前世のこと
遅れてすみません。
シリアスは筆が進まない。
歯を磨き終わってベットで横になっているとふと思い出す。
そうだ!セレナは前世の私のことを覚えているかのような反応だったはずだ。
それについて話をしようとしていたのにすっかりさっぱり忘れてしまっていた。
ベットから立ち上がり、ウォーターサーバーから水を汲む。
セレナと私の分を机におき、椅子を引く。
「セレナ。今日はお疲れ様。
……前世のこと。覚えてるんだよね?」
「……なかなかその話に入らないので忘れているのかと思いました。」
図星ですね。
キョウカ達と遊んですっかりこの世界に、この学園に慣れている感じが出ていた。
まだこの世界に来てからたったの2日だというのに。
それだけ濃密で、楽しかったということだろう。
人間関係が気薄だった前世と違って。
「正直に言って、私は前のあるじさまの記憶はありません。
あるじさまに、このお方に遣えねばという本能にも似たものだけが残っているのです。
だからこそ私はこの世界に。あるじさまの召喚に応じたのです。」
コップを傾ける。
イヤに冷たい水が、冷静な思考を促してくれる。
「突っ込みたいところは沢山あるけど、私のことを思って来てくれたってことだよね?
ありがたいけど、本当にセレナは私に遣える、それでいいの?」
「うふふ。少なくとも、今日1日過ごしてみて私も居心地良く、もっと一緒に過ごしたいと思えるようになりました。
それが私の偽らざる本心です。」
「そう… なら嬉しい。」
推しにそう思って貰えるのは、あのソシャゲをやっていたものとしては冥利に尽きるというものだ。
「それはそうと、さっき召喚に応じたって言ってたよね。どういうことなの?」
「この世界での召喚は確率ではありません。
また、あるじさま風に言うと、限界突破もありません。」
「我々キャラが住む次元はこことは別にあります。
そしてその次元にゲートが開く場所、それこそが確率の正体です。
しかし星5の中でも上位のキャラは、ゲートの位置を無理やり変えることが出来ます。
拒否も出来ますし、逆に召喚されにいくことも出来るのです。」
「つまり、私は本来セレナを引けてなかったってこと?」
「端的に言えばそうですね。
火属性のキャラが召喚されようとしているのを私が無理やり変えました。
最も火属性が住む次元から理属性が住む次元へとゲートを変える。
そんなことが出来るのは理属性のものだけでしょうが。」
やっぱり物欲センサーはあったらしい。
セレナがいなかったらよくわからん火属性を引いてたってことになってたかもね。
「じゃ限界突破が出来ないのは?」
「限界突破とはそもそも同じキャラを複数体重ねることで強化するというシステムです。
ただし、この世界が現実と化した影響か、同じキャラは存在しえないのです。
言い方が悪かったですかね。
ミカエルさんならば、ミカエルという名前は種族名になっているのです。
そして星5のミカエル、という種族は同じにしても内面的、システム的には全くの別ものとしてカウントされています。
だからミカエルさんを複数体引いても限界突破はすることが出来ません。」
現実化した影響か、思ったよりも広い範囲で影響を及ぼしているようだ。
しかし限界突破が出来ないのか。
ならこの世界でカオスが蔓延っているのも仕方がないのだろう。っていうか…
「よくこの世界滅ぼされてないね。
限界突破してないキャラばかりだと対抗手段ないと思うけど。」
「そこは私たち理の次元に住むものでカオスを間引いてます。
私たち理にとってはカオスと人間が拮抗している状態、それこそが理想ですので。
理由を話すことは出来ませんが。」
「ま、聞いて欲しくないなら聞かないよ。
セレナのことが第一だし。
それより限界突破が出来ないのに、カオスを間引くだけの実力があるの?」
「私を含め、理属性のものは前世で育成された分、つまり前世と同じ星10としての力を星5のまま保持しているんです。」
「さいきょーじゃん。
ま、聞きたいことはそれくらいかな。
最後にもう1回だけ確認させて欲しい。」
「なんでしょう?」
「……私はこの世界で好きに生きたい。
その力を私は私利私欲のために使うかもしれない。
その結果が人に迷惑をかけちゃうかもしれない。
……それでも本当にいいの?」
「あるじさまは優しいですから、本当に人を傷つけることはしないはずです。
私はそんなあるじさまだからこそついて行こうと決めたのです。」
「そこまで言われるとちょっと恥ずかしいね。
でもならこの世界でもよろしく。」
「ええ、改めましてよろしくお願いします。」
この世界に来て、前世のことを吐き出せて、少しスッキリした気がする。
目標も出来た。私は私のやりたいようにする。
さて、ソシャゲ世界と化してしまったこの世界を楽しむとしますか。