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終幕

 今日は休日。能木先輩と七不思議のまとめをした。

 先輩の主張により、場所はなぜか僕のアパートでとなった。

「いや、いいんですけどね。いいんですけど、なんで僕の家でなんですか?」

「それはここが一番居心地がいいからだよ。論理的な理由だろう?」

(論理的?どこが?)

 僕は疑問符を浮かべるが、口には出さないでおく。

「ところで、どうして僕の部屋が居心地がいいんですか?別に何もありませんよね」

「そんなことはないよ。君は一人暮らしをしているだけあって掃除が行き届いている。それに君の本棚にある漫画もなかなか興味深いものが多い」

 先輩はニヤリと笑ってみせる。

「えっと、まぁ、そうですけど」

 先輩の言葉に、僕は少し照れる。

「君が私の家に来た時に、私が散らかした部屋の惨状を見てこう言ったのを覚えているかい?」

「『片付けくらいはちゃんとしましょう』でしたね」

「その通り。その言葉のおかげで私は今ここにいるわけだ。感謝しているよ、西来路くん」

 先輩は僕のベッドに寝転がりながら言う。

 ちなみに今日の先輩の服は紺色のロングスカートに白いブラウスという格好で、とても大人っぽい雰囲気を出している。

「さて、七不思議をまとめたノートを見せてくれたまえ」

 先輩は起き上がると僕に向かって手を伸ばす。

「あ、はい。どうぞ」

 僕は鞄からノートを取り出し、彼女に渡す。

「ふむ、これはなかなか良い出来じゃないか」

 先輩はパラパラとページをめくる。

「そう言ってもらえるとありがたいです」

 僕は先輩の隣に腰掛ける。


「よし、それじゃあ七不思議について整理しようか」

 先輩はノートを机に置く。

「まず1つ目が『勝手に鳴るピアノ』だね。誰もいないはずの音楽室でピアノの音が聞こえるというもの」

「はい、僕が初めて意見を述べたやつですね」

「そうだね。2つ目は『真夜中に校内放送をする少年』。小鳥遊先生の話によれば、深夜に校内放送をしていた生徒が血まみれで倒れていたというものだ」

「2人で聞きに行きましたね。その生徒は自殺を図ったということでしたっけ」

「うん、おそらくね」

「3つ目の七不思議はなんでしょう?」

 僕は先輩に尋ねる。

「図書室の本が増えるのは、西来路くん個人あてのメッセージだったから除外しよう」

(三城さんのことか、ここは黙っておいた方がよさそうだな)

「だから3つ目は『仲直りできるブロンズ像』になるね。この像はカップルがケンカしたあと、仲直りするのを助けてくれるらしい」

「これは検証できなかったですね」

 先輩はなぜか不機嫌そうにため息をつく。

「はぁ~」

「どうかしました?」

「いや、なんでもない。次の七不思議を確認しよう」

「わかりました。4つ目は『ハナコサン』です。これは南雲さんから教えてもらった話でした」

「トイレの花子さんから派生したようでありながら、実際は全然違う存在……。なんとも不思議な話だね」

「はい、でも実際にハナコサンは存在すると思います」

「私もハナコサンはいると思う。5つ目の七不思議はどうだい?」

「5つ目は確か……『窓ガラスに映る少女』です」

「あるいは『鏡の中の少女』だったね。これは併記でいいかな」

「それがいいでしょう」

 『窓ガラスに映る少女』は僕にとって一番検証が厄介だった七不思議である。

 あれがなければ僕はずっと噂に怯えていただろう。

「ええと、次ですね。6つ目の七不思議は『夜中に動く石膏像』です」

「あれか……」

「そういえばビデオカメラ、あの後どうなりました?」

「ダメだな。何度試しても起動しなかったよ」

「そうですか……」

「まぁ、あまり気にしない方がいい。もう終わったことだし」

「それもそうですね。それで7つ目が……」

「『無音の呼び声』だね」

 怖ろしい『声』の七不思議。

 僕が一番ゾッとした事件だった。

「これについては、私はある仮説を立てているんだ」

「どんな仮説ですか?」

「それはね―――」

 先輩は真剣な表情で僕の目を見つめてくる。

「君は、どう思う?」

 僕はその視線から目を逸らせない。

「……」

「……」

 先輩はじっとこちらの目を見る。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

「なんて、冗談だよ」

 先輩はイタズラっぽく笑う。

「先輩!脅かさないでくださいよ!」

「ごめんよ、西来路くんの反応が面白くてついね」

 先輩はベッドに寝転がると、再びノートを手に取る。

「これで七つだね。私たちは学園の七不思議をついに確定させたわけだ」

「ええ、長かったですね」

「まったくだ。だけど、その分やりがいもあったよ」

 先輩は満足げに微笑む。

「ところで、先輩はこの七不思議に何か感想とかありますか?」

 僕は気になって聞いてみた。

「そうだねぇ。七不思議といっても、もちろん全てが全て真実というわけではない。中には誰かが作った偽物だって存在するはずだ」

 先輩は天井を見ながら言う。

「それでも、この七不思議は本物だと思うかい?」

 僕は少し考えてから答える。

「そうですね。この七不思議は、少なくとも僕にとっては本物の出来事でした」

「ほう、どうしてそう言い切れる?」

 先輩はベッドの上で寝返りを打ちながら聞く。

「そうですねぇ。僕はこの七不思議のおかげで救われたんです。だから、僕の中では七不思議は本物ですね」

「なるほどね。君らしい答えだ」

「そうでしょうか?」

「ああ、君らしい」

 先輩はクスリと笑った。

「先輩はどう思いますか?七不思議について」

 今度は先輩が考え込む番だ。

 彼女はしばらく沈黙すると、やがて口を開く。

「私も、西来路くんと同じ気持ちさ。この七不思議は私にとっても大切な思い出なんだ」

「それは、七不思議が解決したからですか?」

 先輩はうーんと考える仕草をする。

「確かにそれもある。けど、それだけじゃない。七不思議の謎が解けたことによって、私は自分の心の中にあるわだかまりのようなものに気づくことができたんだよ」

「わだかまり?」

 先輩は自分の胸に手を当てる。

「そう、わだかまりだ。七不思議を調査することで、私の中にあったモヤが晴れた気がする」

「どういうことですか?」

 僕にはよくわからない。

「これはあくまで私の予想だが、おそらく七不思議は学園の生徒たちの心の影から生まれたものじゃないかと思うんだ」

「心の影ですか?」

「そうさ。生徒の間で噂になっている七不思議は、きっとどこかで誰かの心の中にあったものだ。七不思議の噂を聞いて、みんな少なからず不安や恐怖を感じていた。それが噂となって広がっていったんじゃないかな」

「つまり、七不思議は生徒たちの心の闇が生み出してしまったものだと?」

「あくまで推測だけどね」

 先輩は窓の外を見る。


「人間というのは不思議な生き物でね。自分が恐れていることは他人にも起きるかもしれない、他人が恐れていることは自分にも起きるかもしれないと無意識に思ってしまう。そんな時、人はどうするか。その恐怖を形にするために噂を作るんだ。三人称の噂を語る時、人は恐怖から遠ざかることができる。そして、噂はさらに広まっていく」

 窓から見える空はいつのまにか夕焼け空になっている。

「噂は形を変えて、また別の形で広まる。それが繰り返されて、今のような七不思議が生まれたのではないかな」

「……」

「まぁ、これはあくまで私の想像だよ。本当のところは誰にも分からない」

 先輩はパタンとノートを閉じる。

「私は弟を失ったことで心の中で虚無を抱えていた。誰にも話せない黒い穴のような気持ちだ。私はその気持ちにずっと苦しめられてきた。しかし、七不思議の調査をしているうちに、私はその気持ちの正体を知ることができた。そのおかげで、今の私がある。西来路くんのおかげだよ」

「僕のおかげ?」

「そうさ。君は私が抱えていた苦しみを取り除いてくれたんだからね。七不思議の中には、残酷な話や怖ろしい話がいくつもあった。現実の世界では口に出せないような惨劇が七不思議の中では語られていた。それは、私たちが目を背けたいと思っている心の傷そのものなんだ」

 先輩はゆっくりと息を吐く。

「七不思議を調べることで、私は自分の中にある虚無を受け入れる勇気を得た。南雲さんはお姉さんの事件を受け入れた。花咲さんもそうだ。友人が溺れる恐怖を見つめ直していた。そして君も」

 先輩は真っ直ぐに僕を見つめてくる。

「君はあの事件を乗り越えた。奇妙な『声』を聞いた上で、自分の心に向き合った。君が自分の心にあるトラウマを克服したことで、私たちは前に進めるようになったんだ」

「……」

 僕は黙って先輩の言葉を聞く。「西来路くん。君は私の恩人だ。本当にありがとう」

 先輩は深々と頭を下げた。

「そ、そんな!僕は大したことなんてしてないですよ!」

 僕は慌てて顔を上げさせる。

「いいや、そんなことはないよ。君がいなかったら、私は今でも過去の幻影に囚われ続けていたはずだ。君の行動が、私を変えてくれたんだよ。海岸で私がした質問を覚えているかい?」

 忘れられるわけがない。

 あの質問ははっきりと覚えている。

 

『君の本当の気持ちを知りたいんだ』


 僕が答えられなかった質問だ。

 先輩は続ける。

「君が答えられずにいる姿を見て、私は確信できたんだ。私の西来路くんの間には、死の影が横たわっているんだとね。私が「無いもの」として目を背けているものが、君には問題として見えているんだとわかった。だから、私もやっとそれと向き合おうと思ったんだ」

 先輩は自分の胸に手を当てる。

「これが、私にとっての七不思議だった。私はようやく、自分の気持ちを受け入れられるようになったんだよ」

 先輩の瞳は穏やかに澄んでいた。

「だから、もう一度質問するよ。聞かせてくれ、君の本当の気持ちを知りたいんだ」

先輩は真剣な眼差しで見つめてくる。

「僕の本当の気持ち……」

 先輩はじっと待っている。

「先輩」

 僕は彼女の目を見て言う。

「僕は先輩のことが好きです」

 僕たちは見つめ合う。

「先輩のことが大好きです」

 先輩の目が大きく開かれる。

「……本当か?」

「はい、本当です」

 先輩の顔が真っ赤に染まっていく。

「先輩の優しいところが好き。笑顔が好き。勉強している時の真面目な表情も好きです。それから――」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 ここで先輩は両手を前に出して、ストップをかけてきた。

「な、なんでいきなりそこまで告白してくるんだ?」

「いや、そういう流れですよね?」

「た、確かにそうだけど……」

 先輩は視線を泳がせる。


「……うん、分かった。じゃあ、私からも言わせてもらうぞ」

 先輩は大きく息を吸った。

「私は君のことが好きだよ。西来路くん」

「これからもよろしく頼む」

「はい、こちらこそお願いします」

 僕たちの間に沈黙が流れる。

「ふぅ~」

 先輩は長いため息をつく。

「なんか恥ずかしいな」

 先輩は顔を赤くしながら呟いた。

「先輩でもそんなことあるんですね」

「当たり前だろう?君の考える私はいったいどういう人間なんだ?」

「えーと、冷静沈着?」

「全然違うじゃないか。まぁ、いいけど」

 先輩は苦笑しながらノートを開いた。

「それで、次はどんな七不思議を調べようか?」

「誤魔化すんですか?さっきまであんなに照れてたくせに……」

「うるさい。君はもう喋るんじゃない」

 そう言って、彼女は僕の口にクッキーを押し込んでくる。

(まったく)

 僕は内心呆れながらも、心が温かくなっていくのを感じた。

 この時間がいつまでも続けばいいと思う。


「私としては学園の次はこの町の不思議を調べたいと思う。通りの不思議、建物の不思議。町にもきっと七不思議があるはずだからな!」

「はいはい、分かりましたよ」

「それでは、早速次の調査を始めるとしよう!」

 先輩は勢いよく立ち上がる。


「ほら、行くぞ。西来路くん」

 先輩は手を差し出してきた。

「はい、行きましょう」

 僕はその手を握り返す。

 こうしてまた僕たちの七不思議を巡る日々が始まった。



終幕「七不思議の調査後に、ライターとパートナーは外出先で霊現象に遭遇する。」

最終データ:調査値合計:9、霊障値合計:7


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