2-10.腐女子の正直な気持ち
……こうして……あたしはあたしが死亡するイベント『ライース・アドルミデーラ 真夏の静養地編』を無事に乗り切った。
目覚めてからは熱がでることもなく、順調に回復している。
一週間が過ぎたのだ。
そろそろ、寝台からでて、室内、屋敷内をウロウロしたくなる頃だ。
ライース兄様は、あたしがベッドからでるのに反対したが、デイラル先生が意見してくれた。
ずっと寝たっきりだと、筋力が低下してしまうので、そろそろリハビリをはじめなさいって言ってくれた!
でも、まだあのまじゅい薬は続行なんだけどね……。
まずは、食後の運動として、寝室の中をウロウロする。
テラスにでたかったんだけど、「山間部の夏は涼しい。風邪をひいたらどうする」というライース兄様の猛反対にあって、室内限定となってしまった。
ライース兄様って、ちょっと過保護。
本編では……たしかに、仕えていた王太子や、ヒロインに対して、ものすご――く、過保護だったよな。
でも、過剰過保護対象はそのふたりだけに限定されていたはずだ。
家族は大事にしていたけど、そこまで過保護じゃなかったよ?
というか、優秀な異母弟たちに無茶振りして、馬車馬のように容赦なくこきつかっていたよ。
過剰な過保護っぷりを展開させるライース兄様と、ちょっと明るくなって人懐っこくなったカルティの手助けもあって、あたしの体力はゆっくりとだが回復している。
だがしかし!
ここは、ユーザーの財布に全く優しくない、あの『キミツバ』の世界観だ。
死亡決定キャラが、死亡回避に成功したとしても、なんとしてもターゲットキャラを殺そうと……さらに二重、三重の死亡イベントが罠のように新たに発生してくるので、油断はできない。
そう、油断は死へと直結するのだ!
そのよい例がジェルバ・アドルミデーラ侯爵であり、ヒロインの弟だったりする。
その『死んでもらわないと話が進まなくて運営が困るリスト』の中にフレーシア・アドルミデーラが加わっていないことをひそかに願うしかない。
ジェルバ・アドルミデーラ侯爵やヒロインの弟はサブキャラだが、あたしはモブにすらなれなかったモブだ。たいして重要視されていない……と思いたい。
だが、今後の生活を考えるに、他力本願ではなく、自分でも死亡回避する術は身につけておかなければならないだろう。
わかりやすいところでは、護身術をマスターするであったり、体力強化に励むであったり、危険人物や味方となりそうな人物を懐柔するとか……?
そのようなことをこの一週間、ベッドの中で考え続けた。
自分の死亡を回避するついでに、他のキャラの無駄死にもいっしょに回避できたら万々歳だ。
せっかく、推しのいる世界に転生できたのだから……長生きしたい。
せめて本編のオープニング、いや、本編が本格的に始まるまで、いや、第二部のエンドを見届けるまで生き延びて、生でゲーム内で発生したできごとを見てみたい。
さらに欲を言うならば、まだ制作発表段階の第三部とやらのストーリーをちょっと……いや、どっぷりと堪能してみたい。
……と思ってしまうのは、ごくごく、自然のなりゆきだよね。
人間の避けることができない煩悩だよね。そういう発想は少しもおかしくはない……はず。
田舎でまったりスローライフとか、前世知識を駆使して異世界を掌握するとか、そんな呑気なことをやってたら、大事なイベントシーンを見逃してしまうから、それは絶対にやらない!
推しキャラのライース・アドルミデーラにぎゅっと抱きしめられたり、「あ――ん」されたりすると、もう、このまま死んじゃっても思い残すことはない!
――って乙女魂が心の底から雄叫びをあげるけど、やっぱり、しぶとく生き残って、本編を……できれば、他の攻略キャラとの濃密なからみを……特等席で見たい!
――というのも、嘘偽りのない腐女子の正直な気持ちだ。
せっかく、メインキャラの近くにいるのだから、他のメインキャラの恋を成就させるキューピットになるのも、よろしいんじゃなくって、ねえ、オホホ。
――みたいな、おせっかいオバサンに転身するのも、新しい生き方かもしれない。
ゲーム本編では、なんか、もどかしい組み合わせとかあったからね。
ヒロイン逆ハーレムのカオスは阻止し、腐女子が夢見たカップリングを成就させるのも面白そうだ。
そう! 薄い本だけでしか実現しなかったカップリングも、この世界ではありえ――るかもしれない。
いや、なければ、やればいいだけだ!
織田信長もホトドギスは鳴かせなさいとおっしゃっていた!
違った、豊臣秀吉だ……ったっけ?
徳川家康? 吉宗?
歴史は苦手だったんだよね。
戦国なんとかとか、幕末なんとかとかは、食指が動かなかったからなぁ……。
全キャラのスチルシーンコンプリート……は『巻き戻しの砂時計』という便利アイテムが存在しないので、不可能だ。
だったら、自力でワンシーンでも多く、一秒でも長く、垂涎のシーンにでくわしたい。
さらに贅沢を望むのなら、キャラ死亡ではなく、キャラが生き残る方での、リアルスチル場面が見たい。可能な限りたくさん見たい!
と、ライース兄様とカルティの名シーンを思い出し、脳内でジタバタ悶えつつも、大人なあたしは厳しい現実から目を逸らすことはしない。
真摯に受け止め、これからのことをかんがえたよ。
とはいえ……日中は、ライース兄様とカルティの監視の目があったので、下手なことはできない。
せいぜい、布団の中にもぐりこみ、妄想の翼をジタバタ悶え広げるくらいだ。
ぼーっとしている間に、前世のことや、ゲームのもっと詳しいことなどを思い出そうとしたんだけど、それがうまくいかなかった。
メインキャラはライース兄様とカルティ。
サブキャラはお父様。
デイラル先生や爺やをはじめとする使用人たちはモブだったので、現世の六歳児だったアタシが知っていることしかわからない。
あたしとお祖母様は……なんだろうね。
設定上ではでてきているけど、細部設定がないキャラとでもいうのかな?
この一週間、時間だけはあったので、色々と考えた結果、メインキャラに関する記憶は、実際にそのメインキャラに会わないと思い出せないんじゃないのかな……。目と目が合った瞬間に思い出すんじゃないかな……という予測をたてた。
サブキャラも同じように、実際に会って目を合わせないと思い出せないんだろうけど、サブキャラの場合は、メインキャラの設定を補う形で、前世での記憶と不足情報をゲットできる……のではないだろうか?
その予測が正しいのか、間違っているのかは、他のメインキャラ、サブキャラに出会わないことには確認しようがない。
つまり、領地の保養地から、王都へと移動しないことには、他の攻略キャラには会えないのだ。
なので、今の時点では保留事項だ。
他の攻略キャラに会いたければ、がんばって『まじゅいおくちゅり』を飲んで、体力を回復して、デイラル先生に完治のお墨付きをもらわなければならないだろう。
でないと、一生、領地暮らし、身体が回復せずに静養地の別荘に留めおき、となってしまいそうだ。
田舎でのスローライフよりも、王都でのイケメンパラダイスの方が、ぜったいに充実した転生ライフになるはずだ。
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