53 魔力量5000000
弔木はリンゴをお裾分けするつもりが、拉致監禁されていた。
「さあ、洗いざらい話して貰おうか」
ぐるぐるに縛られてアパートの床に横たわる弔木に、ナスターシャが問いかける。
「くっ、動けない…………」
ナスターシャが操る鞭は、特殊な魔道具のようだ。
弔木の〝闇の魔力〟が無効化され、力技で抜け出すことができない。
ナスターシャは弔木の前にしゃがみこむ。
魔導衣装の格好で「そのポーズ」をやられると非常に目のやり場に困る。
さらには助手らしき女性もなぜかブラウスの胸のあたりが裂けて露出している。
いったい何があったのかは知らないが、恐ろしくセクシーだ。
どこに目を向ければいいのか悩ましい。
(つうかこれ、どういう状況だ?)
「最初の質問だ。〝魔王〟よ。お前は何者なんだ?」
「何者って言われてもなあ……ただの人間だが。とりあえず魔王じゃないぞ」
どちらかと言えば魔王を倒す側だった――と弔木は認識している。
「嘘をつくんじゃない! S級のダンジョンを一瞬で攻略するような奴が普通の人間なものか!」
「な、なあ。とりあえずちゃんと話すから、この縄を解いてくれないか」
「そうは行くか! 〝魔王〟を解放したら、それこそ世界が終わるじゃないか!」
「そこまでの力はないぞ? というか、普通に誤解を解きたいんだが」
顔と素性がバレてしまった今、逃げるという選択肢はリスクがあった。
ナスターシャ教授と言えばダンジョン研究の専門家で有名人だ。
様々な政府機関ともつながりが深い。
弔木を本気で探そうとすれば、あっと言う間に見つけ出してしまうだろう。
だとすれば、普通に話して誤解を解いたほうが良い。
弔木はそう考えたのだ。
が、ナスターシャにそのつもりはないようだ。
「ほう、そう来るか。やはり魔王は油断がならない。イケメン風大学生に擬態しながらも、言葉巧みじゃないか。そもそも対話の前に、魔王。お前が敵じゃない証拠を見せてみるんだ!」
「んなこと言われてもなあ……」
「そうだろう、何もないだろう? ……と言うか気が変わったぞ。やはりここで魔王を解剖しよう。魔王の脅威を取り除きつつ、研究も進める! これぞ一挙両得!」
「はあ!?」
ナスターシャが胸元から巨大な刃物を抜き出した。
牛刀のような形をしているが、その長さは一メートルほどある。
バニーガールに刃物――。
恐ろしく暴力的なビジュアルだった。
(つうか、あの胸のどこにそんなスペースがあるんだ? 四次元の胸ポケット的な魔道具か? ……って、流石にヤバそうだな)
牛刀を振りかるナスターシャを、助手が止めに入った。
「教授、それはシンプルに殺人でしょう。やめてください……!」
「止めてくれるな、さやっち! ところで魔王って男性器あるのかな?」
「知りませんよ!」
「やっぱり見てみないとね。魔王のアレ、二本に分かれてるかもよ」
「……ちょっ! 変な想像させないでください! 何を言ってるんですか!」
平宗は赤面しながら、ナスターシャの武器を奪おうとする。
もはや仲間割れに近い騒ぎようだ。
「やれやれ……はははっ」
漫才のような騒がしい掛け合いに、弔木は思わず笑い声が漏れた。
客観的には男性器の危機に見舞われている訳だが、弔木はおかしくて仕方がない。
「な、何がおかしいんだ、魔王!」
とナスターシャ。
「敵意がないことを証明できればいいんだな? だったら、これでどうだ――」
想像と言葉。
弔木が操る〝闇の魔力〟は一般人が操る魔力とは使い勝手が異なる。
弔木が想像し言葉にすれば、それが技になる。
例えば、深い森の奥にある巨大な滝。
例えば、絶え間なく地上に降り注ぎ、地上の全てを洗い流す豪雨。
意識の奥底でイメージを固め、弔木は魔なる詞として詠唱する。
「〝大瀑布〟!」
全身から莫大な魔力が溢れ出した。
こんな力が自分の中にあったのか、と弔木自身も驚くほどだった。
そして直後――弔木を戒めていた縄が粉々に《《破裂》》した。
「大量の魔力で、オーバーフローさせただと? そんな馬鹿な!?」
「〝闇の魔力〟を吸収する素材で敵の動きを封じる、という発想は悪くない。だが魔道具の許容量を超える相手には効果がない」
ナスターシャは信じがたいとばかりに頭を左右に動かした。
「ば、馬鹿な……私の鞭は、魔力量500000は吸収できるんだぞ!? 理論上ありえない!」
「なるほど。ということは俺は500000以上の魔力を魔道具に注いだことになるのか。今後の参考に覚えておこう」
ゆらりと弔木は立ち上がる。
首をポキポキと鳴らし、背伸びをする。
拘束されていた腕や肩が軋む。
「さて。俺は自由になり、これだけの魔力がある。だが俺には《《戦う意思も逃げる意思もない》》。これが証拠ってことでいいか?」




