階段のおまじないの噂
「今日はおまじないを試してみようと思う」
その日の放課後、僕は能木先輩に連れられて昇降口に来ていた。
「おまじないですか?」
「そうだ。実は昨日先生に聞いたんだが、この学校では、昔、おまじないがかなり流行ったことがあるらしい。それで、どんなものなのか確かめたいんだ」
「なるほど、そういうことなら協力しますよ」
僕はうなずいた。
「ところで先輩、おまじないって何のおまじないなんですか?」
「今日試したいのは、昇降口横の階段を二段抜きで降りると運がよくなって、いいことがたくさん起こるっていうやつなんだけど……」
「え、それってまさか……」
「そうだ。そのまさかさ」
僕は嫌な予感を覚えた。先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべている。
「いやいやいやいや、そんなことして大丈夫なんですか!?」
僕は慌てた。
「ふっ、安心したまえ。やるのは私だ。私はこう見えても、体育で柔道をやっていたんだよ。こんなことでケガをしたりしないさ」
先輩は自信満々に言った。「いや、でも……」
「それに、万が一の時には君が助けてくれるだろう?」
「……わかりました。先輩を信じます」
僕が折れると、先輩は嬉しそうに微笑んで、早速、階段を数段上がった。
「じゃあ、行くぞ」
先輩はそう言って、そこから二段抜きで降りようとした……のだけれども、見事に失敗して盛大に転んだ。僕は慌てて駆け寄ったが、先輩は起き上がると、平気そうな顔をしていた。
「痛くなかったんですか?」
僕は心配になって聞いた。
「もちろん、めちゃくちゃ痛かったよ。でも、これくらいでくじけていたら、七不思議なんて解明できないだろう?」
「それはそうですけど……」
「よし、運がよくなっているかどうか確認してみるか。校外に出たら、スマホを貸してくれたまえ。君のやってるゲームでSSRを引けるかどうか試してみよう」
「ええっ? いや、まぁ、どうせ僕もやるつもりだったのでいいですけど」
僕はそう言うと、先輩と一緒に学園の外に出てガチャを試してみた。
結果は、見事SSRを引き当てることができたのだった。
「やりましたね、先輩! SSRですよ!」
僕は興奮しながら、先輩が持っている自分のスマホの画面を見ていた。
「これは七不思議かもしれないな、私ももっと調べてみよう」
そう言って先輩は街の方に歩いて行った。
しかし、次の日あった先輩は心なしか元気がなさそうだった。
「あのあと宝くじを3000円ほど買ったのだけどね、全部外れだったよ。あのおまじないは七不思議ではなさそうだ」
先輩は残念そうな顔をしながら、そう語った。
僕は少しホッとした。
「そうなんですか。でも、その方がよかったかもしれませんよ。だって、もし成功してしまったら、これから毎日おまじないをしなくてはいけないでしょう?」
僕が冗談めかしにそう聞くと、先輩は笑って言った。
「確かにそれもそうだね。階段から落ちるのは相当痛かったよ」
〇「あやしげなおまじないを試してみた。 霊障値+1」(昇降口近くの階段)、今回も七不思議見つからず
調査値合計:2、霊障値合計:2、残り七不思議、あと五つ