3-14.カルティ裏切る!
素直なライース兄様と違い、カルティはやたらと反論が多い。
無口ではないが、ゲームでは寡黙なミステリアスなキャラだったのに、どういうことだろう。
「お、お嬢様…………」
「お祖母様を助けたかったら、あたしの言うことを素直にきく!」
「は、はい!」
強引にカルティを書庫から連れ出すと、廊下へと追いやった。
「あたしも部屋でキガエをしてきます。カルティはニヅクリをなさい」
「お嬢様、それは……」
「いいですか、ぜったいに、オトナたちにみつからないようにするのですよ!」
「え! まさか、黙って外出なさるというのですか!」
「トウゼンです。オトナタチにみつかったら、外にだしてもらえなくなるでしょ!」
カルティはそんなこともわからないのか!
「そして、ウマヤにシュウゴウです!」
「え? えええ――っ! お嬢様!」
涙目のカルティを廊下に残し、あたしは速攻で自分の部屋に戻った。
****
あたしは素早く準備を整えると、集合場所の厩に向かってそろそろと歩いていた。
お祖母様の急変で屋敷内は慌ただしかったが、誰にも見つかることなく、あたしは外に出ることに成功した。
いつもなら寝る準備をしている時間だ。
動きやすい服装、山や森の中に入っても大丈夫な服装……はクローゼット、いや、衣裳部屋の中にはなく、予備の乗馬服に再び袖を通す。
斜めがけしているピンクの大きめのポシェットには、マル秘ノートやハンカチ、ティッシュなどが入っている。
六歳児の侯爵令嬢の部屋に、薬草採取に必要な道具などあるわけがない。
外出時に必要なアイテムを物色したのだが、ハンカチとティッシュくらいしか思いつかなかった。
六歳児思考補正で、お気に入りのぬいぐるみをもちださなかっただけ、褒めて欲しいくらいである。
ふと気づくとうさちゃんぬいぐるみを抱っこしていたのだ。もう少しで持ち出すところだった。危なかった。
こういうとき、ファンタジーではフードつきの外套なるものを羽織るが、そのようなものもあたしの衣裳部屋の中にあるはずもない。
あるのはキラキラ、ヒラヒラした素早さマイナス補正のらぶりーなドレスばっかりだ。
乗馬服があっただけ奇跡ともいえる。
この先寒くなるから、とフワフワしたもっこもっこな毛皮のコートが数着用意されていたが、さすがにそれを着ようとは思えなかった。
よく気が付くカルティが、いかにも隠密行動めいたカッコいい外套を準備してくれていると思いたい。
夜も更けていたが、この世界の月はずっと満月で、しかも月が三つもある。
明かりがなくても夜はそこそこ明るい。
さらに防犯のためか、権威を示すためか、屋敷の敷地にも魔道具の照明があちこちに設置されて淡い光を放っていたので、暗闇に苦労することはない。
「カルティはまだかな?」
厩の外には誰もいなかった。
念のため、厩の中に入ってみる。
さすがに厩の中は月明かりだけだ。
馬はたくさんいたが、カルティの姿はない。
ふたりぶんの外出準備に手間取っているのだろう。
なにしろ八歳だから。
お祖母様の容体が急変しないとも限らないので急いだほうがよいのだが、準備を急いで大人たちに見つかっては大変だ。
特に、ライース兄様に見つかると、なにかと面倒だ。
ここはゆっくりでいいから、人目を避けて慎重に行動して欲しいところである。
本編では、主人公が急いで準備をすると、護衛の兵士たちに見つかってしまう。
結果、夜間の外出をみんなから止められて、青い『バーニラーヌ』の花が採取できずに、イベントが失敗するのだ。
あたしに気づいたミリガンが「ブルルル!」と鼻を鳴らすので、そちらの方に移動する。
「ミリガンちょっと静かにして。うるさくしたら見つかっちゃうから」
人差し指を口元に突き立て「しー」っとすると、ミリガンは静かになった。
うん。賢いなぁ。こちらの世界の馬は人間の言葉がわかるのだろうか?
「お嬢様……」
背後から聞こえるカルティの声。
やっと来たか。
準備に時間がかかりすぎ。
「カルティ、遅かったじゃ……」
後ろを振り返ったあたしの顔が固まる。
どこになにをしに行くのですか? と聞きたくなるくらいの大きな荷物を抱えるカルティ。
……と。
もうひとり。
「ライース兄様!」
憤怒の形相のライース兄様が、カルティの背後に守護神のように立っていた。
すごく怖い。
「レーシア!」
「はひぃ!」
馬も黙らせるライース兄様の一喝。
「子どものおまえが、こんな時間からなにをしようというのだ!」
「あ、え、その……」
「カルティを脅迫して、青い『バーニラーヌ』の花を捜しに行こうなど、なにを考えている!」
(ば、バレてるっ!)
「お、お祖母様のご病気を治すことを考えています!」
「わたしが言いたいのはそういうことではない! どうして、いつも、いつも、レーシアは勝手な行動をとるのだ!」
大きな雷が落ちる。
「おまえは自分の立場というものをわかっているのか! おまえは侯爵家の令嬢だ。領主の娘だ。多くの人に生かされ、将来はその者たちの献身に応えねばならぬ身となる者だ。自重しろ。自覚しろ! もっと、己の身を大切にしろ! 幼いからといって、なんでもやっていいというわけではない! いや、幼いからこそ、大人たちの言うことをきかなければならないのだぞ! なにかが起こってからでは遅いのだ!」
どうしよう。ライース兄様の説教が止まらない。
というか、ライース兄様から領主一族の心得なるものを説教されるとは思ってもいなかった。
家督を継ぐのが嫌で色々と問題行動をとっていたキャラなのに、なぜ、こんな真面目で融通がきかない子になっちゃったんだ!
運営が泣くよ!
「レーシア! 聞いているのか!」
……すみません、聞いていませんでした。
カルティ! どうして、よりにもよってライース兄様にちゃっかり見つかっているの! ドジっ子キャラじゃなかったでしょ!
「まったく、反省しているようにも見えないな。カルティに見張らせていたからよかったものの……。侯爵家の令嬢が、夜にこっそり屋敷を抜け出すなど……なにを考えているのだ!」
「ちょっと! カルティ! ライース兄様に告げ口したの!」
カルティがそっと視線を逸らす。
なんてこと!
あたしってば、カルティに裏切られたよ。
「告げ口ではない、カルティはわたしに報告しただけだ」
ライース兄様は不機嫌そうな顔で腕を組む。
あ……。そういうことか。
あたしとカルティの親密度が低かったから裏切られた。
いや、カルティとライース兄様の仲間密度が親密度以上に高かったから、ふたりは結託したのかもしれない。
しかし、ここで黙って引き下がるわけにはいかない。
お祖母様の生死がかかっているのだ。
「ライース兄様! カルティが青い『バーニラーヌ』の花が咲く場所を知っているのです!」
「いえ、お嬢様、あの場所は道に迷って偶然発見しただけで……」
「ライース兄様! 青い『バーニラーヌ』の花が、お祖母様のご病気を治すキセキのおくちゅりなのです! おねがいです。このまま見逃してください! 探しに行かせてください!」
「お嬢様、わたしが見たのは『バーニラーヌ』によく似た青い花であって……」
カルティいちいちうるさいよ。
今はわずかな可能性にもすがりたいときなんだから、ちょっと静かにしてくれないかな!
あたしとカルティの発言に、ライース兄様は溜息を吐きだす。
「ふたりとも静かにしなさい。あまり煩くすると馬たちが興奮するぞ」
「…………」
いえ、一番騒がしいのはライース兄様ですよ。
「ここで言い争っていても仕方がない。カルティ、急いで準備をするぞ」
「わかりました。ですが、本当に、よろしいのですか?」
「ああ、かまわない」
そのような会話を交わしながら、ふたりは厩の中を忙しく行き来しながら、ローマンとセンチュリーの馬装を整えていく。
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