プールの声の噂
翌日、授業が終わった後、僕は能木先輩と合流するために教室を出ようとした。その時、僕の教室の前にいた女子生徒に声をかけられた。
「ねえ、ちょっといい?」
「えっと、君は誰だい?」
「あたしのこと知らないの!? 同じクラスなのに、ひどっ!!」
その女の子はとてもショックを受けているようだ。確かに彼女は、僕と同じクラスの子だけれど、あんまりしゃべったことはないんだよな……。
「ごめん、覚えていないや」
僕は正直に言った。
「仕方ないわね。じゃあ、教えてあげるわ。あたしの名前は山咲杏里」
そう言って彼女は胸を張った。この子は背が高いから、そういうポーズがよく似合う。
「それで、僕に何の用?」
「わりと遅くまで学校にいたでしょ?」
「うん、そうだけど」
「やっぱりね。なんか変な声を聞いたんだけど、あなた、心当たりはない?」
「変な声……?」
「そう。なんかね、『助けてくれ!』とか『死にたくない!』とか叫び声みたいなの。しかも、何度も聞こえてくるのよね。怖くなって逃げちゃったんだけど、気になってまた戻ってきたの。そしたら誰もいないはずなのにプールの方から音がして……」
「プール……?」
「そう、プール」
その時、廊下の向こう側から能木先輩がやってきた。先輩は、僕たちのところへまっすぐ向かってきた。
「お待たせ、行こうか」
「はい、今行くところです」
僕は先輩に返事をした。
「待ってよ。まだ話は終わってないよ」
「どうしたの?」
能木先輩は少し困っている様子だった。
「あ、いや、プールで変な声が聞こえたって話をしていたんですよ」
「変な声?それは本当かい?」
「本当です。誰もいなかったはずのプールから水の跳ねるような音と、誰かが溺れてるみたいなくぐもった音がしたんですよ。でも、その声を聞いてプールを見に行ったら、そこには誰もいなくて、ただ水が揺れていただけなんです。だから、きっと疲れて幻聴が聞こえただけだと思うんですけど」
「なるほどね。まあ、実際に見に行ってみないとわからないけどね」
「じゃあ、早速見に行きましょう!」
「ああ、わかったよ」
僕は能木先輩と一緒に、山咲さんについて行った。
プールは体育館の裏にある。もう秋で使っていないからか、辺りは静かだった。
「ここだよ。ここで聞いたんだもん」
「ふむ、中に入って確認しようか」
「そうですね。僕が開けます」
僕は扉に手をかけた。鍵はかかっておらず、簡単に開いた。そして、僕たちはプールの中へと入っていった。
水はきれいに掃除されているらしく、底が見えるほどだった。しかし、特に変わったものは何もなかった。
「何もありませんね」
「そうだね」
能木先輩も首を傾げている。
「ほ、本当に聞いたんですよ!信じてください!!」
「信じるよ。私たちはもう少し調べてみる」
しかし、結局、その日は何も起こらなかった。プールを出たところで山咲と別れ、僕と先輩はまた一緒に帰ることになった。
「何も起きませんでしたね」
「ああ、でも、あの子が嘘をついているようには見えなかったよ」
「そうですね。でも、これ以上調べるには別の角度からの調査が必要ですね」
「ああ、私もそう思うよ」
先輩は腕を組んで考え事をしているようだ。
「ねえ、先輩」
「ん、なんだい?」
「あの七不思議って、本当なんでしょうか?」
「どうだろうね。今のところはわからないよ」
秋の風が吹いてきた。プールにずっといたせいか何だか寒気がするのだった。
〇「霊現象の噂を追った。しかし、何も起きない。起きなかったよね? 調査値+1、霊障値+1」(プール)、今回も七不思議見つからず
調査値合計:3、霊障値合計:3、残り七不思議、あと五つ