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温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd  作者: 秋山如雪
第4章 小豆島温泉
19/43

19湯目 エンジェルロード

 島に着いた時には、17時を回っていたが、夏の日は長い。


 私たちは降りてすぐに停まった。


「どうする? 島を一周する?」

 今日の宿は、島の東側にあるが、一周したらどのくらいの時間がかかるかわからない。


 そんな私に、手で制したのは花音ちゃんだった。

「一周は明日でいいでしょう。今日は軽く道の駅に行って、エンジェルロードに行きましょう」

 と、彼女は言い、元々、そのエンジェルロードに行きたいと言っていた、美来ちゃんも頷く。


 先輩たちも頷き、私を先頭に出発となった。


 小豆島は小さな島だから、何もなくて、交通量も少ないだろう、と思っていたら。


 フェリーを降りてすぐの土庄町の中心地はそれなりに栄えていて、店も車も意外なほど多かった。


 だが、そこから少し離れるだけで、あっという間に交通量は減る。


 小豆島は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で、人口が約2万8000人。島を一周しても、約82キロ。


 だが、実は交通量も信号機もそれなりにあるし、観光地もあるので、車でも一周で3時間くらいはかかるらしい。


 そうすると、夜になってしまうので、一周は後回しにして、まずは道の駅に行ってみることにした。


 土庄港フェリーターミナルから、10キロほど、約25分くらいで着いた。


 道の駅小豆島オリーブ公園。


 小豆島は、「オリーブの島」と呼ばれるくらい、温暖な地中海のような島で、このオリーブの見頃は5月から6月で、白くて小さい可憐なオリーブの花が咲くそうだ。


 この時期、花は咲いてなかったが、オリーブの実はついていた。


 そして、ここには、特徴的な風車がある。


 駐車場にバイクを停め、その風車を見に行った。


 少し歩くと、すぐに着くが、何とも地中海的な雰囲気がある、小さくて、可愛らしい白い風車が丘の上に建っていた。


 それを見て、一番喜んだのは、フィオだった。


「すごいネ! イタリアのシチリアを思い出すヨ!」

 彼女曰く。


 彼女自身は、イタリアの中部、ウンブリア州ペルージャ出身だが、両親に連れられて小さい頃にシチリア島に旅行に行ったことがあるという。また、こうした風車の風景はイタリアでは珍しくないらしい。


「まあ、シャレちゃいるが、こういう小綺麗な景色は、江戸っ子のあたしには向かんな」

 などとまどか先輩は呟いていた。


「ええとこやろ?」

「本当ですね。この時間になって、少し涼しくなってきましたし」

 美来ちゃんと、のどかちゃんの1年生コンビの会話だ。


 実際、夕方になって涼しくなってきたというのもあるが、ここは周囲を海に囲まれた島なので、海風が吹くと、実は盆地や都市部よりも、各段に涼しくなる。


 この道の駅自体、もう店が営業時間外になっていて、併設されている日帰り温泉は休業中だった。


 つまり、もう行くべきところがない。


 私たちは、再びバイクに乗り、今、来た道を戻る。


 港に戻るのだが、その港の近くに、目的地があった。


 次第に西日が眩しくなってくるが、まだ日が沈む気配がない。この時期の小豆島の日没時間は19時頃。


 1年で最も日が長いのは、6月から7月頃だが、それでもこの時期でも十分に日が長い。


 そして、エンジェルロードと呼ばれる海岸に着いた。日自体、傾いてはいたが、まだ完全な日没には時間がかかりそうだった。


 だが、それでも夕陽が海面を染めて、太陽が煌めき、海に反射してオレンジ色に染まる様子は、すでに十分美しかった。


 砂の道が一本、沖合に向かって伸びている。


「うおっ。すげえな!」

 まどか先輩が思わず叫ぶ。


Bella(ベッラ)!」

 フィオのイタリア語は、わかりやすいというか、予測がつきやすい。「綺麗」という意味だろう。


「本当ですね」

「めっちゃ綺麗やん!」

 1年生組の二人は、早くも写真を撮り始めていた。


 無言のまま立っている、花音ちゃんに私は並び、声をかける。

「どう?」


 彼女の反応が一番気になるのは、恐らく彼女がこの中で、一番、感情表現に乏しい、と私が見ているからだろう。


「まあ、思ったよりいいですね」

 相変わらず、素直じゃないというか、ツンデレなのか、この子は。と、思ったのは、そう言っているくせに、その表情は心なしか嬉しそうというか、感慨深げに見えたからだ。


 ここで、言い出しっぺの美来ちゃんが、説明してくれた。


 つまり、「エンジェルロード」、「天使の道」の由来を。


 元々、ここは1日に2回、干潮時に海の中から砂の一本道が現れるという。そして、大切な人と手をつないでそこを渡ると、願いが叶うと言われているそうだ。

 何ともロマンチックな話だが。


「でも、私たち。誰もカップルで来てないじゃない?」

 私が疑問を呈すると、


「まあ、いいんじゃねえか、別に。何なら、瑠美は花音と行けばいい」

 まどか先輩が、私と花音ちゃんに対して、どう思っているのか、わかる一言だったが、その花音ちゃんは、


「な、なんで私が瑠美先輩と……」

 と言いながらも、何だか恥ずかしそうにしているのが可愛らしい。


 今や性別による、恋愛差はなくなってきているから、このまま百合の道に進んでしまいそうな気すらしてくる。


 しかもちょうど今、「干潮」時で、運よく砂の道が出来ていた。


 私は内心、花音ちゃんと二人で渡ってもいいとすら思ったが、せっかく全員で来たので、


「みんなで渡りましょう」

 と、行って自ら前に立つ。


 この不思議な「砂の道」は、沖合にある弁天島という島と繋がっている、という。


 その先にさらに中余島、大余島という島があるが、ほとんど繋がっている。もっともそれら沖合の島に行ってみても、ほとんど何もないのだが。


 看板には、「エンジェルロード(天使の散歩道)」と書いてあった。


 この不思議な光景と、海に続く一本道は、普段、山に囲まれた「海なし県」の山梨県に住む私たちには、とても貴重な体験になるのだった。


 結局、ここで小一時間も時間を潰し、すっかり日が暮れてから、私たちは宿に向かうのだった。


 その日は、日帰り温泉に行くことなく、ホテルの風呂を堪能した。

 温泉自体は、明日行くことになった。


 何より2泊3日の長旅で、明日は香川県の高松で1泊してから帰る予定だから、一日中、島を堪能できるのだ。

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