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温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd  作者: 秋山如雪
第7章 中房温泉
35/43

35湯目 秘境の温泉と進路について

 北信州、中房温泉。


 ようやく着いたそこは、まさに「秘境の温泉地」とも言うべき、山の中に存在した。


 バイクを降りて、日帰り温泉施設に入る。

 それぞれ受付を済ませ、脱衣所で服を脱いで、体を洗って内湯に入り、続いて、全員が露天風呂に入る。


「うー、寒っ!」

 美来ちゃんが思わず声を上げる。


 実際、気温は10月とは思えないほど、寒かった。

 全体的に、空気感が山梨県とは全然違う。


 私たちが住んでいる甲州市も山の中といえば、山の中だが、どちらかというと盆地に位置している。


 対して、ここは標高が1400メートルを超える山の中だという。


 しかも、道中は晴れていたのに、今は曇っていて、今にも雪が降ってもおかしくないくらい寒い。

 陽射しがないと、気温は一気に下がる。


「でも、こういう寒い時に入る温泉は、気持ちいいですねー」

「さすがのどかちゃん。わかってきたね」

 私がそう告げると、彼女は、ニコニコと嬉しそうに微笑んだ。可愛らしいところがある子だった。


 一方、

「ところで、瑠美先輩」

「何?」

 私の隣にいた、不機嫌な猫のような顔の花音ちゃんが発した。


「進路はどうするんですか?」

「進路? 大学に行くよ」


「山梨大学ですか?」

「ううん。東京の八王子にある大学」


「マジっすか。じゃ、先輩は卒業したら、もう山梨県から離れて一生、戻らないんすか?」

「一生は大袈裟だけど、実家を離れて一人暮らしかな」

 大袈裟に驚く美来ちゃんに答える。


「八王子ですかー。ちょうど、父が八王子に通勤で通ってるので、安いアパートがないか、聞いてみますねー」

「ありがとう。のどかちゃんのお父さんって、八王子で働いてるの?」


「ええ。山梨県には仕事がないですからね。八王子の方が東京なんで、仕事があるんですよ」

 と言うのどかちゃんに対し、鋭い声がかかった。


「そもそも八王子って、東京なの?」

 花音ちゃんだった。


「東京ですよ、一応。23区じゃないですけどね」

「イメージないなあ」


「まあ、八王子は、多摩地方の都市なので、一般的な東京をイメージしない方がいいですね。新宿まで出るのに時間がかかりますし、冬には雪も降ります」

「マジで! 八王子、すげえ!」

 美来ちゃんが大袈裟に驚いていたが、私自身、行ったことはなかったが、何となくイメージではそう思っていた。


 何しろ、東京の中心部から40キロ近くは離れているのだ。

 地図で見ても、ほぼ「山梨県」との県境に近いのが、この八王子市だ。


「へえ。でも、先輩、将来はどうするんですか?」

 花音ちゃんの問いに、私は明確な答えを持ち合わせていなかった。


「まだわからないかな。大学で探してみるよ」

「じゃあ、温泉ツーリングは……」

 言いかけた、花音ちゃんの言葉の意味を私が察して、先に答えた。


「しばらくなしかな。私は受験勉強があるし。行くなら、花音ちゃんが先導して、後輩の二人を連れて行って」

 そう告げると、露骨に不満そうな顔をして、私の顔を睨んでくる花音ちゃんだった。


「なんで私が……」

 ぶつぶつと文句を言い出しそうな雰囲気だった。


「まあまあ、花音先輩。ウチら、時間はあるさかい。連れて行って下さい」

「よろしくお願いしますー」

 後輩二人に言われて、渋々ながらも、花音ちゃんは頷いていた。


 ちなみにこの中房温泉。

 江戸時代から続く老舗の温泉街で、住所は長野県安曇野市穂高。つまり、もう長野県と岐阜県の県境、北アルプスにある穂高岳の近くにある。


 泉質は、単純温泉だが、源泉かけ流し(加水・加温・循環・着色)は一切していないという。

 高温の温泉を空冷式と水冷方式で浴槽の温度を適温にしているらしい。また、浴槽は毎日一回、わざわざお湯を入れ替えて清掃しており、温泉を常に最高の状態に保つようになっているという。


「はあ。極楽やわー。しばらく出たないですねー」

「本当ですねー。このまま寝て帰りたいですー」

 後輩の二人は、温泉を満喫していた。


 それを見て、私はほくそ笑むが、彼女たちと一緒に温泉ツーリングに行ける時間は、実はもうほとんど残されてはいなかった。


 つまり、受験勉強という「壁」が私に立ち塞がることになる。


 結局、この日の温泉ツーリングは、中房温泉の日帰り温泉施設に入り、帰りに道の駅で食事を採り、後は再び下道で真っ直ぐに帰宅。


 全員、無事に帰宅したのだった。


 季節は一気に進むことになり、私はバイクから遠ざかった。

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