3-15.六歳児の暴挙
馬の背に荷物を載せ、厩の外に出ると、ふたりは外套を羽織る。
「お嬢様、わたしが以前に着用していたもので申し訳ないのですが、こちらをお召しください」
「えっと……」
カルティが子ども用の外套を手に持っていた。
状況がわからずぽかんとしているあたしに、ライース兄様が外套をかける。
外套の紐をしっかりと結ぶと、あたしの顔を覗き込む。
「いいか? 勝手な行動はするなよ?」
「あの……ライース兄様?」
「これからわたしはカルティと青い『バーニラーヌ』の花を探しにいく。わたしとの約束を守ることができるのなら、一緒につれていってやる」
「ホントウですか?」
「ああ。鞍なしのミリガンに乗って追いかけられても困るからな。勝手な行動はするんじゃないぞ?」
ライース兄様……鋭すぎる。
「しません! カッテナこうどうはしません!」
こうして、あたしたち三人は、青い『バーニラーヌ』の花を求めて屋敷を抜けだしたのであった。
**********
夜道をローマンとセンチュリーが走る。
先に行くのはセンチュリーにまたがったカルティだ。
その後をライース兄様が追いかける。
整備された街道をけっこうなスピードで駆け抜ける。
道に迷ったカルティは、青い花が咲いていた泉のそばで野宿したという。
朝に目覚めてみたら、たくさん咲いていた青い花は全てしおれてしまっていたと、あたしとライース兄様に説明した。
カルティはあくまでも『青い花』と言い、青い『バーニラーヌ』の花とは絶対に言わなかった。
もし、違う花だった場合の処世術だ。
さすが、逃げのカルティだ。
出立前のライース兄様とカルティの会話を思い出す。
馬の準備を終えると、あたしが拝借していた宝の地図っぽい地図でライース兄様はカルティにおおよその道順を確認しはじめた。その時の会話である。
「カルティ、朝には全ての花がしおれてしまっていたのだな?」
「はい。夜に見たときは、一面に咲いていたのに、目が覚めたら一輪も咲いていませんでした。まるで、夢をみていたかのようでした」
「夜にだけ咲く花か……。一日で散る花であるのなら、急いだ方がよいかもしれないな」
「わかりました」
「ところで、墓参りに行ったのは去年のいつ頃だ?」
(あ、開花時期か)
「八月の中頃です」
「そうか。八月か。少し、時期がずれているな……」
そうです。
色々と時期がずれています。
本編ではないとはいえ、この微妙なズレは無視してよいものなのだろうか。
とはいっても、あたしにはどうすることもできない。
ゲームの内容を思い出せたら、それを参考にしつつ、臨機応変に対応していくしかないだろう。
カルティが道を覚えていますように。
青い『バーニラーヌ』の花がちゃんと咲いていますように。
花を持ち帰るまでお祖母様の容体が悪化しませんように。
この世界の『おばあちゃん』にはまだ生きていて欲しい。
ローマンに乗せてもらっているあたしには今のところ祈ることくらいしかできない。
馬に乗ったときに、あたしはライース兄様に帯でお互いの身体を縛られてしまった。
道中、あたしが眠って手綱を離し、落下しても大丈夫なように、お互いを縛っているわけだ。
いわゆる命綱的なものかな?
綱ではなく、綺麗で高そうな帯だったけど。
いつも以上にライース兄様との隙間がなくなって心臓が暴れているが、こうしないと連れて行ってくれないとなると、我慢するしかない。
これだけ揺れていたら寝ないとは思うけど、数時間もの乗馬はまだ未体験だ。
疲れて手綱を離してしまうことだってありえる。
ホント、ライース兄様って心配性なんだから困るなあ。
馬に乗ること数時間。
あたしは眠ることもなければ、手綱を放して落馬することもなかった。
森の中の整備された街道を二頭の馬が駆け抜ける。
と、不意に前方を走っていたセンチュリーのスピードが落ちてくる。
そして止まった。
「若様、ここになります」
「そうか」
目の前には、分かれ道。
真新しい道標が立っていた。
「道標が老朽化で倒れてしまっていて、本来は右の道だったのを、間違えて左の旧道に進んでしまいました」
「歩いたのか?」
「いえ。馬です。新しい街道ができたので、こちらの旧道は使用されなくなったようで、道が途切れている箇所もありました」
「そうか。それで迷ってしまったのだな。レーシア、疲れていないか?」
ライース兄様たちは疲れていないのだろう。
ローマンとセンチュリーも元気そうだ。というか、まだ走り足りませんとでもいいたげに、脚を踏み鳴らしている。
あたしが「疲れた」と言えば休憩をとるのだろう。
「ライース兄様、あたしは大丈夫です! 眠くもありません!」
あたしの元気満々な返事に「普通は眠くなるはずなのだが」と苦笑するライース兄様。
夜に秘密のトレーニングとマル秘ノートを作成しているあたしは、まだ大丈夫だ。起きている時間です。
「では、それぞれ明かりを用意して、慎重に進んでいこう」
「わかりました。用意します」
帯で固定されているあたしたちにかわって、カルティが荷物の中から魔道具の携帯ランプをふたつとりだす。
「あ! ライース兄様!」
「どうした? レーシア?」
「あたし、メイキュウコウリャクのアイテムをじさんしました!」
「めいきゅうこうりゃくのあいてむ?」
ライース兄様とカルティは顔を見合わせ、首をかしげる。
若いライース兄様と幼いカルティ!
はふぅ! ふたりの間に、見えない強固な絆が見えたような気がする。
あたしはポシェットの中をがさごそとひっかきまわす。
ハンカチにティッシュ。
そして……。
「じゃじゃじゃじゃーん! くらくてもピカピカ光るヌノキレです!」
前世の感覚でいうところの、三十センチ定規くらいの幅、長さに切った布の束をむずっと掴み上げる。
「……レーシア?」
あたしは振り返ってライース兄様を……身体が動かないので、頭を後ろに倒して、ライース兄様を見上げる。
ライース兄様の顔が固まっている。
「この、くらくなると光るヌノキレを、ワカレミチとなる場所の木のエダにくくりつけて、メジルシにするのです!」
「なんだと……」
カルティがあたしを驚きの眼差しで見ているよ。
なにもできない六歳児と思っていたんだろうけど、違うからね!
「ライース兄様! これをメジルシにしておけば、いちどとおった道がわかります。ヌノをたどれば、帰りはまよわずにもどれます」
「レーシア……」
「はい?」
感動のあまりライース兄様がプルプルと震えている。
「その布……どこで、その布を……その布の元の形は覚えているか? 」
魔道具の明かりがライース兄様を不気味に照らしている。
「はい。あたしの衣裳部屋でみつけました。まっくらなのに、イッチャクだけ、ピカピカと光っているドレスがあったのです!」
前世でいうところの、蓄光布で作ったドレスなのだろう。
これを着て夜道を歩いたら、めっちゃ安全そうだ。
まあ、光加減は、蓄光布よりもとても上品で、ケバケバしたものではなかったが、蓄光布よりもキラキラと星屑のように光り輝いている。
エレクトリカルパレードの衣裳のようだった。
あたしはそのドレスをハサミで切り刻んだのだ。
「れ、れ、レーシア、あのドレスはだな……」
「はい?」
「レーシアのお披露目会のときに着るようにと、王都の父上がわざわざ手配したものだ」
「そうだったのですね。でも、ドレスはまだたくさんありますよ?」
「バカ! あのドレスは、カッシミーヤ国産の貴重な布で作ったドレスだ! 一着の値段がどれだけすると思っているんだ!」
ライース兄様の反応に、カルティが一歩、二歩と後退していく。
「え? かっしみーやこく?」
「そうだ。カッシミーヤ国産の夜光石を砕いて糸に混ぜこみ、織りあげた貴重な布だ! 平均的な平民の一家の生活費百年分相当のドレスだぞ!」
「え? ええええっ!」
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