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2-14.虚弱体質すぎるキャラ

 さらに一週間がすぎた。


 死亡イベントへのカウントダウンはまだ確認できない。


 保養地の夏は短い。

 昼間はまだ暑さを感じるが、朝夕はそれなりに冷え込みだした。


 頭の包帯もとれ、自分でスプーンだけでなくナイフとフォークも問題なく握ることができて、ご飯もみんなと同じものを食べることができるようになった。


 それにしても、回復に二週間もかかるって……フレーシアの体力がなさすぎて困る。信じられないくらい虚弱体質すぎるキャラだ。


 デイラル先生には、「もう、ベッドで寝ていなくても大丈夫」と言われて普通の生活をしているけど、ちょっと別荘の周辺をウロウロするだけで、息切れしてしまう。


 毎晩欠かさずストレッチと筋トレをやっているけど、まだこれといった効果は感じられない。


 まじゅい!


 これは、非常にまじゅい事態だ!


 体力が回復しないせいか、デイラル先生の薬がさらにまじゅくなっているのだ!


 これ以上、まじゅくなったら、もう、毒とかわらないだろう……と思うのだが、それを軽くうわまわるまじゅい薬が処方されていく。


 デイラル先生! 限界に挑戦しなくてもいいのに!

 あたしの味覚が破壊されそうだ。


 これは死ぬほどのまじゅさだ……と毎回思うのだが、奇跡的にあたしは生きている。不思議なことに死んでないのだ!


 次こそはデイラル先生の薬を飲んであたしは死ぬんだ、と思うのだが、なぜか――いや、飲んでいるのは間違いなく薬だから――あたしは死ぬことなく生きている。


 口直しが水飴から蜂蜜に変わったが、はっきりいって、それではおいつかない。


 なので、ゲームにでていた行動力回復アイテムのスイーツや、攻略キャラが好きな特別アイテムのスイーツを根性で思い出し、手当たり次第にリクエストした。


 やっぱ、根性だせば、なんとかなるもんだ。


 とはいっても『攻略キャラが好きな特別アイテムのスイーツ』は、誰がどれを好きなのかまでは思い出せないという、苦労して思い出したわりには、報われないような結果になっている。


 あくまでも、攻略キャラに出会わないことには、どうしようもないのだろう。


 しかし、ゲーム本編開始後のライース兄様もカルティも、好きな食べ物は辛いもの――酒とツマミ――なので、スイーツの話をしても全く通じない。


 だから、それがどんなものなのか、どんな味がするとか、ざっくりしたレシピや材料をいちから教えることになる。


 あたしの前世の趣味はお菓子作り……ではなく、好きなキャラの誕生日が近づくと、お菓子作りが得意な腐女子仲間とキャラの好きなスイーツを作っていたので、お菓子レシピは覚えてた。根性で思い出した。


 あたしが担当したクライアントに製菓店も何社かあったので、取材やら世間話やらで得た知識もついでに披露しておいた。


 口直しのために、必死に前世の記憶を掘り起こしたのだ。


 結局、なんだかんだいって、最後は根性だ! 気合だ!


 ゲームの本筋にかかわるようなことは思い出せないのに、どうでもいいこと――いや、口直しは必要なことだけど――だったらなんとか思い出せる。


 カルティはというと、鬼気迫る表情でスイーツを語るあたしにドン引きした。極力かかわりたくないという態度であたしに接している。薄情なやつだ!


 だが、デイラル先生の薬の破壊力を知っているライース兄様は、真剣にあたしの話を聞いてくれて、リクエストしたスイーツを数日後には用意してくれる。


 ただ、分量はうろ覚えだったので、微妙に美味しくないのだが、そこは色々と注文をつけているうちに、美味しくなった。


 口直しのバラエティが増えて、万々歳といいたいところだけど、口直しの種類が増えるのと同じく、薬もまじゅくなるって、どういうことなのよ!


「まじゅい! まじゅい! おくちゅりまじゅい!」


 を連発するあたしに、デイラル先生はいつもの「ふぉっ、ふぉっ」笑いをしながら


「それだけ元気であるのなら、大変よろしい」


 と言うだけで、薬の味が良い方向に改善することはなかった。


 あたしの回復を確かめたデイラル先生は、毎日だった往診を三日おきにすると提案した。


 アドルミデーラ家から迎えの馬車をだしているらしいが、デイラル先生もそこそこなお年だし、あまり無理はさせたくない。


 お祖母様の専属とはいえ、デイラル先生には後進の育成やら医療技術の普及をがんばってもらいたい。


 バッドエンドのひとつに疫病の蔓延があるのだから、デイラル先生にはなおさら頑張ってもらわないと困る。


 お祖母様もあたしもデイラル先生の申し出に承知したのだけど、ライース兄様は首を縦に振らなかった。


 ライース兄様のたっての希望……というか、ワガママで、デイラル先生は二日おきに別荘を訪れ、あたしとお祖母様の具合を診てくれている。


 相手が老人であろうとも、ライース兄様は容赦がなかった。


「まじゅいです――っ!」


 あたしは、さらにまずくなったデイラル先生太鼓判の劇薬を飲みきると、プリン・ア・ラ・モードを口の中に放り込む。


 残り、ひとくち、ふたくちくらいになって、舌の痺れがなくなり、ようやくプリンの甘さを感じるようになっていた。


 昼間の食堂では、あたしとライース兄様が食事をしていた。


 カルティが給仕の補助として部屋に残っているだけで、メイドは空になった皿を下げに退出していた。


 お祖母様は、早々に食事を終えて、爺やに車椅子を押してもらって自室に戻られた。


 なので、あたしの薬の飲み方が美しくない、と怒るヒトはいない。

 慌てて口直しのデザートを頬張っても、はしたないと注意されることもない。


 あたしは涙を流しながらプリンを食べる。


 悲しくて泣いているのではない。

 プリンの美味しさに感動して泣いているのでもない。


 デイラル先生の激まずお薬が、鼻から喉のあたりを刺激して、生理的な涙が止まらないのだ。


「……レーシア……。おれのデザートも食べるか?」


 ライース兄様が自分の前にあったプリン・ア・ラ・モードをそっとあたしの方へと移動させる。


「はひぃ。いたふぁきみゃふ」


 はい。頂きます。というあたしの返事を正確に聞き取ったカルティが、ライース兄様の側に移動してプリン・ア・ラ・モードの皿をあたしの前に置き直す。


 空っぽになったあたしの皿は、すみやかにワゴンの上へと移動していた。


「いたひゃきまふぅ」


 遠慮はしない。

 ようやく、プリン本来の味がしだしたのだ。

 あたしはプリンの有り難みをしっかりと噛み締めながら、ライース兄様のデザートを完食する。


「レーシア……午後はどうするつもりだ?」


 ライース兄様は食後のコーヒーを飲みながら、あたしに質問する。


 午前中は、ライース兄様に勉強を教えてもらった。

 もう少し、あたしの体力が回復したら、マナーやダンスの練習などもそれに加わる予定だ。

 ダンスもライース兄様が教えてくれるそうだ。


 午後からはライース兄様は領地のお仕事をするとかで、自分の部屋で書類仕事をするらしい。


「ちょっとだけ、カルティとさんぽをしたら、本をよみたいとおもいます」


 あたしの返事に、ライース兄様は頷いた。

 あれ?

 ライース兄様の表情が……ちょっとヘンだ。

 眉間にシワができてる。


「レーシアは、本が好きなのだな」

「はい。いろいろなことがわかって、おもしろいです。おーとのおうちには、あまり本がなかったので、うれしいです」

「そうか。しかし、ここの書庫にある本は、子どもには難しすぎないか?」

「ちょっとだけむずかしいですが、わからないところは、カルティがいろいろおしえてくれるので、よめます!」


 穏やかな転生ライフを満喫するための三箇条の二番目『ゲームとこの世界の差分に注意する』だ。


 ライース兄様の超絶厳しい監視下の元、行動制限が発令されている現在、世界設定の差分を知るためには、読書が最も効果的だ。


 下手に屋敷にいる使用人に質問して、おかしなことを口走っていると思われては困る。


 ここは別荘地なので、書庫もさほど大きくないし、収蔵されている本も、滞在中の無聊を慰めるためが大前提となっているので、内容に偏りがある。


 そこに少しばかり不満はあるが、そういう不満をぶつけるのは、書庫の中の本に全て目を通してからでもよいだろう。


 ちなみに、この世界の文字は……なんと、ローマ字表記だった。

 もちろん、前世で見慣れたアルファベッドではなく、楔形みたいなアルファベッドを崩してミミズがうごめいているようなアレンジされた文字だが、ヘボン式表記とばっちり重なったのだ。


 さすが乙女ゲームのなんちゃって設定だ。

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