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3-7.デイラル先生の診断

 書いては読み返して、さらに文字を書き加え、ときには訂正線を引いて書き直したりしながら、ライース兄様は手紙を書き上げる。


 よほど急いでいるのか、手紙を清書することなく、そのまま紙を折って封印を施してしまった。封印も身内でのやり取りを主とした略式タイプだ。


 ライース兄様はきびきびとした動作で席を立ち、鍵付き戸棚の前に移動する。

 いくつかの複雑な操作の後に扉を開けて、棚の中から鳥の置物をとりだしていた。

 鳥の大きさは……前世の鳥でいうところの鳩くらいか。

 

 鍵付き戸棚の中にしまわれていたのは、機械仕掛けの鳥だった。

 からくり人形ならぬ、からくり鳥だ。


 この鳥には見覚えがある。

 フレンドからメッセージやギフトが届いたときに、画面に表示される通知アイコンが、この機械仕掛けの鳥なのだ。


 ちょっとふざけたような表情をしており、そのアイコンをみるたびにほっこりしたのだが……こちらの世界で実際に立体化されたものを目にすると、あまり可愛げのない、歯車やゼンマイで動く鳥型のオブジェだった。


 ライース兄様は、慣れた手つきで鳥の右足にセットされている筒の中にさきほどの紙を入れると、筒の蓋を閉める。

 そして、鳥の額にはめ込まれている魔精石に己の指先を当てる。


 しばらくすると鳥の目に光が灯り、羽がバサバサと音をたてて動きはじめた。

 機械仕掛けの鳥は、ライース兄様の魔力が充填されて動き始める。

 バサバサと煩い羽音をたてながら羽ばたくと、ライース兄様の肩に止まった。


 部屋の窓を開け、機械仕掛けの鳥に向かって「デイラル先生のところへ」とライース兄様が言うと、鳥は飛び立ち、窓から外の空へと飛んでいった。


 これがこの世界の情報伝達手段である。


 機械仕掛けの鳥に魔精石を埋め込み、それを動力源にして動かしているのだ。

 このようなものが作れるのなら、ロボットや、それこそ人間を乗せて空を飛ぶ機械仕掛けの乗り物とか、地上を高速で走る機械仕掛けの乗り物が作れそうなのだが……。

 それはそれ、これはこれ、というらしく、そういう便利乗り物は、ゲームにも、そして、この世界にも存在しない。


 鳥に使用されている魔精石は、とても小さなサイズで、大量の魔力を含む純度の高いものらしい。

 そのような魔精石はびっくりするくらい高額で、産出量も少ないらしい。


 外側だけは作れても、それを動かすことができるだけの動力源――魔精石――が手に入らない、存在すらしていないから実用化は不可能ということなんだろう。


 なので、あの鳥もすぐに壊れてしまいそうな玩具っぽく見えるけど、めっちゃくっちゃ高額で貴重な魔導具なのだ。


 なので、急ぎでもない場合や、一般の人などは、人力……ようは、飛脚だったり、荷馬車だったりでやりとりする。


 入手困難な人気魔導具なので、登録しておいた相手に手紙を運ぶという本来の機能以外にも、盗難防止機能やら攻撃に対する反撃機能なども備えている。

 よって、さらに値段は高くなるし、魔精石も高品質な物が必要となってくる。


 王家はもちろんだけど、アドルミデーラ家を始めとする上級貴族たちが使用している機械仕掛けの鳥は、そこらの騎士よりも強い戦闘力を持ち、機密文書をやりとりしているという、なんとも奇妙で矛盾した世界設定となっていた。


「デイラル先生にお祖母様の様子を伝えておいた。すぐに駆けつけてくださって、適切な処置をしてくださるだろう」


 鳥が戻って来られるように窓は開けたままの状態で、ライース兄様はあたしの隣に座る。ゆっくりとあたしの頭を撫でる。


「大丈夫。デイラル先生は名医だ。今まで、たくさんの病気を治してこられたかただ。先生さえ来てくだされば、お祖母様は大丈夫だ」


 ライース兄様は自分自身に言い聞かせるかのように何度も何度も「大丈夫だ」を繰り返す。


 あたしの胸がズキンと痛む。


 ライース兄様だけじゃない。

 カルティだけじゃない。

 この屋敷にいる使用人たちはみんな、お祖母様が回復されることを願っている。

 もちろん、あたしもだ。


 この世界が本当に『キミツバ』の世界であるならば、願うだけでは死亡イベは回避できない。

 行動を選択しないといけない。

 でも、それでも、やっぱり、願わずにはいられない。


(お祖母様は元気になる。お祖母様は大丈夫だ)


 あたしとライース兄様はソファに座り、デイラル先生が到着するのをひたすら待ち続けたのであった。


**********


 ホールにある時計の鐘の音が聞こえた。

 時刻は夕方……6時だ。


 デイラル先生がカルティと共に、別荘に駆け込んでからそろそろ1時間以上がすぎようとしている。


 あたしとライース兄様、そしてカルティは、応接室でデイラル先生の診察が終わるのを待っていた。


 カルティが冷めてしまった紅茶を淹れなおしてくれたが、あたしもライース兄様も紅茶には手をつけず、ただソファに座って待ち続ける。

 紅茶の他にも小さめのサイズのサンドウィッチやビスケットパンなどが添えられていたが、手つかずのままだ。


 一度、爺やが夕食はどうするのかと尋ねてきたが、ライース兄様はデイラル先生の診察が終わってからと追い返していた。


 じりじりとした時間が過ぎていき……あたしのお腹が「くぅ……」という情けない音をだしたとき、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


 応接室の扉が開き、爺やに案内されてデイラル先生が応接室に入ってくる。


「デイラル先生! お祖母様の容態は……」


 カルティが用意した紅茶を一口飲み終わったデイラル先生に、ライース兄様が質問する。


 デイラル先生は眉根を寄せ、もう一口、紅茶を飲むと、カップをソーサーの上に戻した。


「サディリア様ですが……」


 と言いかけて、デイラル先生はあたしの方にちらりと視線を向ける。

 爺やとカルティが退出しようと動きをみせたが、ライース兄様は右手を挙げてふたりを止める。


「かまわない。続けてくれ」


 使用人やちっこい子どものあたしは追い出されるのかと思ったけど、同席が許された。

 それは……どういうことだろうか。


 応接室に重々しい空気が漂う。


「大変申し上げにくいことではありますが……ジェルバ様には急ぎお戻りいただくよう、お伝え下さい。それまでサディリア様のお気力が保つことを祈ることしか……わたくしにはできません」

「…………!」


 いつもの「ふぉっ、ふぉっ」笑いもなく、鎮痛な顔でデイラル先生は口を閉じる。


「どういう意味だ? 治療は?」

「申し訳ございません。もう、医師の力の及ばぬ場所に、サディリア様はいらっしゃいます。あとは、皆様、サディリア様の天高き場所への旅出が穏やかなものとなるよう、お心をお尽くしください」


 小さな悲鳴が聞こえた。

 カルティのものだろう。

 爺やは大きく目を見開き、硬直している。


「天高き場所……。そんな……お祖母様は……助からないというのか? さきほどまで気持ちもしっかりしておられ、元気でいらして……」


 ライース兄様は言葉を失い、両手で顔を覆う。


 あたしたちの前では元気そうにふるまっていたお祖母様だけど、実際はそうじゃなかったのだろうか。


 爺やが異様なほどに健康体だというだけで、お祖母様の年齢にもなれば、体力の衰えや、具合の悪いところなどがわんさかでてくるものだ。


 同世代っぽいデイラル先生だって、腰が痛いだの、目がかすんで字を読むのが辛くなっただの、疲れやすくなって往診がしんどいだのとぼやいていた。


 若くして夫を亡くした後、お祖母様はアドルミデーラ家の女帝と云われるようになるほど、女性の身でありながら領地を見事に治め、一族の頂点に立って采配を振るったという。


 女領主が認められていないわけではない。が、今でも女領主は珍しい。

 でもそれよりもずっと、ずっと昔のお祖母様の現役時代ともなると、周囲の反発もあってさらに大変だったらしい……とライース兄様が話していた。


 平気そうに振る舞っていても、相当な気

苦労、いわゆるプレッシャーやストレスがあり、それがお祖母様の寿命を縮めることになった。と考えてもおかしくはない。


 だけど……。

 それでもやっぱり……。


「お祖母様は……天命が尽きようとしているのか? それとも……ご病気かなにかか?」

「サディリア様のご容態から推察するに……」


 デイラル先生はとても言いにくそうに顔を伏せるが、ライース兄様に促されてしぶしぶと口を開く。


「おそらく、氷結晶病かと思われます」

お読みいただきありがとうございました。

お気に召しましたら、

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