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温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd  作者: 秋山如雪
第5章 有馬温泉
23/43

23湯目 日本三名泉

 それは、関西出身の美来ちゃんの唐突な一言から始まった。


「瑠美先輩。日本三名泉の有馬に行きましょう」

「有馬? 何で?」


 ちょうど、8月頭に小豆島に行って、帰る途中の、とあるSAで休憩中の時だった。


 これがきっかけで、話が急展開することになる。


「ウチは行ってませんけど、先輩たちは草津に行ったと聞きました。ほんで、この間は下呂も行きましたよね。残るは有馬だけです」

「まあ、そうだね」


「ほんなら、せっかくですし、夏休み中に、行きませんか?」

「えっ。また行くの? でも私、夏季講習があるし」

 そう。一応、3年生の私には、受験に備えて「夏季講習」という厄介なものがあった。


 私の進路自体は、実に平凡なもので、大学に進学したいというものであり、単純に就職の際に有利になるから、という安易な考えから来たもので、特に将来の目標も、なりたい職業もなかった。


 だが、志望する大学に受かる可能性を増すためには、どうしても予備校に通う必要があったので、この6月頃から通っていたのだ。


 そして、当然ながら、受験生の夏休みは勉強中心になる。


 8月はこの「夏季講習」にかなりのスペースを費やすことになっていた。


「夏季講習はいつまでですか?」

「8月29日までだね」


「ほんなら、8月30、31日で行きましょう」

(強引だなあ)

 内心、彼女の有無を言わせないような強引さに、閉口というか苦笑していると。


「いいですねー。わたくしも行きたいですー」

 お嬢様っぽい口調で、のどかちゃんが応じ、


「ま、いいんじゃないですか。瑠美先輩にも息抜きは必要でしょうし」

 ついには花音ちゃんまで賛成していた。


「しょうがないなあ。で、宿は?」

「それなら、ウチに任せて下さい。関西は詳しいんで、有馬の近くで、安い宿探しておきますんで」


「うん。わかった。じゃあ、プランも任せるね」

「はい。タンデムは出来ますけど、高速は使えないんで、裏ルート経由で行きます」


 と、聞いて、私は、

(裏ルート?)

 という部分に、一抹の不安を覚えたが、あえて聞かずに、彼女に任せて、頷いた。


 そして、これが後々、後悔に繋がることになるのだ。


 そこからの展開は、あっという間だった。


 私は、8月のほとんどを夏季講習に費やし、ほとんどバイクに乗る暇もないまま、8月29日を迎えることになった。


 初めて、しかも1年生に、ツーリングプランを任せたまま、夏休み最後の2日間を迎えることになる。


 出発前日の夜。


 温泉ツーリング同好会が使っている、グループLINEに、翌日の待ち合わせ場所と時間が、主催者でもある美来ちゃんによって、載せられたが、それが驚くべきものだった。


―8/30 AM4:30 塩山駅前に集合―


「4時半!」

 思わず声を上げていた。


 早すぎるというか、非常識な時間でもある。


 そもそも8月末のこの時期の、山梨県の日の出時間は、大体5時15分前後。つまり、まだ日の出すら迎えていない。


―何でこんなに早いの?―


 気になって、念のために書いてみると。


―すみません。ただ、下道で有馬まで行くとなると、12時間以上かかるんです―


(12時間! 無理ゲーじゃない? しかも休憩入れたら、15時間くらいになりそう)

 実際に、携帯の地図アプリから検索をかけると、約12時間30分。それも休憩を入れない時間で、距離的には約500キロあった。


 だが、内心、一気に不安になる私の心とは真逆の人物がいた。


―面白い。私ならもっと早く着いてみせる―


 確認するまでもないが、花音ちゃんだった。


 そして、その花音ちゃんと、美来ちゃんが、波乱を呼ぶことになるのだった。


 渋々ながらも、私は了承の返事を出すが、


―もし待ち合わせ時間に遅れたらごめんね―


 念の為、断りというか予防線を張っておいた。


 もっとも、花音ちゃんからは、


―先輩。遅れるとかありえません。今夜はさっさと寝て下さい―


 と、返信される有り様。


 こうして、急きょ、私たちは有馬温泉に行くことになるのだった。

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