33 オファー
【八王子ダンジョンに次いで4件目】
11月24日未明に千葉県九十九里浜周辺で発見された「九十九里ダンジョン」の先行調査が終了した。
調査によれば、ダンジョンは地下40階層まであることが判明した。しかし既に、34階層までが何者かによって攻略されていたことが分かった。
ユニークボス討伐によるドロップアイテムも回収されており、政府では〝野良ダンジョン〟探索の取り締まりを強化する方針を固めた。
001 名無し探索者 2032/12/1 23:06
また狩り場がなくなってる…誰か知らんがまじで止めてくれ
ダンジョン管理機構仕事しろ
つうか新宿ダンジョンもこいつの仕業だって噂あるよな
〝迷宮殺し〟、マジ何者なんだ?
002 名無し探索者 2032/12/1 23:08
>>001
たぶん複数犯の違法クランだろ。
それかダンジョンが最初から「ボスが死んでる」状態でこの世界に出現してる。常識的に考えてそれ以外ありえないだろ
003 名無し探索者 2032/12/1 23:09
>>002
ΩΩΩ<な、なんだってー!?
いやマジな話、そんな深い階層までダンジョン攻略する奴って何者なんだ?
実際、高レベル帯の奴らがゾロゾロと攻略していたら、すぐバレるだろ
004 謎のかわいくてえっちなバニーガール 2032/12/1 23:10
〝魔王〟は実在する!魔王は一人だ!
ダンジョンが最初から不完全な状態で出現するなんて、ありえない!少なくともそんな事例は海外のダンジョンにはないんだ。ということは、〝魔王〟は一人なんだ。圧倒的な魔力を持った存在なんだよ!絶対に見つけてやるぞ!魔王!お前、絶対野良ダンジョンにいるだろ!
005 名無し探索者 2032/12/1 23:18
何かやべーやつが来たぞ
006 名無し探索者 2032/12/1 23:18
>>005
そっとしといてやれ
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
八王子ダンジョンの事件から半年後。
足立区、竹ノ塚周辺。
弔木は路地裏を歩きながら、ダンジョン関係の掲示板を眺めていた。
〝魔王〟とか〝ダンジョン殺し〟などという物騒な単語を目にすると、弔木は眉をしかめた。
「ったく、どいつもこいつも無責任な……」
弔木は「俺は元勇者だ」と書き込みたい衝動を抑え、そっとアプリを消した。
野良ダンジョンを攻略するのは限界に達しつつあった。
ダンジョンが発見されるスピードは案外と早く、攻略の途中で一般人に発見されてしまうのだ。
そのため「謎の実力者に途中まで攻略されたダンジョン」がニュースになってしまうことがあった。
このままではいつか、ダンジョンを攻略している時に誰かに見つかってしまうかもしれない。
正規の探索者ではない弔木としては死活問題だ。
「高く売れるといいな……」
弔木は、無意識のうちに早足で歩いていた。
向かう先はとある公営住宅の一室。
目的は、アイテムの換金だ。
「魔力ゼロ」の弔木は正規ルートでアイテムを売れない。
そのため弔木は自分で「裏商人」の店を見つけだしたのだ。
「D棟の601、だったな。毎度面倒だな」
弔木はエレベーターがない公営住宅の階段を上った。近くに誰もいないことを確かめ、インターホンを鳴らす。
「殺すぞ」
インターホンから物騒なセリフが飛びだしてくる。
弔木は合言葉を返した。
「イタリア産のミューズリーはいかがですか?」
「フランス産はないのか?」
「ネズミに食われました」
がちゃり、と内側から鍵が開く音がした。
中は完全に改装されていて、見事に「異世界の道具屋」のような趣になっていた。
「魔力ゼロの探索者か。今日は何を売りに来た?」
弔木を迎えるのは、ネズミの姿に化けた「何か」だった。
弔木は名前も素顔も、性別すらも知らない。
「……魔石と、武器を少々」
弔木はバックパックを開け、アイテムをカウンターに並べた。ネズミ男はアイテムを一瞥して、即答した。
「100万だ」
半年前だったら即座に取引が成立していただろう。
が、これでは安すぎる。
「もう少し何とかならないか?」
「ここは表には出られない奴らの店だ。俺も危ない橋を渡りながらやっている。相場どおりだ。もっと高く売りたいなら、正規の資格を得ることだ」
ネズミ男はミューズリーをポリポリと食いながら、言う。
「分かってる。でも最近、物価が上がりすぎて困ってるんだ」
「ダンジョンバブルってやつだ、仕方がない。むしろこれまでが安すぎたんだよ」
ネズミ男は淡々とした調子で反論する。
世間がダンジョン活況に沸く中、物価が恐ろしく高騰していた。
牛丼一杯、3000円。
コンビニコーヒーが1000円。
月の家賃は80万円にまで跳ね上がっていた。
100万円程度の金など、あっと言う間に生活費に消えてしまうのだ。
「他を当たるか?」
「いや、これで手を打とう」
「まいどあり。数えてくれ」
男はカウンターの上に札束を置いた。
ネズミの姿に化けているが、手は人間のままだった。
手は所々にタコがあり、節くれだっていた。
顔を隠していても素性は透けて見える。
戦闘に慣れた、男の手だ。
しかし弔木は無用の詮索はしない。
それが表には出られない〝裏ダンジョン界隈〟の不文律だからだ。
弔木は札束を数え、バックパックの中にしまった。
「また来るよ」
自由を求めてダンジョン探索に本腰を入れたものの、思わぬ障害にぶつかってしまった。
金を稼げたかと思えば、出て行く金がケタ違いに跳ね上がる。
人生とは中々上手くは行かないものだ。
外に出ると、弔木はため息をついた。
「っても、バイトを続けるよりは全然マシだけどな。自由だし。……おっと。見つけたか?」
弔木は首都圏のあちこちに〝闇人形〟を展開している。〝闇人形〟が新しいダンジョンを見つけると、弔木に知らせるように命令している。
まさに今、〝闇人形〟が新しく出現したダンジョンを発見したのだ。
そして弔木の脳裏には、〝闇人形〟が見ている光景が写っているのだ。
「荒川の河川敷か。近いな。行ってみるか」
野良ダンジョンの攻略は時間との勝負だ。
もたもたしていると一般人に通報され、あっと言う間にダンジョン管理機構の監視下に置かれてしまう。
弔木は駆け足で団地を抜ける。
が、そこに邪魔が入った。
「待ってくれ! 止まれ! 止まるんだ!」
中年男は両手を広げ、弔木の前に立ちはだかった。
その顔に見覚えがあった。
半年前に八王子ダンジョンで会った男――大泉だった。
「あの時のおじさんじゃないか」
「来るならここだと思ってたよ。待ち伏せしていた甲斐があった。なあ弔木君、話を……」
「急いでる。話してる余裕はないんだ」
「分かってる! でもこっちも本気なんだ!」
弔木は訝しむ。
「まさか金を強請りにでも来たのか?」
「違う! とにかく話を聞いてくれ!」
「五秒だけだ」
大泉は表情を引き締め、手短に答えた。
「うちの会社に来てくれないか?」
「は?」
「だから、うちの社員になって欲しいんだ。前の会社は畳んだ。借金も返した。新しくダンジョン攻略の会社を立ち上げたんだ。野良ダンジョンに行く前に、話だけでも聞いてくれ。頼む!」




