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2-11.あたしのノート

 昼よりも、みんなが寝静まった夜の時間の方が、あたしは忙しかった。


 この寝室には二つの扉がある。

 廊下にでる扉と、続きの間にでる扉があった。


 続きの間は、居室になっており、爺やがあたしのために、子どもに必要そうなおもちゃやら、本などを揃えてくれている。

 家具も、一応、子ども仕様の小さめなものになっている。


 だけど、この世界の基準なのか、厳格なお祖母様の好みを尊重したのか、子供部屋っぽい、楽しくてファンシーな家具や装飾ではなく、あくまでも質実剛健な……いわゆる無骨な……部屋となっている。


 ゲームの中のヒロインの部屋は着せかえ機能があって、課金すれば色々な部屋にできたんだけど……そういや、特に部屋の模様が変わったらゲームを有利にすすめられるようになるバフはなく、純粋にビジュアルを楽しむだけのものだったので、あたしはデフォルトのままだった。

 それが……まさか、この部屋にも反映されている……ということなのだろうか?


 ま、中身が三十路なので、そのあたりは気にならない。


 必要なもの……おもちゃじゃないよ……紙だとかペンだとか、デスクがあるので、あたしは満足している。


 居室エリアにも扉がいくつかあり、浴室、トイレが部屋ごとにあるようだ。

 なんて贅沢な間取りなんだろう。


 この世界の基準で考えると、ホテルのスイートとか、セレブの住まうマンションといったレベルじゃないだろうか?


 さすが、上流貴族の子どもが使う部屋だ。すごすぎるわ。贅沢すぎるわ。


 前世のあたしのアパートはユニットバスだったから、浴室とトイレが別れている……いや、もう、六畳一間ではなく、寝室、居室が独立している段階で、もう、ハイレベルな暮らしだ。


 ウォークインクローゼットではなく、衣装部屋もあり、その中にはフレーシアだけの衣装がずらりと並べられている。

 圧巻だ。


 まあ、当たり前だけど、こんなところに薄い本とかは似合わないな。


 ここにある服は、爺やがひととおり用意してくれていたんだけど、ライース兄様がしばらく滞在する宣言をしたら、いきなり衣装が増えだした。

 一枚、二枚といった単位ではない。倍増だ。


 毎晩、衣装部屋の扉を開けるごとに、衣装が増えている。


 まだ、ネグリジェから着替えることができないのに、こんなにたくさんの服をどうしろというのだろうか……。


 子どもなんて、すぐに成長するんだから、沢山用意しても、着ないうちに大きくなっちゃったりとか、するのにね。


 せめて、成長を見越した大き目の服とかにしておけばいいのに、今のあたしにピッタリなサイズが用意されている。


 前世では、自分のファッションよりも、キャラのコスプレの方に興味があったあたしには、ちょっとこの衣装の数には若干引いてしまう。


 まあ、これが中世風ファンタジーの衣装コスプレと思えば、気持ちもあがってくる……かな?


 衣装の枚数チェックを終えると、あたしは、居室の遊び場として想定されている広いエリアで、筋力アップのトレーニングを行う。


 インナーマッスルだの、体幹だの……ヨガやストレッチなんかも、陸上部だったので、そういうのには詳しい。


 まあ、あの過酷な激務を耐え凌げたのは、基礎体力があったからだろう。


 とはいえ、身体はまだ六歳児だし、病み上がりだから、無理はしないように自制している。でも、自主トレは毎晩欠かさずやるようにしている。


 そういえば、就職してからはそんなこともしなかったなぁ……と、思う。


 会社との往復。その日のうちに帰宅できるかどうかという日常で、ご飯を食べて、ゲームをして、寝る……でいっぱいいっぱいの生活だった。


 前世よりも虚弱だけど、今世の方が、夜更かしはしているけど、まちがいなく健康的な生活を送れているようなきがするな。


 軽く身体を動かして、頭の中をスッキリとさせたら、チョコチョコと歩いて、あたしは子ども用のデスクに向かう。


 成長を見越した少し大き目の子ども用デスクに、「よいこらしょ」という掛け声とともに座った。


 こういう何気ない行動に、三十前の疲れたOL感がでてしまうから注意が必要だ。


 ちょっと机の天板の位置が高いけど、なんとか作業はできる。人間工学に基づいてデザインされた前世のオシャレなオフィスが懐かしい。


 あたしは椅子の上に立ち上がって、机の上にある、ランプっぽいもののスイッチに手を伸ばす。


 すると、光が灯り、デスク周りがほんわりと明るくなる。ほんわりどころではない。びか――っていう、小さなボティのわりには、なかなかに優秀な明るさだ。


 夜でも読み書きには不自由しない。


 LED電気スタンドとほぼ同じ機能、光量を持った便利魔導具だ。


 『キミツバ』の世界には、杖を振り回して、呪文を唱えて魔法が発動する……という設定はない。

 学園があって、箒に乗ってどうだとか、そこで学生たちが競い合うとか、そういうのはなかった。


 学園がないので、卒業パーティーがあって、そこで王子様が悪役令嬢を断罪するなんてイベントは発生しない。


 なぜなら『いままでの乙女ゲームが物足りなくなった乙女たちへ贈る究極の乙女ゲーム』という設定だからな。

 運営はテンプレ展開は避けたいのだろう。


 あまり魔法が便利すぎると、ゲームバランスよりもストーリーが崩壊してしまうので、魔法は存在しない、と、公式設定集だったか、雑誌の特集記事で読んだ。


 ただ、あまりにも中世の設定を忠実に再現すると、乙女ゲームとしては泥臭くなるので、魔精石と魔動符なるものが『キミツバ』には存在する。


 魔法はないのに、魔力はある。

 なんとも奇妙な世界設定だ。


 魔精石は、一見すると、大粒のダイヤモンドなのだが、それそのものを動力源として使用したり、加工して回路を書き込んだものを道具に組み込んだりして、便利小道具――魔導具――として使用していたりしていた。


 魔精石は課金アイテムで、これを購入して、『巻き戻しの砂時計』などゲームを円滑にすすめるための便利アイテムと交換することができる。

 忙しいけど金があって、ゲームをさくさく進めたいという社会人には必須のアイテムだ。


 魔動符というのは、特殊な紙に、魔精石の粉を溶かしたインクで、魔法回路を書き込み、攻撃とか防御とか、それっぽいことができる符呪だ。


 どちらの場合も、それを動作させるためには、魔力を注いで、起動するきっかけを与える必要がある。


 『巻き戻しの砂時計』も魔精石を大量に消費するという設定の魔導具だ。

 だから、実際の単価も他のゲームと比べると割高感がある。


 毎日の連続ログインボーナスと、フレンド招待登録特典とフレンドギフトの贈り合いで無料ゲットのチャンスはあるが、それを上回る使用頻度なので、焼け石に水状態という……『キミツバ』は財布には全く優しくないゲームだ。


 『巻き戻しの砂時計』はゲームを進めるうえで重要なアイテムだ。


 だけど、あたしの頭に天からの啓示ようにひらめいた言葉を信じるのなら……こちらの世界に『リセットアイテム』は存在しない……らしい。


 検証するのは危険すぎる。

 やり直しができない、でたとこ勝負だ。


 あたしは引き出しを開け、帳面をとりだす。ちょっとざらついた半紙のような紙を紐でたばねてノート状にしたものだ。


 あたしは広げたページに羽根ペンを使って、ガリガリと文字を書いていく。

お読みいただきありがとうございました。

お気に召しましたら、

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