音楽室の噂2
その日の放課後も、僕らは七不思議の調査で特殊教室のそばを歩いていた。
その時、音楽室からピアノの音色が聞こえてきた。
「この曲って、なんていう曲でしたっけ?」
「ショパン作曲、別れの曲だよ」
「ああ、そういえばそんな曲がありましたね……」
「知っているのかい?」
「はい。でも、曲名までは知りませんでした」
「まぁ、有名な曲だからね。知らない方が珍しいかも」
「そうなんですね……」
僕は感心して相槌を打つ。
「この曲はどこか寂しい感じがしますね」
「そうだね……。何か悲しい出来事があった時に聴くといいらしいよ」
先輩は目を閉じて小さく口ずさんだ。
「なんかそういう雰囲気にぴったりですね」
「ふむ、西来路くんもなかなか詩人だね」
「いえ、別にそういうわけでは……」
僕は照れ臭くなって頭を掻く。
「そういえば西来路くんと初めて会ったのも、音楽室の近くだったね」
先輩は懐かしげな表情で言った。
「『勝手に鳴る音楽室のピアノ』の調査中だったんだった」
「そうでしたね」
僕は微笑んで言う。
「あの時は本当にビックリしましたよ。急に質問されましたからね」
「ははは、それは悪かったね。でも、おかげで君という協力者を得たんだから、結果オーライじゃないか」
「まぁ、それはそうですね。そういえば『勝手に鳴るピアノ』の説明は音楽プレイヤーの遠隔操作説で納得いったんですか?」
「実はね、あのあと、それでは説明できない話もあることがわかったんだ。だから、すべてが遠隔操作というわけではなかったということになるね」
「へぇ……、それはどんな話なんですか?」
「それはね……」
先輩はそう言って、『勝手に鳴るピアノ』の噂について説明をしてくれた。
『勝手に鳴るピアノ』の発端は、放課後の学校に残っていた生徒が、誰もいないはずの音楽室からピアノの演奏が聞こえることに気づいたことだったそうだ。最初はイタズラだろうと思われていたが、ピアノの音は毎日のように続いたため、これは何かあると噂されるようになった。
そこで、この学校の生徒が調査を始めた。
その生徒は調査の結果、ピアノを演奏しているのは、ピアノに憑いている霊の仕業なのではないかという結論に達したそうなんだ。
その霊は生前ピアニストを目指していた。しかし、病気にかかり指が思うように動かなくなってしまったらしい。ピアノを弾こうとしても指が動かず、ずっとピアノの前で座り続けていたのだという。その悲しみがあまりに強かったせいか、その人はそのまま衰弱して亡くなってしまった。
そして、その人が使っていたピアノが学園に寄贈され、それ以来、ピアノは誰にも触れられないままに演奏をはじめるようになったのだという。
「なにそれ怖い」
僕は思わず呟いてしまった。
「まぁ、確かに怖いかもしれないけど、私にとっては興味深い話でね。私は、この話がけっこう好きなんだよ」
「えーっと、能木先輩はその、ピアノに憑いている地縛霊に会ってみたいとか思っているんですか?」
「うん、できればね」
先輩はあっさりと肯定した。
「え? じゃあ、僕の推理って無駄だったんじゃないですか?」
「いや、そんなことはないよ。もし私が一人だったら、こんな風に調査を続けられなかったと思う。それに、君の考察のおかげで、調査が楽になった部分もあったよ」
「そうなんですか?」
「うん。幽霊だけが七不思議じゃないんだなって思えるようになったからね。七不思議に関係する人間の動きや思いも、七不思議の重要な一部だと考えられるようになった。これは大きいことだよ」
「そっか。ならよかったです」
僕はホッとして胸をなでおろした。
「ありがとう。君は私のいい助手になってくれたよ」
先輩は僕に向かってニコッと笑った。
「どういたしまして」
僕も笑顔で応える。
僕らは下校時間まで七不思議の調査を続けた。
その後、音楽室のそばに行くとピアノの音がしているのに気付くようになった。
これまでは特に気にもしていなかったが、ピアニストの霊の話を聞いたあとは、なんだかピアノの音色が悲しげに聴こえて、少しだけ怖くなった。
音楽室の扉を開けて、そこに誰もいなかったらどうしよう。
そんなことを考えながら、僕はいつも音楽室の前を通り過ぎるのだった。
〇「調査後、学園内を歩いている時に何かにつけられているような気配がする。霊障値+1」(音楽室)、今回は七不思議見つからず
調査値合計:7、霊障値合計:4、残り七不思議、あと二つ




