離島民のつぶやき その2
少し前に投稿した短編の続きとなります。
今回も、体験、体感、私見で書いています。
興味がある方は、軽い気持ちで読んで頂けると嬉しいです。
前回の最後に、離島のガソリン価格について書いたけれど、輸送コストがかかるのはガソリンだけではなく、家電や食料品などの生活必需品もそう。
通販番組の注意書きにある『一部の地域』に該当するので、ネットや通販でモノを買うと送料だけでも高くつく。
送料込みの値段を確認するのは重要で、送料無料だとかなりテンションが上がる。
食料品も都会に比べると割高。けれど、島で働く人の給料はお世辞にも高いとは言えない。
特売日の開店直後は、こんなに人がいるのかと感心するくらい訪れる。
離島なりのショッピングモールが建ったり、ネットの普及で生活は変化し、賑わっていた商店街は寂れてしまった。
ほとんどの店が閉店したのに、呼び方は変わらずアーケード。細々と商売を続けているのは、直ぐに店を畳むと予想していた店だったりする。
我ながら失礼な話。先を見る目がない。
足しげく通った本屋が閉店してしまった時は、悲しかった。棚に並んでいる本を手に取って、面白そうな漫画を選んでいたのも今は良い思い出。
本屋は文房具店も兼ねていて、しょっちゅう店主がいない。
防犯カメラなんてあるワケもなく。万引きしてくれと言わんばかりの大らかさ。
店の中を探していなければ、大抵外で誰かと話しているか、若しくは休憩中。
島民の憩いの時間。心静かに待つべし。
離島の本屋における新刊の発売日は、3日遅れで覚えておけばいい。2日遅れで棚に並んだら、かなりの幸運。週刊誌ですらズレていたりする。
子供だって本を買うにはお金が必要。ただ、離島はアルバイト自体が多くない。…というか、学生は働けなかったりする。
学生時代、高校生でも夏休みと冬休みの短期バイトしか認められていなかった。
そこで家庭内アルバイトの出番。農家は田植えを手伝ったり、漁師はワカメやヒジキを干したり、地引き網漁に無理やり付いていったり。
各家庭によって稼ぐ方法が様々でも、肉体労働の尊さを学ぶ機会。明らかに労働基準法に則らない時給も、子供にとっては大金。
タダ働きの分は、家族の時間を確保した幸せとして還元。
祖父母の手伝いをすると、報酬が多めだったりして嬉しい。ただ、方言が激しすぎて言ってることがよくわからなかったりする。
高齢者でも、当然標準語は理解している。でも、話せるのは方言のみという人は多い。「標準語で例えると、こういう意味だ」という説明が苦手なだけ。
『それじゃ会話するのは無理』と身構える事なかれ。
単語の意味が不明でも、会話の流れから自然に理解できるようになる。方言といえども、日本語には変わりない。
学校では『努めて標準語で話すこと』を方針に掲げている時期があった。今では『文化の継承』ということで、方言を学び、積極的に使っていこうという流れに変化している。
標準語は島を出た後でも覚えられる。逆に、島を出てから方言を習得するのは難しい。
でも、島から出るのが既定路線だから、標準語が必要なときは必ず来る。
元々島民じゃない人は、会話の中で知らない単語が出ても、とりあえず相槌を打つらしく、後で知って反省しきり。
方言で苦労しているのは、転勤などで島の外から来た人達だ。
特に医療関係者。
高齢者が多く通う島の大きな病院には、離島医療を経験するために2~3年限定の転勤で勤務している医師も多い。
付き添いやお見舞いで病院に行くと、方言しか話せない高齢者がなにを言っているのか理解できず、聞き返している若い看護師さんや医師がいたり。
四六時中家族が付き添っているわけではなく、あまりに理解不能だと地元出身の看護師さんがヘルプで呼ばれている。
実際は「貴方の言う通りだ」と言ってるだけだったりする。ニュアンスだけでは医療行為を行えないから、意思確認は大切。
島出身のベテラン看護師さんは、逞しい人が多い。
感情表現が豊かで、誰であっても知り合いのように話す。敬語も抜きで、冷たいと思えるほど患者に強く意見する。
癖が強い患者を相手にするのに必要だと今は理解できる。でも、『看護師は恐い』という幼少期のイメージが抜けきらない。
マザーテレサというより肝っ玉母さん。
離島では最先端医療は受けられない。設備がなく、必要なら船や飛行機で本土に渡り入院や手術。必然的にお金もかかる。
ドラマのように神の手を持つ医師がいたり…なんてことはない。
脳出血のように緊急を要する症状は、ヘリで本土の大きな病院へ搬送される。
○の中にHの文字はヘリポート。とても重要な施設。
親戚が夜中に倒れ、海上自衛隊のヘリで搬送されて緊急手術を受けたことがある。「お礼をしたいなら、感謝の手紙がいいと思います」と教えられた。
日夜問わず任務を遂行する自衛隊に感謝。
「本土との間に橋を掛けてほしい」という願いは、昔からよくある冗談で夢でもある。
実現すれば、時化で流通が止まることもなく、移動も便利になるけれど、話題にすら上がらない。
海上に道路を作るとなると、距離にして1、2キロ程度でも工事が難しそうなのに、何十、何百キロとなればより困難で、かかる予算も莫大な額。
頑張ろう、ふるさと納税。
離島の返礼品は、悪くないと思う。
本土であれば、いかに辺鄙な場所であっても陸続きで、いつでも動けることは羨ましい。
夜中に島から本土に渡ろうと思えば、漁船か遠泳。どちらも現実的じゃない。
泳ぐといえば、島にカナヅチは少ない。家族や友人が泳ぎのコツを教えてくれるし、遊びの延長で泳げるようになる。
泳ぐのはもっぱら海で、プールに行くより家の玄関から走って海に飛び込んだ方が早い。5分とかからず水の中。
川で泳ぐのも気持ちいい。上流かつ木々に日光を遮られて影になるような川は、水が澄んでとにかく冷たい。
体感では、河童でもまともに動けないと思うレベル。
海に比べると、日焼けしても比較的軽症なのが川の魅力。潮は天然の日焼けオイル。
ほんの僅かな期間だけれど、蛍の発光を見られるのも川。
幻想的な光景は、一見の価値あり。
島民は泳ぎが達者。でも、競泳のように速く泳げるわけではなく、飛び込んだり潜る方が上手い。
ほとんどが自己流泳法で、平面ではなく縦に泳ぎ、水深も深い場所を好む。
潜水が得意でも、サザエやアワビを勝手に採るのは密漁なのでNG。どこで見ているのか怖いオジさん達が現れる。
怖いと言えば、年に1回『地獄の釜が開く日』が存在する。海で泳ぐと海底に引きずり込まれるという言い伝えがあり、その日だけは避けた。
今のところ、オカルトも含めてその日に事件が起こった噂は聞いたことがない。
ただ、親から「その日に泳いだら死ぬ」と教えられ、怖がらせようとしている風でもなく淡々とした態度が怖さを増長した。
閻魔様や地獄も信じてしまうというもの。
閻魔様は島にいないけれど、『こんぴらさん』の愛称で親しまれ、海の守り神である金比羅様は、島で最も知られる神様。
あちこちに祀られて島を見守ってくれている。
『離島』で連想するのは、どうしても海。
ただ、陸にも沢山の生き物が生息していて、離島で有名な動物といえば、ツシマヤマネコやイリオモテヤマネコ。
天然記念物クラスに有名じゃなくても、島の花や昆虫には固有種が存在する。全国的にはマイナーでも、島民にとってはちょっとした自慢。
島の代表的な動物で、真っ先に思い浮かぶのは鹿。次に猪。
うり坊は可愛い。
単独ならば。
夜間に車の前を横切る猪の親子は、ドラム缶と付随する小さなミサイルに見える。
バイクや自転車で走行中に、横から突進を食らってしまい、転倒して骨折した人もいたりして。
鹿も夜に人里まで下りてくる。山から駆け下りる勢いそのままで、突然道路に飛び出してきたら死ぬほど驚く。
忍者のように道路脇の死角に潜んでいることもあるから、夜はとにかく安全運転を心掛けるべき。
堂々と通せんぼする鹿もいて、車の前に立ち塞がり、目が合っても「なにか?」と堂々とした態度で素知らぬ顔。スラッとした長く細い足を見せつけてくる。
まるでモデルのような佇まいの憎いヤツ。
その他には野鳥も多く、トビなどの猛禽類が優雅に空を飛んでいる。
だからなのか、あまりカラスや鳩を見たことがない。
道の真ん中に立つツルに遭遇したこともある。珍しいことなのかは不明。
ちなみに、「下校中に草むらでパンダを見た」と言い張っていた同級生がいたけれど、さすがにいない…はず。
離島は、そこまでアンタッチャブルな場所じゃない。
でも、本当にいるなら面白い。
今回はこの辺で失礼します。
また時間があれば書きたいと思います。
読んで頂き、ありがとうございました。