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温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd  作者: 秋山如雪
第2章 渋温泉
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9湯目 癒しの温泉

 湯田中渋温泉。


 そこは、どちらかというと近代的な湯田中温泉と、古くからあり歴史や情緒が感じられる渋温泉とに分かれるが。


 ほとんど隣接しているため、まとめて「湯田中渋温泉」とも呼ばれる。


 歴史は古く、奈良時代からあるとも言われ、戦国時代には「武田信玄の隠し湯」の一つとも言われた。


 その温泉街の入口、湯田中駅前に、私と花音ちゃんのバイクが着いた時、時刻はすでに12時を少し過ぎていた。


 非常にレトロな外観を持つ、この湯田中駅の正面に着いても、彼女たちの姿が見当たらなかった。


 私は、LINEで下級生の二人に、それぞれ連絡を入れると。


「すみません。速く着いたので、駅前の日帰り温泉前にある足湯にいます」

 と、早速、美来ちゃんから連絡があった。


 その駅前の日帰り温泉とは、調べてみると、反対側の旧駅舎の方で、なんと駅に日帰り温泉が併設されているという。


 何とも豪勢というか、「温泉」らしい場所だった。


 そして、足湯は、その日帰り温泉施設にほど近い駅前にあり、すぐに彼女たちの姿は見つかった。


 一旦、バイクを降りて、近づくと。


「遅かったっすね。ウチら、速く着いたんで、ここでまったりしてました。ホンマは温泉入りたかったんですけど」

「何言ってるの、美来ちゃん。先輩たちを差し置いて、さっさと温泉入ろうとしちゃダメでしょ」

 呑気な1年生の野麦美来が、のんびり屋の安房のどかにたしなめられていた。


 私は苦笑いをしながらも、まずはバイクを置いてくると告げ、二人には足湯から上がって待つように指示して、花音ちゃんと共に駅前にある駐輪スペースに向かった。


 後は、合流したのだが。


「で、どこに行くんすか? なんやら、ここには9つも共同浴場があって、『温泉はしご』みたいなことも出来るみたいっすよ。めっちゃおもろそうっすね」

 すっかり乗り気な、元気な1年生、美来ちゃんの勢いに押されそうになっていると、


「ダメだよ、美来ちゃん。私たち電車で帰るんだから、そんな暇ないって」

 またものどかちゃんに言いくるめられていた。


 なんだかんだで、いいコンビで、見た目に反して、のどかちゃんはしっかり者に見えた。


「じゃあ、行こうか。っていうか、どこの行く?」

「とりま、時間もないですし、駅前のこの日帰り温泉でいいのでは?」

 と、携帯を見ながら花音ちゃんが口に出したので、他の二人に了承を取ると、元々入る気満々だった美来ちゃんが喜び勇み、のどかちゃんも反対しなかったので、入ることになった。


 古いレトロな駅舎にそのまま併設されている、日帰り温泉。

 こういうのは珍しいのだが、料金もかなり安く、良心的だった。


 中はこぢんまりとしていたが、綺麗に掃除が行き届いており、清潔感が感じられた。


 早速、脱衣所で、服を脱ぎ、温泉に入る。


 内湯と露天風呂がそれぞれ1つずつの小さな温泉施設だったが。


「気持ちいいっすねー」

 タオルを湯殿の脇に放り投げながら、肩まで浸かった美来ちゃんが大きな声を出す。


「美来ちゃん、行儀悪いよ」

 と、のどかちゃんにたしなめられながらも、彼女はご機嫌だった。


「ここは、確か塩化物泉って言って、色々と効能が……」

 卒業してしまった、琴葉先輩のように、上手く説明するつもりが、


「ああ。瑠美先輩。そういうの面倒だからいいです」

 いきなり花音ちゃんに遮られていた。


「面倒って……」

「ウチもいいっす。気持ちよくて、癒されればそれで」

「私もです」


 結局、反対多数により、私の温泉講義計画は、あっさり潰れていた。


 だが、ここのお湯は、何とも「癒し」になると言っていいもので、100%源泉かけ流しで、まるで「大地から恵みを受けている」ような、何とも心地よいものだった。


 確かに、これほどの泉質を誇る温泉なら、もはや言葉はいらなのかもしれない。


 極上の料理を味わうと、食レポがあまり意味をなさなくなるのと似ているかもしれない、と思いつつ、この温泉を堪能することにした。


 すると、

「ただ、ウチら電車で来とるさかい、速く帰らなあかんのが残念ですね」

 美来ちゃんだ。


「そうだね。何時の電車で帰るつもり?」

「そうですね。今日中に帰りつくためには、遅くても16時には電車に乗る必要があるので……。あと3、4時間くらいしかいれません」

 代わりにのどかちゃんが答えた。


「そっか。やっぱ片方がバイク、片方が電車じゃ、長くいられないね」

「ほんなら、次からはやっぱタンデムで行きましょう!」


 めちゃくちゃ乗り気な美来ちゃんに対し、いつものようにシニカルな態度で、否定にかかるのが、予想通り花音ちゃんだった。


「それは面倒。第一、免許取ってから3年は経たないと、タンデムでの高速道路走行は出来ない」

 彼女の言いたいこともわかると言えばわかる私だったが、要するに二輪免許を取得してから3年経たないと、高速道路でのタンデム走行は出来ない。

 1年以上だと、一般道のタンデムは可能になるから、私も花音ちゃんも可能にはなる。


「では、下道で行けばよろしいのでは?」

 という、のどかちゃんの一言にも、彼女は、面倒臭そうに、


「ダルい。面倒」

 というだけで、乗り気ではなかった。


 ここに来て、やはりこの問題が持ち上がってきたな、と私は改めて感じるのだった。


 1年生の二人は、まだバイクに乗れる年齢ではない。2年生の花音ちゃんと、3年生の私はバイクには乗れるが、タンデムに慣れてない上に、高速道路の走行は出来ない。


 さて、これから先、彼女たちが免許を取るまでの間、どうすべきか。もしくは、免許を取らない場合、どうすべきか。


 問題は山積みだった。

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