3-13.情報提供者が現れました
「あった。これだ!」
あたしが書棚からとりだした立派な本は植物図鑑。植物図鑑は他にもあったが、この地方で育つ植物にスポットをあてて、詳細情報が載っている図鑑だ。
絵本がだめなら植物図鑑だ。
手掛かりになるような情報が載っているかもしれない。あたしは後ろの索引から『バーニラーヌ』の項目を探しだし、ページを読み始める。
この植物図鑑には植物の特徴や分布、開花時期などの情報が記されている。
栽培可能な場合は、その方法まで書かれている。
『バーニラーヌ』の花の色は白と書かれており、どこにも青い花の情報は載っていない。
当然のことなんだけど、ちょっとした奇跡を期待していたので、がっかりしてしまった。
そんなに世の中は都合よくできていなかった。
がっかりしながらも、普通の『バーニラーヌ』について調べる。
水辺と冷所を好む植物で、山野の水辺や湿地などでよく見かけるそうだ。
水の管理に注意すれば、栽培も可能と書いてある。
(なるほど――。泉か)
確かに、スチルの背景は水辺だった。
蛍っぽいものも飛んでいた。単なるキラキラエフェクトかと思っていたんだけど、水辺の昆虫かもしれない。
主人公はこの屋敷から夜中頃に馬ででかけて、暗い時間帯に泉に到着していた。花を捜すときにライース兄様と密着ドキドキイベントが発生して、昼までには屋敷に戻っていた。
「カルティ。リョウチのくわしい地図をみせて。このしゅうへんの地図。川とか泉がわかる地図がいいな」
「わかりました」
カルティが地図がしまわれている棚をがさごそと捜し始める。
地図が見つかるまでの間に、あたしは領内の河川や水利関連の本を探す。
「お嬢様、地図はこれでよろしいでしょうか?」
「うん。ありがとう」
カルティが見つけ出した地図は、この地方の拡大地図だ。絵地図というか、宝の地図みたいな眉唾な精度だけど、これがファンタジーらしさの演出なんだろう。
国盗りや領地開拓をするわけではないので、精度には目をつぶる。
馬で三から四時間走ったところに、蛍っぽいものが生息する泉があれば、そこが青い『バーニラーヌ』の群生地である可能性が高い。
といいたいところだけど、地図に載っている泉の数が多すぎる。
(なんでこんなに泉があるのよ!)
この数をひとつひとつ回って確認するのは至難の業だ。
というか、この地図の精度がどの程度のものなのかもわからないので、適当に「この辺りに泉があったらいいかも」などといったノリで泉を書き込んでいたらお手上げだ。
まあ、領主が所有する地図であるから、ある程度は信頼してもいいだろうけど。
「お嬢様、なにを調べていらっしゃるのですか?」
領内の水利資源について記された難しそうな本を読み始めたあたしに、カルティが遠慮がちに声をかける。
「ここから馬で三、四時間くらいの場所にある泉をさがしているのよ」
「泉ですか?」
「うん。『バーニラーヌ』は泉でそだつと、しょくぶつずかんにかかれていたからね」
「そうなのですか?」
カルティの視線があたしから、床の上に広げられたままになっている植物図鑑へと移動する。
「あれ?」
植物図鑑を読み始めたカルティは首を傾げる。
「カルティ、どうしたの?」
「いえ。これが『バーニラーヌ』の花ですか?」
「そうよ。ずかんには白い『バーニラーヌ』の花しかのっていないけどね」
「そうなのですか? これによく似た色違いの花を見たことがあります」
「いろちがい?」
「はい。白ではなく、青い花でした」
「…………」
な、なんですとおっ!
カルティが青い『バーニラーヌ』の花が咲く場所を知っている?
「カルティは青い『バーニラーヌ』の花をみたの?」
「はい。昨年、両親の墓参りでお休みを頂いたときに、近道をしようとして道に迷って……そのときに、この形の青い花がたくさん咲いているのを見ました」
驚いた。
ライース兄様ではなく、カルティが青い『バーニラーヌ』の花とご対面していたよ。
「どこ! どこなの! カルティ、それはどこでみたの? さっさとその場所を教えなさいよ!」
「え……?」
あたしの質問にカルティは困ったような顔をする。
宝の地図っぽい地図を見ながら、う――んと唸り声をあげながら考え込んでいる。
あたしの期待のこもった眼差しにとまどいながらも、カルティは地図を指さす。
「ここが、別荘地で、このあたりに両親の墓がありますので、おそらく迷ったのはここでしょうか?」
と言いながら、ぐるりと指を動かす。
なかなか大きくて思い切りのよい『このあたり』だった。
うん。
方角がわかった程度だね。
まあ、カルティの年齢はあたしよりもふたつ上の八歳だ。
八歳にしては優秀だが、八歳に色々と期待するのは間違っているだろう。
夜の暗闇の中で方向感覚を失い、野営できる場所を求めて、途切れがちな獣道をぐるぐると彷徨った末に、ようやくたどり着いた場所だという。
泉の景色は覚えているが、そこまでの道は覚えていない。また、次の朝には街道に戻ることができたのだが、その道のりも覚えていないという。
八歳だもんね。
よく遭難しなかったよね。
ゲーム本編のライース兄様は、ヒロインをばっちりエスコートしたんだけど、八歳のカルティは大丈夫かな。
いや、あやふやな記憶は、衝撃を与えたら鮮明に蘇るというのが、エンターテイナー向けの展開だろう。
ここはあたしがやるしかない!
「カルティ! サイゴノシュダンです! こうなったら、げんばに行きましょう!」
「ゲンバとは?」
「もちろん、カルティが道にまよったバショです」
「ええええっ!」
「オハカに行く道はおぼえていますよね?」
「もちろんです」
去年の話だから、道順は覚えているだろう。でないと、ひとりで墓参りに行こうなど思わないはずだ。
「まよった場所も、トウゼンおぼえていますよね?」
忘れましたって言ったら、ぶん殴るから。
「はい。まあ、道の選択を間違った場所ならわかりますが」
屋敷の中で悶々としているよりも、カルティが道に迷ったあたりをウロウロする方がいいにきまっている。
「だったら、いそぎましょう」
「なにを急ぐのですか?」
「もちろん、出発のジュンビです。早くでかけるジュンビをして」
と言いながら、あたしは本を片付けはじめる。
まあ、一応、宝の地図は拝借しておこう。
「お、お嬢様、でかける準備って……」
カルティの顔色が真っ青だ。
「いろいろあるでしょう。マヨナカの山道、森のなかから泉をさがすのです。それなりのジュンビがヒツヨウでしょう?」
「それなり……って、いえ、お嬢様、まさか花を捜しにでかけるのですか!」
「とうぜんです。カルティはお祖母様のご病気をなおしたくないのですか?」
「治したいですよ!」
そうだろう。カルティはお祖母様がとても大好きだもんね。
おそらく、孫であるライース兄様やあたしよりも、お祖母様のことを慕っているんじゃないだろうか。
「だったら、でかけましょう。さっさとふたり分の外出ジュンビをするのです」
「ふたり分? 誰と誰ですか?」
「もちろん、あたしとカルティよ! ごリョウシンのオハカマイリにでかけたとき、カルティは手ぶらだったのですか? その服で向かったのですか?」
「いえ。食料とか水とか、旅装ですし、一応、野宿の準備や……」
そこまで言いかけて、カルティはとても嫌そうな顔をする。
「青い『バーニラーヌ』の花はわたしが捜しに行きますので、お嬢様はお屋敷に」
「いやよ! あたしだって、お祖母様がシンパイなの! それに、サガシモノは人手が多いほうがみつかりやすいのよ」
「ですが……そのようなことをお嬢様がなさる必要はございません」
「うるさい! うるさい! うるさ――い!」
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