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36 2話後に分からせられるJK

 神奈川県、横須賀市。

 米国海軍横須賀基地の周辺に、異界への入口があった。


 ダンジョンの通称は〝ドブ板ダンジョン〟。

 「ドブ板通り商店街」の近くに現れたことから、こう呼ばれている。

 国内では宗谷ダンジョン、新宿ダンジョンに次いで三番目に出現した古株のダンジョンだった。


 そして弔木(とむらぎ)は、ダンジョンのゲート前に立っていた。

 ゲート付近はダンジョン管理機構が警備していて、入場は厳密に管理されている。弔木(とむらぎ)のような無能力者は入る資格すらないのだ。


 他の探索者が次々とダンジョンに入って行くのを横目に、弔木(とむらぎ)は結香を待っていた。

(まだかな……)

 土曜日の午前10時28分。

 待ち合わせの時間は大幅に過ぎていた。

 そろそろ社長に連絡すべきかと思ったその時、仏頂面の女子高生がやってきた。


「や、やあ……」

「……」

 結香は弔木(とむらぎ)をちらりと見ると、ゲートに向かって進んで行った。

(普通にシカト!?)

 ナンパに失敗した大学生のような構図になってしまい、弔木(とむらぎ)は何とも居たたまれない気分になる。


 弔木(とむらぎ)は結香を追いかけ、呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待つんだ。お父さんからも言われてるだろ? 一緒にダンジョンに入らないと! 俺も仕事だからさ」

 このまま結香を見送れば、弔木(とむらぎ)は一人取り残されることになる。


 たが大泉からは必死の形相で仕事を頼まれている。

『頼む! 弔木(とむらぎ)さん! 結香のレベルアップを手伝ってくれ! 結香はまだレベル10にも満たないんだ!』

 と。

 シカトされたからと言って、このまま見過ごす訳にはいかないのだ。


 結香は弔木(とむらぎ)を振り返り、めんどくさそうな顔で返事をする。

「……来るの?」

「仕事だから」

「てかこのダンジョンしか入っちゃダメだなんて、頭おかしい」

「お、俺に言われても……。このダンジョンを指定したの社長だし。それだけお父さんが心配してるってことなんじゃ?」


 ドブ板ダンジョンの難易度(ランク)は、G。

 つまり通常のランクから外れた、チュートリアル用のダンジョンだ。極めて安全な初心者向けのダンジョンだ。


 だからこそ結香は、不満を爆発させている訳だ。

「こんなとこ入るなんて時間の無駄! タイパ悪すぎ! レベル上げなんでできないって」

「最終階層まで行けば多少は強いモンスターに遭遇するかもしれないし、案外レアなアイテムがドロップするかもしれない。とにかく行こう」

「このダンジョン、もう何回も来てるから分かる。そんなレアアイテム出ないから」


 結香はそう吐き捨てると、ダンジョンゲートの方に向かった。

 ゲートの近くにはダンジョン管理機構の職員が待ち構えている。

「探索者証はお持ちですか」

「法人パスで」

 結香は首にかけていた金属製のプレートを提示した。

 職員はプレートに印刷されていたコードを専用端末でスキャンした。


「株式会社ダンジョンスカイ、探索者一名、荷物持ち(ポーター)一名ですね。法人ランクはEですね。おや? 会社から最寄りのダンジョンですと……青梅ダンジョンの第4階層まで入れますね。ご存知でしたか?」


 結香は少し怒った声で答える。

「もちろん。でも敢えてここに来てるので」


 個人で探索している場合、探索者が入れるダンジョンは法人のそれよりも1つランクが落ちる。

 例えばレベル10までの探索者はFランクに分類される。

 しかし、ランクFの探索者が入れるダンジョンは「Gランク」になる。

 これは個人事業主(ソロ)の探索者を守るために国が講じた措置だ。(が、当の探索者からは評判が悪い。)


 一方、会社で動く場合、法人ランクがFなら、そのままFランクのダンジョンに入ることが出来る。

 法人であれば探索者は数名在籍しているし、攻略アイテムを調達する資金力があると見なされるからだ。


「そうでしたか。なら結構です。制度をご存知でない方もいるので、念のため確認したまでです。では電子機器をロッカーにしまったら、ダンジョンに入っていただいて結構です」


 結香は手早くロッカーにスマホを入れると、コンクリートの通路を進んでいく。

 弔木(とむらぎ)も早足で結香を追いかけていく。



「て言うか従業員。あんた本当に強いの?」

 やっと結香から話しかけてきたと思ったら、人を従業員呼ばわり。

 大泉の娘でなければ、即座に帰宅しているところだ。

(あ、扱いずれ~!!)


「まあそれなりには強いかな」

「嘘でしょ。ダンジョンに入るの初めてですって顔してる。どうせパパを騙してるに決まってる。()()()()()()()()()なんて意味不明すぎ」


 結香は弔木(とむらぎ)の力のことは聞かされている。

 弔木(とむらぎ)が大泉の借金をチャラにした立役者であることも。


 が、話だけでは実感が伴わないのだろう。

 ましてや弔木(とむらぎ)の魔力量の公式記録はゼロだ。

 結香が疑うのも無理はない。


「パパ、騙されやすいから。前の会社でも、お金持ち逃げされたし。だから私は従業員を信じない。荷物も持たなくていいから」

「そ、それだと俺の存在意義が……」

「給料が出るんだからどっちでもいいでしょ、従業員」


「な、なあ。せめて『従業員』じゃなくて名前で呼んでくれないか? それだと俺も君のこと『社長の娘』って呼ぶことになるが」

「うざっ。普通に大泉さんって呼びなさいよ」

「何故そうなる!?」

「口だけじゃないってことが証明できたら名前で呼んであげるから」


 結香はそう言って、ゲートをくぐり抜けて行った。

(ちょっとまずいな……)

 ダンジョン攻略はチームワークが重要だ。

 勇者時代も、チームワークを乱す者がいると途端に攻略が難しくなる。


 今後も二人でダンジョンを探索していくことを考えると、今の関係のままではかなり厳しいだろう。

 難易度の高いダンジョンでは、弔木(とむらぎ)はともかく結香に危険が及ぶかもしれない。


 ――10歳近く年の離れた女子高生の心を開かせる。


 ある意味で、それが弔木(とむらぎ)に課せられたゴールだ。

「もしかして……ダンジョン攻略よりも難しくないか?」

 弔木(とむらぎ)は小声で呟いて、結香の背中を追いかけていった。

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