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2-13.重要人物

 あたしは苦労しながら、なんとか紙を綴じ終えると、仕上がり具合を確認する。


 書き込みを始めてまだ数日なので、タイトルだけで空白のページの方が多い。


(スマホとかPCがあればな……)


 ヘビーユーザーが立ち上げている攻略サイトにアクセスしたら、こんな問題などすぐに解決できるのだが……。


 と、心のなかでぼやいてしまう。


(あれは便利だった……)


 とくに、豆吉さんのサイトは、時系列とか、分岐点とかが俯瞰的にまとめられていて、イベント攻略要点もわかりやすく、全ページプリントアウトしたいくらいだ。


 いや、実際に、前世では残業でひとりオフィスに残っていたときに、こっそり会社のプリンターを使って、プリントアウトした……記憶がある。


 あのごっつい紙束があれば、この攻略も随分楽になるのに……。


 目を閉じると、画面がそのままスクリーンショットのように蘇る……ような便利機能はなく、自分の蘇った記憶と、分析力が頼りというしょぼい現実に、すこしがっかりしてしまう。


 最初の方のページに戻りながら、第一部完結記念として限定公開されたシークレットエピソード『ライース・アドルミデーラ 真夏の静養地編』と『カルティ・アザ 晩夏の別離編』を見比べる。


 この両方のページには文字がびっしりと書き込まれている。


 直近のイベントだから、慌てて仕上げたのだ。


 とりあえず、現時点でのあたしが知っている情報はすべて書きつくした。


 ノートを見つめるあたしの口から溜め息が漏れた。


 次の死亡イベントが目前に迫っているのだ。

 目前どころか、カウントダウンがはじまっていてもおかしくない……はずだ。


 というか、カウントダウンが始まらない?


 ということは……回避できたのかな?


 回避できたと判断したいところなのだが、なんだか、胸のあたりがつっかえたような、モヤモヤした気持ちがずっとまとわりついている。


 根拠は全くないのだが、この『嫌な予感』は大事にした方がいいだろう。

 そんな『予感』がする。


 池に落ちて目覚めた後、『ライース・アドルミデーラ 真夏の静養地編』の死亡イベントを回避できた……と、あたしは心底喜んだ。


 ……のだが、喜ぶのはまだ早かった。


 そのイベントで死ぬのは、あたしだけではなかったからだ!


 もうひとり、ライースとカルティにとって身近で、アドルミデーラ家にとって重要人物がこの年の夏に死ぬ。


 あたしの後を追うようにして死ぬ。


 時系列からすると、ほぼ同時、よくて、一週間以内ではないだろうか?


 もしかしたら、あたしが死んだことで、なにかしらのショックを受けられたのかもしれない。心労からかもしれない。


 死因はわからない。


 でも、キャラの運命を左右させる重要人物だ。


 スチル部分はめでたく終了したが、イベントはまだ終了していない……という驚愕の事実。


 なんと! エピローグで表示された数行のテキスト部分が、まだ残っているのだ!


 その場面を描写した映像がなく、背景ぼかしの画像の上に、テキストウィンドウが表示されて、無音文字で簡単に済まされたから、うっかり見過ごすところだった。


 もう、これは悪意ある『罠』レベルだ。


 それに気づいたときは、みんなの前で思わず声をあげてしまったが……そういう『うっかり』はこれから気をつけないといけない。


 大丈夫。大丈夫。


 あたしは環境適応能力はめっちゃ高い……とみんなから言われていた記憶がある。


 しっかりこの世界に馴染んで、しぶとく第二の人生を楽しんでやるんだ!


 『カルティ・アザ 晩夏の別離編』のページを見る。


 事前投票で五位だったカルティ・アザの過去編だ。

 運営もまさか、敵キャラが五位以内にランクインするなど考えていなかっただろうし、第五位だったこともあり、一位のライースに比べて短めの手抜き内容になっている。


 力の入れ具合があきらかに違っており、無課金ユーザー用に用意したエピソードだろうと予測される。


 『カルティ・アザ 晩夏の別離編』は、ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の二番目の娘――あたし――が、池で溺れ死んだことが原因で発生するイベントだ。


 ライースはでてこないが、『ライース・アドルミデーラ 真夏の静養地編』の続編、後日譚のような内容だ。


 『カルティ・アザ 晩夏の別離編』の内容を簡単に説明すると、あたしが死んだことに激怒したお父様が、カルティを領地から追放する……という事件だ。


 なぜ、カルティがお父様を暗殺しようとしたのか、アドルミデーラ家を破滅に追いやろうとしたのか、という理由が明らかにされたのだ。


 偶然なのか、それともこの時から決定していたのか、カルティが第二部の攻略キャラに昇格する布石ともなったエピソードだ。


 ジェルバ・アドルミデーラ侯爵の激しい仕置きに苦しむカルティの絵と声にファンは(色々な意味で)震え悶えたらしい。


 そして、オープニングのシークレットスチル画像は、サディリア・アドルミデーラの急死に号泣するカルティ・アザだ。

 ファンはそれを見て涙を流した……らしい。


 ファンの反応なんか思い出したって、なにがどうなるのよ!


 あたしは、ライース・アドルミデーラのシークレットスチル画像を開放するために、時間とその月の残金を全て注いだので、他のストーリーは概要しか知らない。


 運営はシークレットエピソードの映像公開はネタバレに該当すると発表し、実況等を禁止した。


 画像を入手するには仲間の協力が不可欠だったのだが……なんと、あたしの知り合い全員がライース・アドルミデーラ狙いだったのだ。


 まあ、ライースファンで繋がったヘビーユーザー同士だったら、そういう結果になるよね……。


 豆吉さんなら、全員コンプリートできるかと思っていたけど……そのときは運悪くリアルが忙しかったそうで、上位三人の開放が限界だったという。


 前途多難だ。


 お祖母様の死因がわかったらまだ対策のしようもあるのだが、とりあえず夏が終わるまで、警戒するしかない。


 あたしが生きていることで、色々な部分がおかしくなりはじめている。


 いや、あたし自身も、夏が終わるまでは要注意だろう。


 あたしはパラパラパラと、ノートを最後までめくり終えると、引き出しの中にしまった。


 鍵付きの引き出しなのだが、あたしは鍵を持っていない。爺やにたのんで、早急に鍵をもらおうと思う。


 マル秘ノートだからね。

 前世の言葉……日本語で書いたけど、日本語で書いているからこそ、見られるとちょっと困るノートだ。


 羽根ペンも元の場所に戻し、照明を消して、椅子から飛び降りる。

 その勢いで椅子が微妙に移動してしまったので、できるだけ、元の場所に戻しておいた。


 あたしが夜中にに起き出してゴソゴソしている痕跡は、できるだけ消し去らないといけない。


 そう、『穏やかな転生ライフを満喫するための三箇条』の『行動は慎重に』だ。


 あたしに前世の記憶があることも、この世界が、前世の世界でのゲームだったことも内緒だ。秘密。墓場まで持っていこうと思っている。


 なぜかというと、その方がなんか、カッコいいじゃない?


 というか、言っても信じてもらえないだろうし、幽閉コースはごめんだからだ。


 ライース兄様のバッドエンド回避、アドルミデーラ家が巻き込まれる陰謀を回避するにも、情報はできるだけ伏せておいた方がいいだろう。


 なので、あたしは夜更かしはするが、徹夜はしない。

 オコチャマの健全な成長には睡眠が必要だからね。

 ……というか、そろそろ眠くなってきた。

 あたしは閉じかけたまぶたを必死にこすりながら、寝室へと戻っていった。


 まずはこのちょびっとしかない体力を回復して、デイラル先生の激まじゅい薬から開放されなければならない。


 そしたら、木登りを教えてもらって、その流れで、乗馬、護身術と教えてもらえたら、いいかんじ……じゃないだろうか?

 護身といわず、積極的に相手を倒していく技能も教えて欲しい。


 数年もしたら、ライース兄様は凶器を持った暗殺者にガンガン狙われるようになるので、そいつらをひとり残さず返り討ちにしたい。

 できるようになっておきたい。


 ライース兄様の死亡発生イベントは大量にあるので、回避するだけじゃなく、叩き潰す必要もでてくるだろう。じゃないと、処理しきれない量だ。


 改めて、よくもまあ、運営はこれだけの死亡イベントを用意したものだ、とあたしは呆れ返ってしまった。


 ……水泳はもう水が冷たくなっているから来年だ。

 前世を思い出したら、泳ぎ方、クロールとか、平泳ぎとか泳げるんじゃない? と思ったのだが……それを確かめるのも、来年だ。

 夏も終わりに近づき、池の水はだんだんと冷たくなっているからね。

お読みいただきありがとうございました。

お気に召しましたら、

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