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3-4.宙に舞うじゃじゃ馬

 蹄の音とともに、柵がぐんぐん近づいてくる。


「えっ! レーシア! 止まれ! 危ない!」


 ライース兄様のうろたえた声が……いや、絶叫が聞こえた。


 うん。

 ライース兄様もびっくりするくらい、いい感じにスピードがでている。

 いける!

 止まるな! ミリガン!

 このまま突撃だ――っ!


「いくよ! ミリガン!」


(ライース兄様! よそ見なんかしないで、あたしの勇姿をしっかりと目に焼きつけてくださいね!)


「わ――――っっ! レーシアぁぁっ!」

「お、おじょうさまぁぁぁぁっ! なっ、なにをぉっ――」


 ふたりの静止の声を振り切って、あたしの合図とともに、ミリガンは軽やかにジャンプする。


 タイミングはばっちりだ!


 重力から開放され、風とともに、独特の浮遊感が加わった。

 この「ふわん」とした浮遊感……癖になりそうだ。


 ローマンに比べると若干、高さが足りないが、それでも馬場の柵を越えるには十分な高さがある。


 楽しい!

 めちゃくちゃ楽しい!

 乗馬って、こんなに楽しいものだったんだ!


 なにやら背後でライース兄様とカルティが意味不明な言葉を叫んでいるけど、よく聞こえないも――ん。


 ミリガンはあっさりと柵を飛び越えてしまった。

 ちっこい馬もなかなかやるじゃん。


「やった――! ミリガン! すごい!」


 あたしの言葉がわかるのか、ミリガンは嬉しそうに嘶くと、そのまま目の前の道をパカパカと走りつづける。


 道はよくわからないが、とりあえず、目の前の平坦な道を進んでいく。

 獣道ならやばいだろうけど、人が作った道なら大丈夫だろう。


 死亡イベントが発生しないように、念のために、少しだけスピードを緩める。


 落馬による死亡ケースを防ぐためにも、乗馬スキルは早々にカンストまで極めておいた方がいいだろう。


 となると、ひたすら実践あるのみだ。

 数をこなせばなんとかなる。


 楽しい。楽しい。とっても楽しい。

 このまま遠乗りコースに突入だ。


 ……と、背後から「ドドドドドっ」という、ものすごい地響きが聞こえてきた。


「え?」


 驚いて後ろを振り向いてみると、ものすごく怖い顔をしたライース兄様と、ものすごく青い顔になっているカルティが、ローマンとセンチュリーに乗ってあたしを追いかけてくる。


「やばい……」


 あたしの回復具合をお披露目するはずが、よくわからないけど、ふたりを怒らせてしまったようだ。


 どうして、ふたりはあたしの乗馬の上達を喜んでくれないのっ!


 ローマンとセンチュリーは、砂埃をまきあげながら、猛然とした勢いであたしを追いかけてくる。


「み、ミリガン! 逃げるよ!」


 ミリガンの腹を軽く蹴って合図をだす。

 あたしの合図に、ミリガンのスピードがぐいぐいあがる。


 すぐに追いつかれるかと思ったけど、なぜかローマンとセンチュリーのスピードが徐々に落ちてきて、あたしとライース兄様の距離がまた広がっていく。


(よし、このまま……)


 逃げ切れる……と思った瞬間、ライース兄様の厳しい声が周囲に響き渡った。


「止まれ! ミリガン!」


(こわっ!)


 迫力のあるライース兄様の怒声に、思わず止まりそうになってしまった……ってあれ?


 かぱっ……ぱか……かぱ……ぱか……。


「ぶるるるう……っ」


 急にミリガンのスピードが落ち、最後には一歩も動かなくなってしまった。


「ちょ、ちょっと! ミリガン!」


(どーしちゃったの?)


 腹を蹴ったり、手綱を操ってみたりしたけど、ミリガンはピクリとも動かない。


(な、なに? なぜ?)


 石のように……公園にあるスプリング遊具のように、ミリガンはその場から動かなくなってしまった。


 ちょっと、ライース兄様! あなたは動物にも命令できるというのですか! 特技ありすぎです!


**********


 馬から降りたライース兄様とカルティが、必死の形相であたしのところに駆け寄ってくる。


 ふたりとも……ちょっと怖いよ……。


「よしっ! ミリガン! 賢いぞ。よくやった」

「お、お嬢様――っ!」


 ライース兄様に褒められたミリガンは「ぶるる」と嬉しそうに鼻を鳴らす。


 ちょっと待ってください!

 なぜに、ライース兄様はミリガンを褒めるのですか?

 褒めるのなら、素晴らしい乗馬技術を披露したあたしの方を褒めてください!


(ミリガン! あたしの命令よりも、ライース兄様の命令に従うっていうの! この……裏切り者!)


 まあ、ミリガンは牝馬だから、ライース兄様にメロメロになる理由もわからなくはない。

 さすが『キミツバ』人気ナンバーワン攻略キャラだ。

 女性のハートをがっちり掴んで離そうとしない。


 全く動かなくなったミリガンの上でプンスカしているあたしの前に、ライース兄様とカルティが到着する。


 ローマンとセンチュリーは少し離れた場所でのんびりと草をはんでいる。


 馬であたしの側まで駆けつけなかったのは、ミリガンが猛然と駆け寄ってくる二頭の馬に驚いて暴走しないように、という配慮からのようだ。


 カルティが素早くミリガンの手綱を握り、ライース兄様があたしの両脇に手を入れて、ひょいと抱き上げる。


「ちょ、ちょっと……ライース兄様!」

「レーシア! 手綱を離しなさい」

「やだ! まだミリガンとのおさんぽがのこっています!」

「遠乗りなど……誰が許可したというんだ!」


 ライース兄様の一喝に、びっくりしたあたしは反射的に手綱を離してしまう。


 そのままあたしはライース兄様に抱きかかえられてしまった。


「柵越えして、そのまま脱走など……。まだレーシアには早すぎる!」


(まだ、ということは、そのうちやってもいいんだ……)


「おい! レーシア! 聞いているのか! 勝手なことをしたらだめだろう! 怪我をしたらどうするつもりだ!」


 あたしを地面に下ろすと同時に、ライース兄様の小言が炸裂した。


「ライース兄様のマネをしただけですっ」


 せっかく気持ちよくミリガンに乗れていたのに、それを邪魔されて、あたしの機嫌が悪くなる。


「……おれは十六歳だ! レーシアはまだ六歳だろ!」

「カルティは、八歳です。あたしとほぼおなじです!」


 カルティ! ミリガンを連れて木の陰に隠れるんじゃない!


「いや……カルティは男の子だろ! 同じであるわけがない!」

「ライース兄様! ねんれいやせいべつでサベツするのは、どうかとおもいます」

「…………はぁっ?」


 あたしの反論にライース兄様の眉がぴくりと跳ね上がった。

 大きく息を飲み込み、ライース兄様は呆れたような、驚いたような表情を浮かべる。


「レーシア……」


 ライース兄様が次の言葉を発するために口を開く。

 そのとき……。


「ライース坊ちゃま――っ!」


 遠くで爺やの声が聞こえた。

 幻聴ではない。

お読みいただきありがとうございました。

お気に召しましたら、

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