69 結果発表!!!!!
サービス開始と同時に、ささやかなパーティーが始まった。
ダンジョンスカイ社が入居しているコワーキングスペースには、イベント会場がある。
オフィスとは別にイベント会場があり、正式な手続きを取れば会場を押さえられる。
ちょっとした貸切パーティくらいなら余裕で催せるのだ。
弔木たちは多くの秘密を抱えている。
仕事内容はもちろん、弔木やナスターシャのような存在そのものがある種の機密事項だ。
下手な居酒屋に行くくらいなら、こうしてオフィスの中でパーティをした方が安全なのだ。
「ううう……金が…………金が足りない…………ううう」
と嘆きの声を漏らすのは、社長の大泉だ。
大泉は一杯目の缶ビールを飲み干すと、そのまま眠りについた。
よほど疲れていたようだ。
「社長! もう大丈夫だ! トムがたくさん稼いできたからね!」
とナスターシャは社長の背中を叩いて励ます。
社長が既に酔いつぶれていることに気づいていない。
ナスターシャ自身もだいぶ酔っているようだ。
「……それで弔木さん! 誰と松島ダンジョンに行ったんですか!? まだ答えを聞いていないですよ!」
結花は弔木とキスしそうなほどに顔を近づけてくる。アルコールは飲んでいないはずだが、絡み方は完全に酔っ払いだ。
「だから何度も言ってるだろう。俺は一人だ。たまには〝闇の魔力〟を全力で出さないと勘が鈍る。それに新たな技を生み出す必要もあったからな!」
「本当ですかあ?」
結花は人差し指を弔木の胸に立て、つーっとひっかくようになぞった。
「そもそも私に秘密で松島に行くなんてずるいですよ! 弔木さん、次は私も連れて行ってください! そうじゃなきゃ許しませんよ?」
「……分かった。善処しよう」
そうでも言わなければ、結花は収まりそうもなかった。
しかも大泉というストッパーは酔い潰れている。
弔木は折れるしかなかったのだ。
(それにしても……グイグイ来るなあ。まさか結花、酒飲んでないよな?)
「二人とも、仲が良いのね」
と、話が落ち着いた所で平宗がやってきた。
「弔木君、お疲れさま」
平宗が弔木のグラスに白ワインを注ぎ、隣に座ってくる。
「どうも……」
いつもは淡々と仕事をしている平宗だが、今日はほのかに甘い香水の香りを漂わせていた。
「結花ちゃんも頑張ったね。今日も地下鉄に乗ってたら、ダダダダダンジョン! の話をしてる人がいたよ」
「逆に怖っ! 本当にいるんですね、見てる人って」
「登録者数も五十万人を超えたからね。これから、こういうことがどんどん増えてくると思うよ。収録中も気をつけないとね。変質者とかがうじゃうじゃやってくるかもよ」
「そう言えばこの間もキモいコメント来てましたね」
「ああいうの、キモいよね。コメント欄で胸の大きさとか議論してるし」
「困りますよね〜どっちが大きいかなんてどうでもいいのに」
「ほんと、どうでもいいわよね~」
弔木は二人の会話を聞いて少しだけほっとする。
ギャルな結花と、お堅い性格の平宗。
ギャルな結花と、清楚系美人の平宗。
普通に考えれば相性は微妙だ。
当初はこのコンビで動画を作るのは難しいかと思われたが、それなりに上手くやっているようだ。
(うんうん……実にチーム感が出てきたぞ)
――弔木には二人の間で弾けている火花は目に入っていないようだ。
「ところで弔木さん?」
と平宗が弔木にまた話かける。
そして、とてつもなく巨大な爆弾を落とした。
「私の胸を見た責任は、いつ取ってくれるんですか?」
「ぶはっ!!!」
弔木は酒を噴いてしまった。
「まさか忘れたのかしら?」
「いや、そういう訳では……だがあれは不可抗力だろ」
「不可抗力? 私のスリーサイズまで知っておきながら?」
ナスターシャと平宗はネズミ男に追われ、偶然にも弔木のアパートの上の部屋に逃れていた。
ネズミ男との戦闘で、平宗の胸元はざっくりと穴が空いていたのだ。
その後弔木は平宗の代わりに服を買いに行った。
スリーサイズはその時に知った。
何とは言わないが、結花よりはたぶん……控えめなサイズだ。
「はぁああああ!? ちょっと! どういうこと!? 弔木さんと、どういう関係なのよ!?」
結花が平宗に詰め寄る。
数秒前のにこやかな雰囲気から一転、コンビ解散の危機が訪れていた。
「あれは忘れもしない、弔木さんの部屋に初めて入った時だった――」
「なにそれ!? そんな話聞いてない! てか知らなかったの私だけ? 私だって弔木さんの家に行ったことないのに! やっぱり二人は……」
「それは違う。と、とにかく落ち着くんだ。話せば分かる……」
「痴話喧嘩はそこまでだ。トムの男根は私が美味しくいただくとしよう。意外と大きいよね?」
と、ナスターシャが話をよけいにこじらせてくる。
「なっ、だ、だん……っ! んんんっ……!?!?」
結花は何を想像したのか、弔木の顔と下半身を交互に見る。
「見るんじゃない。教授も根拠のない話を結花に吹き込むのはやめろ。あらぬ勘違いをされるだろう」
「別にいいじゃないか! 将来的には事実になるのだから」
「ならないぞ」
「はわわわ…………だ、だん……」
結花は両手で顔を隠し、隙間から弔木を見てくる。
このままでは収集が付きそうもない。
仕方なく弔木が話題を変える。
「というか、そろそろ登録ユーザー数を見てみないか?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
株式会社ダンジョンスカイが立ち上げた、ダンジョン攻略コンテンツの配信サービス。
その名も『ダンジョンキャンパーズ』。
今日という日に向けて、全員が走り続けてきた。
サービスが開始され、オンラインの受付は既に始まっている。
数時間が経過した今、ウェブ上では数多くの申し込みの処理がなされ、大量の入金処理がなされている……はずだ。
ナスターシャがタブレットで管理画面を操作し、あとワンタップというところまで来た。
「教授、さっさと表示してください。焦らしプレイですか?」
「その前に説明をさせてくれ。さやっちも焦らされるのが好きだろう? この手のサービスは初速が大事だ。最初の申し込み人数を見れば、今後どれくらいユーザー数が伸びるかの予測も立つ」
「じゃあここで駄目だったら、これまでの苦労は……?」
結花が不安げな表情で問いかける。
「心配するな。駄目だったら次の作戦を練ればいいだけだ」
と弔木。
結花を慰めるつもりはなく、心の底からの本音だった。
ダンジョンを探索する弔木の実力と、このメンバーがいれば、どうにでもなる。
今の弔木には強い確信があった。
「そうそう。駄目だったら、次の手を打つまでだ。我が助手のグラビア写真を初期会員の特典にする、脱ぎたてのストッキングを100万円で売る、などのテコ入れをするとかね」
「お断りします。教授が脱げばいいじゃないですか」
平宗の反論に、ナスターシャは笑って答えた。
「ははは。私とさやっちのグラビア、どっちの反応が良いかな? とまあ冗談はさて置いて――私はそうならない方に賭けているがね……さあ、見てみようか」
ナスターシャが管理画面をタップした。
画面に表示された結果は――
登録者数:9932人
「開始から三時間でこの数字はすごい! 予測を遥かに上回っているじゃないか!」
「よ、良かった! 皆さん頑張った甲斐がありましたね」
「何だか分からないけど……やったあ……!」
三者三様の喜び方。
結花はもう少し数学を勉強した方がいいかもしれないな……と弔木は思った。
弔木はサービスの立ち上げにかかった費用と、会員数の月額の会費をざっと計算した。
「もしかして、あと二ヶ月もしないうちに、ここまでの費用がペイできるんじゃないか?」
動画編集のために調達した機材やメンバーに払う給料などを加味しても『ダンジョンキャンパーズ』の事業はかなり良い滑り出しだった。
「ああ、トムの計算で合ってる。実に良い滑り出した。さて、配信コンテンツ第一弾が上手く行ったということは、皆……分かるね?」
とナスターシャ。
「ここで巡ってきたチャンスを棒に振るわけにはいかない。トム、第二弾、第三弾の配信のネタを仕込んでくるんだ。さやっちと結花は『ダダダダダンジョン!』でさらなる告知をしよう。これは忙しくなるぞ……!!」
「了解だ。その準備は出来ている」
「んん? 何だ、どうした? もうこんな時間か……」
この騒ぎに泥酔していた大泉がやっと目を覚ましてきた。
「社長! 寝てる場合じゃないぞ! はやくこれを見たまえ!」
「何だ急に……って、この数字は何なんだ!? まさか、これが全部…………契約者なのか?」
大泉は何度も目をこすり、画面に表示されている数字を見た。
まるで何かの間違いじゃないかと言わんばかりに。
だがその数字は、紛れもなく事実だった。
「やれやれ……これまで以上に忙しくなるな」
と弔木の呟きに――
「嫌かい?」
とナスターシャ。
「もちろん、否だ」
それどころか楽しみですらあった。
ダンジョンを探索する、ビジネスを動かしていく。
勇者時代とは違うが、これもまた冒険みたいなものだ。
そして弔木はやはり――冒険が好きらしい。
明日からまた、怒涛のような日々がやってくるだろう。
だが今は、もう少しこの余韻に浸っていたいと思った。
「みんな、改めて乾杯をしよう。『ダンジョンキャンパーズ』の上々な滑り出しに――」
「「「乾杯!」」」




