桜の木の噂
この日はまた先輩と言い争いをしてしまった。
原因は先輩が一人で調べていた『校舎裏の桜の木の下に埋められている人体模型』についてだった。
「やっぱり、あの話は嘘だったんだね」
先輩は僕を見て悲しそうに呟いた。
「違いますよ。あれは僕が作りました」
僕はきっぱりと否定する。
「嘘をつくな」
先輩は冷たい口調で言う。
「嘘じゃありません」
「嘘だよ」
「嘘じゃないですよ」
お互いに一歩も譲らず言い合いが続く。
「じゃあ、どうしてあんな嘘の噂を作ったんだい?」
「……」
僕は答えられなかった。
というか、あんな噂を信じる人がいるとは思わなかったのだ。
しかも『窓ガラスに映る少女』の時に先輩にも迷惑をかけたので、言い出すタイミングをうまく見つけられなかったというのもあった。
「西来路くん。君は私のことを嫌いなのかい?」
「そんなことないです!」
僕は慌てて首を横に振った。
「だったら、どうしてこんな意地悪なことをするのかな?」
先輩は責めるように言った。
「いや、だってまさか僕に相談もせずに木の下を何時間も掘るなんて思わなかったからですよ!」
「え?」
「えっ?」
僕たちはお互いの顔を見合わせたまま固まってしまう。
「私、穴を掘るって言っていなかったかい?」
「聞いてませんよ」
「あー……」
先輩は気まずそうに頬を掻く。
「あー……、ごめん。てっきり、私が相談なしに勝手に行動したのが気に入らないのかと思った」
先輩は申し訳なさそうに謝ってきた。
「い、いえ、僕も先輩の行動を制限できる立場ではないので別にいいんですけど……。でも、一言ぐらいは言って欲しかったなって」
僕は本音を口に出す。
「そうすれば、あの噂は嘘ですよって言えたので……」
「そうだよね……。本当にごめん」
先輩は再び頭を下げてきた。
「あっ、えっと、もういいんですよ。だから、顔を上げてください」
「うん、わかった」
先輩はゆっくりと顔を上げる。
「それで、その埋めてあった人体模型っていうのはどうなったの?」
「あれは口からのでまかせで埋めていませんよ」
「そうなの!?」
先輩は驚いたように目を大きく見開いた。
「はい、ただの想像で作ったものです」
「うわぁ、恥ずかしいなぁ……」
先輩は赤面して俯いてしまった。
「なんでそんな勘違いをしたんですか? 先輩ならすぐに気づくはずなのに……」
「いや、そのね……。実は試しにちょっと穴を掘った時にいろいろあってね。なんかうまくいかなかったんだよ」
先輩は視線を彷徨わせながら言う。
「え、どういうことですか?」
「……実は穴を掘っている時に、君とお揃いで買った赤い石のペンダントを落としてしまってね。途中で気がついたんだけど、それを見つけるためにさらに穴を掘ることになったんたんだ」
先輩は少し困ったような表情をしながら説明してくれた。
「なにやってるんですか……」
僕は呆れてため息をついた。
「まぁ、無事見つかったからいいじゃないか」
先輩は笑って誤魔化そうとする。
「しかし、君こそ何でそんな噂を作ったんだい?」
今度は先輩が尋ねてくる。
「それはですね……」
僕は先輩に事情を説明した。
「僕の名前に西って文字が入っているんで、西行の親戚かってからかってくるやつがいたんですよ」
「こじつけだねぇ。でも、君の名前は確かに珍しい漢字だし仕方がないかもしれないね」
「はい……。それでムキになって、桜の木の下には人体模型が埋まっているんだぞと返したら、そいつが面白がって広めちゃったんですよ」
「梶井基次郎か、風流な返しをしたものだね」
「はい、それで噂は広まっちゃいました。僕のせいでもあるので、今更、嘘だとも言えなくてそのまま放置している状態です」
「なるほど、そういうことだったのかい」
「はい、なので僕の方も先輩のことを言えない立場なんです」
「お互いに悪いところがあったわけだね」
「そうみたいです」
「じゃあ、これからはちゃんと話し合おうね」
「はい」
「それにしても、もうちょっと先に教えておいてくれてもバチは当たらなかったと思うな」
先輩は恨めしそうに呟いた。
「すみません……。でも、一緒に調べていたら穴を掘る前に止めていましたよ?」
「うっ……」
先輩は言葉に詰まる。
「できるだけ先輩と一緒に七不思議の調査を続けたいと思ったのが裏目に出てしまいましたね……」
「反省しています……」
それからしばらくの間、僕たちはお互いに謝り続けた。
〇「調査中に、言い争いになってしまった。進展なし。」(校庭)、今回は七不思議見つからず
調査値合計:7、霊障値合計:3、残り七不思議、あと二つ




