


「……おはようございます」

「あら、アインにしては早いわね」


 連日世話になっている食堂の店員、ミハイルと顔を合わせた途端、くすくすと笑われた。なんのことはない。日頃、ミーシャとライラが食堂にやってきてからアインが遅れて合流するのが常だからだ。アインはばつの悪そうな顔をした。


「俺だって、たまには早く起きますよ。まあ、寒くて目が覚めたんですけど」

「なるほど。そろそろ雪も降るだろうしねえ」

「この辺、降るんですか?」

「スノーガーデンみたいに積もったりはしないけど、ちらちらっと降るね。もう少し寒くなったらそろそろだね」

 部屋に温度計はないから、長年の勘だろう。


「もっと寒くなるんですか。……コーヒーください」

「コーヒーね」

 ただでさえ寒いというのに、さらに寒くなっては困る。温まるために、コーヒーを頼んだ。


(てことは、そろそろ冬支度とか始まるのかな)

 ミハイルがコーヒーを淹れてくれるのを待つ間、考えてみた。元からこの世界にいる、ミーシャとライラがどのように冬を過ごしているかは聞いたことがない。きっと、冬でも旅は続くのだろうから、きっと彼女たちなりの冬の過ごし方があるのだろうが。情報がないまま、雪の中で戦う姿を想像した。


 鎧で歩く自分はいいとして。ミーシャは寒がりだったはずだ。魔法の詠唱の際に、かじかんで口が回らなくなってしまうかもしれない。ライラに至っては、ヒーラーである一方で短剣の使い手でもあるから、軽装を好んでいた。冬もその格好なら見るからに寒いだろう。


「……うわ、想像してるだけで寒くなってきた」

 たまらず身を震わせた。

「はい、コーヒー」

「あ、ありがとうございます」

 タイミングよく、ミハイルがコーヒーを持って来てくれた。


 それからしばらく、コーヒーを啜っていたが。

(……ライラたち、遅くないか?)

 アインがコーヒーを飲み終わっても、ライラたちは食堂にやってこなかった。先に朝食を食べてもいいのだが、いつも二人はアインの到着を待って、一緒に朝食を食べてくれる。それなら一緒に食べるのが義理というものだろう。


(あまり気が乗らないけど、部屋まで様子を見に行ってみるか?)

 席から立ち上がろうとしたところで、ミーシャとライラがようやくやってきた。アインは挨拶しようとして、自分の目を疑った。


「おはよ。……あー、さむい」

「お、おはよう」


 いつもだったら朝方でもてきぱきと動くミーシャが、目をこすりながら、まさに寝ぼけているとばかりにぼんやりした表情で挨拶してきたのだ。


「珍しいな、ミーシャがそんなに眠そうにしてるの」

 朝が弱いのは一番がアインで、その次はライラだ。驚いていると、ミーシャの代わりにライラが苦笑しながら返事した。

「はは……ライラがミーシャに服屋のチラシを貸してあげたら、あれもこれも気になるって言ってて、ずっと悩んでたみたいです」

「チラシ?」

「新作のお洋服が、スケッチで配られてるんです。それで、アイン。一つ提案があるのですが」

「何?」

「今日、買い物に行きませんか?」


 朝食を食べ終えてから、三人は街へと繰り出した。

 雪こそまだ降らないものの、灰色の空は冬の到来とばかりに薄暗い。つい昨日まで暖かかったせいか、アインたちと街中ですれ違う人々の装いはまだ薄手のものが多く、見るからに寒そうだ。


「寒い!」

 ようやく調子を取り戻したミーシャであるが、風に吹かれて叫んだ。身に纏っている黒地のローブはずいぶんと分厚く、寒さを凌ぐには十分なはずなのだが、寒がりなのか身体を震わせている。

 一方、ブラウスにケープ、さらにショートパンツという出で立ちの、寒そうな見た目筆頭のライラはというと、寒さに慣れているらしい。


「ミーシャはそれだけだとそろそろ足りなさそうですね」

 余裕綽々とミーシャの状況を確認していた。

「なんでまた買い物に?」

「そろそろ寒くなるから、上着を買い替えたいってミーシャが。……ライラのも、この前燃えちゃったので……」

「燃えた!?」


 アインは衣服の話題にしてはあまりにも物騒な物言いに、たまらず目を見開くが、それを耳にしたミーシャが、まったく驚いた様子も見せずに、むしろ呆れているとばかりに眉にしわを寄せていた。

 どうやら、この世界ではごくありふれた現象らしい。


「狐火の上着なら、燃えるでしょ」

「それでもあったかいので……」

「はい。ミーシャ、狐火の上着って何? あと燃えるのって普通なの?」


 明らかにアインが知らない情報で、二人の会話が成立している。アインはまっすぐ手を上げて、助けを求めた。そろそろ異世界転生者であるアインからの質問も慣れたもので、ミーシャは「はいはい」と頷いて、説明を始めてくれた。


「これも『ニホン』にはない文化ね。狐火の上着っていうのは……狐火を捕まえて、魔法で布に仕立て上げるの。火を布にしてるからとってもあったかいのだけど。運が悪いと勝手に燃えるのよね」


 アインはまず、狐火がなんなのかすらよく知らなかったが、ミーシャの口ぶりからして、狐火は魔物か何かだろう。話の腰を折る気がして、アインはあえてたずねなかった。


「なるほど。火事になったりはしないのか?」

「布にするときに、引火を防ぐ魔法も一緒にかけるから、ひとりでに燃えて勝手に燃え尽きてるわね。勝手になくなっちゃうから、使う人はけっこう物好きなんだけど……いるわね、ここに物好きが」

「古着屋さんで安く売ってたんです。勝手に燃えることで有名ですけど。赤色でとっても綺麗で、憧れてたんですよね! それでとってもあったかいって、最高じゃないですか!」


 狐火の上着の長所について語り始めるライラに、アインは納得した。


「ああ、ライラらしいね……」

 もちろん、アインは現物を見たことはないが、火を布にするくらいだから、色はまさしく燃えるような鮮やかな赤なのだろう。おしゃれも好きで、面白そうなものがあればそれにも何かと興味を示すライラらしいといえばそうだが。


「で、今年もその狐火の上着を買うのか?」

「もうこりごりです……今年は、ラビットファーのコートを買います。ラビットファーも、狐火ほどではないんですがあったかいですし、何よりこーんなに大きいんです!」


 ライラは、こーんなにと腕を広げるが、優に彼女の背丈ほどだ。相変わらず、異世界事情は把握しきれなくて、アインは苦笑するしかない。


「……でかいのはいいことかもだけど、それ、メリットなんだ?」

「見かけほど威圧感はないので、倒すのもそんなに大変じゃないんですよ」

「へえ」


 この口ぶりだと、恐らくライラも何度かラビットを討伐したことがあるのだろう。

 そのとき、すれ違いざまに、ふと会話が聞こえてきた。


「どうしよっか。いっそ、ラビットでも狩って作ってもらう?」

「いいけど、黒い影が出るって話、出てなかった?」


 アインたちと同じく、冒険者らしい。まさに、ライラたちと同じくラビットの話をしていた。


「……ん?」

「どうしました?」

「いや、今、すれ違ったやつが、ラビットを狩るみたいな話をしてたような」

「……今から?」


 今までアインとライラの会話に耳を傾けていたミーシャが、険しい表情でアインにたずねてきた。


「え、うん」

「まずいわ!」

「えっ、急にどうしたんだ!?」

「話は後!」


 寒さも忘れて急に駆け出したミーシャを、後の二人が慌てて追いかける。


「すみません、コートって、まだありますか!」

「ごめんねえ。問い合わせ多いんだけど、今日はもう完売だよ」


 服屋にたどり着くなり、ミーシャがたずねるが、店主が申し訳なさそうに謝罪した。遅かったと三人が気づくには、そう時間はかからなかった。ミーシャも落ち込む様子を隠せていないが、それでも寒さは死活問題だからと、店主に食い下がっていた。


「入荷の予定はありますか? ああでも、一から作るとなると、入荷も遅くなりますよね?」

「腕のいい職人が何人かいるから、彼らに頼むことはできるんだが……肝心の毛皮がなかなか手に入らなくて」


 店主も、早く仕事をお願いしたいのだけどと言わんばかりに唸っている。


「どうしてまた」

「話し中にすまん。この中に回復ができるやつはいないか!?」

 息を切らせた男性が、会話に割って入ってきた。ヒーラーであるライラは、回復と耳にして、その声に応じる。


「はい! ライラ、回復できます。どうしました?」

「ああ、ありがとう。それが、うちのヒーラーが深手を負ってしまって。他にも、何人かケガしてるんだが、ギルドはもう人が出払ってしまってて困ってたんだ」

「分かりました。アイン、ミーシャ。行きましょう」

「そうね。何か手伝えることがあれば私たちも手伝います」


 快く承諾したが、何やら町中がにわかに騒がしい。

「おーい、誰か、回復できるやつはいないか!?」

 また別の男性が、ヒーラーを必死に探していた。

「……あれ、同じパーティーの人が、ヒーラーを探してるの?」

「いや、別のとこだ。多分、他のパーティーも同じ感じだろうな」


 ヒーラーを探している彼を横目に、男性に連れられて、三人は目的地へと向かった。

 案内されたのは、冒険者ギルド近くだった。そして、ライラの眼前に映るのは、肩口にひどい裂傷を負ったヒーラーだ。建物の壁にもたれかかって上体を起こしているが、自力で動ける様子ではない。ヒーラーが自ら止血だけは済ませたのだろうが、ひっかき傷が痛々しいままだ。


「ひどい傷です……これ、何にやられたんですか?」

「黒い影だよ」

「黒い影?」


 アインは、聞き慣れない名前に首を傾げた。むしろ、黒い影という名前だけでは素性を察することもできない。


「ミーシャ、黒い影って?」

「私も詳しくは知らないわ。強い魔物だとは聞いたことがあるけれど……」

「知らないのも無理はない。あいつら、秋にしか現れない魔物なんだ。秋になると、山に入った人を襲ったり、食べ物を勝手に食べたり。今日、急に寒くなったから上着が売れてるだろ? ラビットファーが値上がると見越して山に向かったら……」

「いたんですね、黒い影が」

「そういうことだ。しかも、やっかいなことに、人里に現れることもあるらしい。治してもらっている手前、えらそうなことは言えないが……お前らも気をつけろよ」


 忠告を受けた三人は、ヒーラーを治療してから、情報収集のために冒険者ギルドに向かった。案の定、中は大層慌ただしい。黒い影の対応に追われているのだろう。


「で、ギルドには、黒い影の目撃情報がたくさん、と」

「まず、素性が分からないですからね。被害報告もたくさん上がっているみたいです」

「この分だと、混乱してて何体いるかもよく分かってないかもな」


 もしかしたら、この数日、街から出た途端に黒い影と対面することになるかもしれない。それだけは避けたかった。


「すみません、黒い影の情報、ありませんか?」

 アインは、受付の女性に声をかけた。

「黒い影ですか? 情報が乏しいので、スケッチくらいしか提供できないのですが……」

「それでも助かります」


 受付近くのテーブルに三人揃って座ると、すぐに受付の女性が数枚のスケッチを持って来てくれた。

 そこには、黒い何かが描かれている。その横に、メモとして、先ほど男性から聞いたのと同じく「秋に出没する魔物」と書き込まれていた。どうやら四つ足の魔物で、四足歩行だけでなく二足歩行もできるらしい。前足に爪があって、それで被害を受ける人が多いのだという。

 そして一枚、妙に精巧に描かれている黒い影に、アインは驚いた。立ち上がって、手を上げて威嚇する姿に見覚えがあった。


 秋にしか現れない。山に生息している。立ち上がることができて、爪が鋭い。黒くて毛むくじゃら。

 情報を集めて、アインはひとつの答えにたどり着いた。


「……これ、熊じゃないか?」

「クマ、ですか?」

「えっと、こっちだとラビットって言ってるから、ベアーでいいか。ラビットと同じで、動物型の魔物だよ。寒さに弱くて、冬眠する習性があるから、その手前の秋に行動が活発になるんだ」

「なるほど。それなら、有効な手段はありそうですね。寒さに弱いなら、ミーシャにも氷魔法をお願いして……あれ、ミーシャ?」


 ふとミーシャに視線を向ければ、ミーシャはこくりこくりと船を漕いでいた。


「本当に珍しいな。ミーシャがここまで油断してるなんて」

「そうですね。いつもきりっとしてて、うたた寝なんて……あっ!」

「どうした?」

「アイン、それですよ。寝ているときに、黒い影を倒せるんじゃないですか!?」

「寝ているときって、黒い影が?」

「そうです。みんな、ラビットと同じような魔物だって知らないから、対処方法が分かっていなかっただけで……ミーシャ、起きてください。黒い影が倒せますよ」


 ライラがゆらゆらとミーシャの肩を揺らして起こすと、朝と同じくぼんやりとした様子で、ミーシャは首を傾げた。


「……ん? たおせるの?」

「はい。そしたら、きっとラビットの毛皮も手に入るようになります。そしたら、上着も出回りますよ」

 それを耳にした途端、ミーシャはぱっと目を見開いた。

「じゃあ、討伐する」


 二人が乗り気であれば、勝機がある限り、アインも無碍にはできない。大人しく、討伐に賛成することにした。


 夜、無事に街に一番近い山にたどり着いた三人は、黒い影を視認した。人間の三倍はありそうな黒い図体が、四本足でのそのそと歩いている。そしてアインはこの目で見て確信した。あれはどこからどう見ても、熊である。


「寝ていると思ったんですが、起きてますね……まだライラたちには気づいていないみたいです。見つかっていないうちに、奇襲をかけますか?」

「奇襲をかけるにしても、先に氷魔法ね。アインはライラのこと、よろしく」

「分かってる。……正直、ライラだとリーチが足りなさそうだけど、大丈夫か?」

「うう……あんなに大きいとちょっと自信がないです。ミーシャが黒い影の動きを止めてくれたらなんとかなるとは思いますけど、ライラが真っ正面から向かうのは難しいですね」

 ライラは、得物である二対の短剣を取り出した。彼女はヒーラーである一方で、短剣の使い手、いわば攻撃役だった。図体の大きい相手には分が悪いから、先にアインとミーシャがなんとかするしかない。


 ミーシャが杖を構えたのを合図に、アインが黒い影の前に立ちはだかる。

 アインの姿を捉えた黒い影は、素早く二本足で立ち上がると、腕を振り上げた。真っ正面から殴りかかってくるそれをどうにか盾で弾けば、爪と盾とが勢いよくぶつかる音がけたたましく鳴り響いた。

 同時に、黒い影の肩に霜が降りる。ミーシャが氷魔法で凍らせようとしたようだが、それにしては威力が足りなさそうだ。


 黒い影はその冷たさに驚いたのか一瞬だけ怯むものの、また腕を振り上げる。アインは再びそれを弾いた。アインが反撃を仕掛けるには、少々ベアーの動きが速すぎた。

 裂くような痛みこそないが、重い一撃は盾からアインに振動を伝えて、腕に軽くしびれをもたらす。しかし、それは黒い影も同条件だ。むしろ、爪の根から先は生身当然だから、向こうの方が衝撃が強いはず。


――なのだが、氷魔法には怯むものの、盾の硬さには特に気にならないようで。

 両手を振り上げるものだから、アインは慌てて距離を取った。空振りになった隙に、もう一度ミーシャが氷魔法を放つ。


 魔法は無事に命中して、黒い影の全身を凍らせた。その途端に、ビッグベアーは身体を震わせる。水を振り払うかのように、氷をパラパラと地面に落としていった。動きを止めることこそできないものの、氷の冷たさに気を取られてしまうくらいには、有効な一手なようだ。


「凍らせるのは無理かも!」

「そしたら氷が残ってれば、もう少し怯んでくれるかも。……ミーシャ、ベアーの足元に魔法、撃てるか!?」

「足元ね!?」


ミーシャが魔法を勢いよく発動させた。黒い影の足元に、氷が出現する。足元に障害物が急に出てきた上に後ろ足が冷えるせいか、黒い影が吠えた。


「で、俺が……ベアーを氷ごとバリアで閉じ込める!」

「閉じ込めてどうするの!?」

「氷に過剰に反応するから、その冷気で動きを鈍らせる」

「なるほどね? ……それなら、ギリギリまで撃つわ!」


 冷気で怯んでくれたら御の字だ。氷の塊の一つが足に当たり、黒い影がバランスを崩しかける。それを見計らって、ミーシャが一つ二つと氷を増やしていく。

 攻撃する隙を生み出そうとしている二人と黒い影の様子をうかがっていたライラは、ふと口にした。


「もしかして、転んでくれるんじゃないですか?」

「そのもしかしてがあるといいな。……バリア!」


 本来であれば、味方を守るためのバリアを、あえて黒い影にかける。その瞬間、黒い影は見えない壁に当たって、氷を踏み、それで足を滑らせた。

 大きな図体が地面に倒れ、地面を揺らす。打ち所が悪かったのか、痛がって四本の足をひたすら暴れさせながら悲鳴を上げているが、起き上がる様子はなかった。それどころか、バリアの内側に霜が張り付くと同時に、だんだんと動きが鈍くなっていく。


 アインがミーシャの様子をうかがえば、まだ魔法を発動しているのか、黒い影に向けて杖を構えたままだった。


「……ミーシャ、何かしてる?」

「局所的に吹雪を降らせる魔法」


 まだ集中しているのか、ミーシャはそれだけを返した。いよいよ、黒い影は寒さの限界に達したのか、その四肢を地面に投げ出した。


「ライラ、いけるか!?」

「……いけます」


 ライラの宣言と共に、アインはバリアを解除した。動かなくなった黒い影とどめを刺すために、ライラはゆっくりと近づいて、獲物の喉を掻き切った。

 完全に動かなくなったのを確認して、三人は安心したとばかりに息を吐く。


「た、倒せた……!」

「ミーシャに一番負担がかかりましたね。ミーシャ、大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど、何体も相手をできるわけじゃないわね……」

「いいんじゃないか? 他にはいなさそうだし」


 改めて、三人は黒い影の状態を確認した。倒してしまえば、黒い影は三人のものだ。


「そういえば、上着なら、この毛皮で作れるんじゃないか? 俺たちの世界では、ベアーも毛皮にして着てるよ」

「いいですね! この大きさなら三人でお揃いにできますし」

「え、私は嫌よ」


 アインとライラが乗り気になるも、ミーシャはばっさりと切り捨てた。


「同じ毛皮なら白いラビットファーの方がいい」

「黒もかっこいいじゃないですか! ね?」

「ライラだって、本当は狐火の上着の方が好きでしょ?」

「うっ、それもそうですね……」

「でも、みんなが倒したことのない黒い影で作った上着なら、みんな注目するんじゃないか?」


 自分たちで協力して、しかもミーシャが表立ってがんばったことにより狩ることのできた未知の魔物という存在は、きっと大きいに違いない。そう踏んでアインがたずねてみれば。


「……絶対に、来年はラビットファーの上着を手に入れる!」


 負けたとばかりに、ミーシャが吠えた。つまりミーシャが何が言いたいのか。それを汲み取り、アインは笑ってみせた。


「今年はちゃんと着てくれるんだ」

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