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温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd  作者: 秋山如雪
第7章 中房温泉
33/43

33湯目 勇み足

 10月中旬。

 私たちは、初めて「4人」でそれぞれのバイクに乗り、温泉ツーリングを敢行した。


 そして、その旅は、思いのほか、過酷なものになるのだった。


 出発は、いつものように塩山駅近くのコンビニに集合。時間は午前7時。


 だが、

「美来ちゃん。そんな薄着で寒くない?」

 彼女、野麦美来の格好がいかにも寒そうに見えた。


 一応、ライダースジャケットらしきものは着ていたが、明らかに夏物の薄手のコートというより、パーカーみたいなものだったからだ。


「大丈夫っす。ウチ、寒さには強いんで」

 と言っていたが、どうも不安になる。


 さらに、

「すみません。遅れましたー」

 と言って現れたもう一人の1年生、安房のどか。


 彼女は、ロングスカート姿に、やはり薄手のジャケット姿だった。

 いくら猛暑が長引いている地球温暖化真っ盛りの時期とはいえ、10月の山は寒い。


 私が同じように、彼女にも聞いてみると、

「大丈夫ですー。一応、防寒着も用意してきましたので」

 彼女の方は、用意周到にリュックに、防寒着を用意してきたらしい。


 スカートなのは、本来、バイクではNGだが、彼女の場合、またがる必要がなく、足を置くだけのスクーターだから、この際、よしとしようと思った。丈の長いスカートなら、風で大きくめくれることもないだろう。


 そして、花音ちゃんだけは相変わらず、ブレなかった。

 逆に暑そうにも見える、ライダーススーツをきっちり着こなしてきて、今にもサーキットに行きそうな格好だ。


「何ですか?」

 私がニコニコしながら、花音ちゃんを見つめていたのが、気になったのか。彼女から怪訝な視線を向けられていた。


「ううん、別に。花音ちゃんは、ブレないなあ、って思って」

「いいじゃないですか。私はバイクが好きなんです」

 その一言に、私は安心した。


 彼女だけは、何があろうとブレないだろう。

 先導は、珍しく野麦美来、安房のどかの1年生コンビが務め、そのすぐ後ろを2年生の花音ちゃんが見守るように走り、私は最後方になった。


 最初から不安を残したまま、スタートしたこのツーリング。


 のどかちゃんが100ccのバイクに乗っているため、高速道路は使えない。下道だけで長野県北部まで行くことになった。


 距離、約160キロ。時間にして4時間。昼くらいには着けるだろう。

 そこから日帰り温泉に入って、真っ直ぐ帰れば、夕方には家に着ける。


 実際、不安はあったが、彼女たちは思った以上に「速かった」。

 美来ちゃん、のどかちゃんはかなりかっ飛ばしており、それに従う花音ちゃんがまるで警察官のようにぴったりマークして二人を追う。


 私は、マイペースに後ろから追った。


 もっとも、途中に立ち寄る道の駅を指示していたので、彼女たちなら待っていてくれるだろう、と見越していた。


 最初の休憩ポイントとなる、道の駅はくしゅう。山梨県北杜市にあり、長野県との県境に近い。甲州街道(国道20号)沿いにある。


 そこの駐車場に私が入っていくと。


 何やら、言い争いの声が聞こえてきた。

 ヘルメットを脱いで、彼女たちの元に向かう。


「せやから、きちんと車の流れに乗ってますやん」

「そうですよー」


「流れに乗るのはともかく、あんたらは無理な追い越しとすり抜けが多すぎるって言ってるの。あんな運転してたら、そのうち事故るよ」

 なるほど。すぐに理解した。


 無理な運転をしていた1年生二人に、花音ちゃんが怒っていたのだ。なんだかんだ言っても、彼女は公道では無茶な走りはしない。

 サーキットでは滅法強いし、速いが、その分、公道では速いものの、危険運転はしないのだ。


 だからこそ、危険運転をする後輩を放っておけなかったんだろう。


 私も間に入って、事情を聴いて、アドバイスを加える。

「花音ちゃんの言う通りだね。すり抜け自体を否定する気はないけど、2人のバイクは小さいから、余計に危ない。細心の注意を払って、ゆっくりすり抜けすること。すり抜けでスピードを出すのは、危ないよ」


 花音ちゃん曰く。

「すり抜けでスピード出しすぎ」

 だった。


 確かに、街中ではスクーターのような小回りが利くバイクは有利で、よくすり抜けをするライダーが多いが、信号機のある交差点で停まっている車の横を、猛スピードで駆け抜けるライダーがいる。


 あれは、いざとなったら、本当に危ないのだ。


 花音ちゃんに加え、私にも言われたことで、ようやく彼女たちは、

「すんません、わかりました」

「はい。気を付けますー」

 と納得はしてくれるのだった。


 道は続く。

 まもなく信州に入ろうとしていた。

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