神社にて
次の日の放課後、能木先輩は眠そうな顔をしていた。
「バスケットボールの幽霊がなぜ名前を名乗らないのか考えていたら、眠るタイミングをつい逃してしまってね……」
「先輩らしいですね。でも、そんなことを言いながら、結局は寝たんじゃありませんか?」
「いや、寝ていないよ。寝ようとはしたんだけれど、どうしても考え事をやめることができなくてね。それで気付いた時には朝になっていたんだ」
「それって、ほとんど徹夜じゃないですか!?」
「大丈夫、授業中に居眠りをして回復したから」
「そういうことじゃなくて……」
僕は呆れてしまった。
「今日の調査は止めにして、もう帰りましょう」
「そうだね。また明日頑張るとしようか」
秋の風が吹く中で僕らは学校を出た。夏と比べると太陽は輝きを失っていたが、それでもまだまだ暖かい。
「そうだ、途中の神社で休んでいきませんか。ベンチもありますよ」
「それは名案だね。そうしよう」
そうして、僕らはいつものように神社の方へ向かった。鳥居をくぐり抜け、境内に入る。
「ふう、気持ちが良いですね」
僕はそう言って、大きく深呼吸をした。
「ああ、落ち着くね。まるでここだけ別世界のような感じだ」
先輩も同じことを考えていたようだ。
「そういえば、先輩は神を信じていますか?」
僕はふと思いついた質問を口にした。
「もちろん信じているよ。私は神様のおかげで今こうして生きていると思っているからね」
「なるほど……」
「君は違うのかい?」
「いえ、僕も同じようなものだと思います。でも、僕の場合は少し違っていて、神様が助けてくれたというよりも、運命がそうさせたっていう方が近いかもしれません」
「ほう、興味深い話じゃないか」
「聞いてくれますか?」
「ぜひ聞かせてほしい」
そう言うと、先輩は僕の隣に座ってきた。
「ありがとうございます。じゃあ、話し始めますね」
僕は先輩に自分の生い立ちを話し始めた。
「まず、僕の家族についてなんですけど、父さんは普通のサラリーマンで母さんは専業主婦でした。どこにでもあるような家庭だったんですけど、僕が中学一年生の時に事故が起きました」
「どんな事故だったんだい?」
「トラックの暴走による交通事故です。その日は僕の誕生日で、父さんは僕のためにケーキを買ってきてくれると言っていました。でも、僕が待ち合わせ場所に着いた時にはすでに事故が起こっていて……僕は目の前に倒れている両親を見て、頭が真っ白になりました。そこからはあまり覚えていません。気づいたら病院に運ばれていて、二人とも亡くなっていたと聞かされました」
僕はそこで話を区切った。先輩は何も言わずに僕の言葉を聞いている。
「それからは親戚の家に引き取ってもらうことになり、高校に入学するまではその家で暮らしていました。そして、今は一人暮らしをしているんです」
「なるほど、つらい経験をしたようだね」
「まぁ、そうですね」
「その事故は君のせいではないよ」
「ええ、わかっています。でも、心のどこかで自分を責める自分がいることも事実なんです。だから、この世のすべてのものは自分に何かしらの形で関係していると考えるようになりました。それが運命だと」
「素敵な考え方だと思うよ。うん、それは素敵な考え方だ」
先輩は微笑みながらそう言った。
「そうでしょうか? 自分としてはただの考えすぎだと思っています」
「いや、素晴らしいと思う。少なくとも、私は君の考え方が好きだよ」
先輩は僕の目を真っ直ぐ見て答えた。僕は恥ずかしくなり視線を逸らす。
「そろそろ行きましょうか」
「ああ、そうだ。せっかくだから、お参りをしてから帰ろう。きっと、君にとって良いことがあるかもしれないよ」
「わかりました。そうしましょう」
僕たちは賽銭箱の前に立った。そして、お金を投げ入れて手を合わせる。
(どうか、このまま先輩と一緒に七不思議を見つけることができますように)
僕は心の中でお願い事をする。隣を見ると、能木先輩はまだ手を合わせていた。その横顔はとても真剣なものに見える。何を考えているのだろう。そんな疑問を持ちつつ、僕は先輩が終わるのを待った。
「よし、行こうか」
先輩はそう言うと、先に歩き出した。
「何をお祈りしていたんですか?」
「それは秘密さ」
「そうですか……」
「いつか教える時が来るかもしれないね。その時まで楽しみにしておいてくれ」
そう言って、先輩は再び笑った。今日の先輩はよく笑う。僕もつられて笑顔になる。しかし、なぜだろうか、今日の笑い方はいつもとは違う気がした。
「〇神社にお参りに行き、2人でのんびり過ごした。霊障値−1」(神社)、今回も七不思議見つからず
調査値合計:4、霊障値合計:2、残り七不思議、あと五つ