秋の海にて
次の日。余裕をもって駅に着いて待っていると先輩も時間通りにやってきた。先輩は薄い黄色のワンピースを着ていた。先輩の白い肌によく似合っている。
「おはようございます」
「やあ、おはよう」
「先輩の服、よくお似合いですよ」
「ありがとう。そういう君もよく似合ってるよ」
「そうですか。ありがとうございます」
先輩と話をしているうちに、ホームに電車がやってきた。
僕たちが乗る電車に乗り込む。
日曜日の午前中ということもあり、車内は空いていた。
「それじゃあ、行くとするか」
「はい」
先輩と2人で電車に乗る。先輩と肩が触れ合うくらいの距離で座っていると、ドキドキしてきた。
電車はゆっくりと動き出す。窓から外を見ていると、やがて青い海が見えてきた。
「うわぁ……」
思わず声が出てしまう。
「きれいだろう?」
「ええ。とても綺麗です」
「私も久しぶりに来たから、ちょっと感動したよ」
そう言いながら、先輩は嬉しそうな顔をしていた。
しばらくすると、電車は海のそばの駅に着いた。
「さて、降りるとしようか」
先輩と一緒に電車を出る。駅の改札を出て、目の前に広がる海に目を向ける。
「やっぱり、ここはいつ来ても良い景色だな」
「本当にきれいな場所ですね」
僕たちはしばらくの間、その光景に見とれていた。
「さあ、そろそろ行こうか」
「はい」
僕たちは歩き始めた。
「先輩、どうしてこの場所に来たかったんですか?」
「昔、家族で海水浴に行ったときに、ここの海を見て気に入ったんだよ。だから、何度か来てるんだよ」
「なるほど」
「君は海は好きかい?」
「好きです。特に泳いでいる時が」
「それはわかる気がするな。私も泳ぐのは好きだよ」
「海は良いですよね」
話しながら歩いていく。
「先輩は泳ぎが得意なんですか?」
「うん。得意だよ」
「すごいですね」
「まあね。でも、一番好きなのは潜る事かな」
「へぇ……。何か理由でもあるんですか?」
「理由か……。理由というほどの事じゃないんだけど、水の中って不思議な世界だろう? そんな場所にいると心が落ち着くんだよ」
「わかります。確かに不思議と落ち着きますよね」
「だろ?」
それから僕たちは他愛のない会話をしながら、砂浜を歩いたり、岩場を散策したりした。
「そろそろお昼にしませんか?」
「そうしよう、お弁当を交換する約束だったもんね」
「はい」
「じゃあ、どこか良い場所はないか探してみようか」
「はい」
辺りを見回す。すると、少し離れた場所にベンチを見つけた。
「あそこでどうでしょう?」
「いいんじゃないか。行こうか」
ベンチに座り、荷物を広げる。
先輩のお弁当はサンドイッチだった。具はハム、レタス、チーズ、玉子といったオーソドックスなものになっている。
僕のお弁当はおにぎりにしてみた。中身は何種類かある。定番の梅干しや昆布、鮭などだ。
それに卵焼きや唐揚げなどのおかずにウインナーやブロッコリー、プチトマトも入れている。
「いただきます」
まず最初に僕は先輩が作ったハムサンドを食べる。
パンに塗られたマスタードが良いアクセントになっていて美味しい。
もう一枚食べると、そちらは卵サンドだった。
こちらは少し甘めで、ふわっとしていながらしっかりとした食感がある。(このあいだのクッキーもおいしかったし、先輩は料理上手だな)
僕は自分が作ったおにぎりを食べながら思った。「どうだい?」
「どれもおいしいです」
「良かったよ。自分の作ったものを褒められるのは嬉しいものだな」
先輩は嬉しそうに言った。
「先輩は普段からこういうものを作るんですか?」
「そうだね。時々、自分で作ることもあるよ。もちろん、買ってくることもあるけど」
「先輩は料理がうまいんですね」
「別に普通だと思うぞ」
「いえ、すごく手際が良いですよ」
「ありがとう。君もなかなかやるじゃないか」
「ありがとうございます」
その後も僕たちは楽しくおしゃべりをして過ごした。
昼食を終えてしばらくした後、僕は先輩に話しかけられた。
「ねえ、君。君に一つ聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
「何でしょうか?」
「君は私といて楽しいかい?」
「えっと……どういう意味ですか?」
先輩の言葉の意味がわからず戸惑ってしまう。
「言葉の通りだよ。君は私の事を慕ってくれている。だけど、君は私に遠慮しているように見える。私はそれが気になるんだよ」
「先輩……」
「君の本当の気持ちを知りたいんだ」
先輩の言葉を聞き、心臓の鼓動が激しくなる。
「それは……」
言葉が出てこない。頭が真っ白になり、何も考えられなくなってしまう。
「ごめん。困らせてしまったみたいだね」
「…………」
訊きたかった。能木先輩は僕を亡くなった弟さんと重ねているんですか、と。
しかし、それを口にする勇気はなかった。
黙っていると、先輩は悲しそうな顔になった。
「すまなかった。今の質問は忘れてくれ」
「先輩、あの……」
「さあ、帰ろうか。電車が来るまで時間がないぞ」
先輩は立ち上がり、駅に向かって歩き始める。
僕はその背中を追いかけた。
帰りの電車の中でも、僕たちの間にはほとんど会話がなかった。
先輩は窓の外を見ながら考え込んでいる様子だったし、僕は何も言えなかったのだ。
2人で並んで座っていたが、先輩との距離はとても遠く感じた。
家に帰り、ベッドの上で横になる。
すると、先輩の顔が浮かんできた。
『君の本当の気持ちを知りたいんだ』
先輩の問いかけを思い出す。そして、僕は答えられなかった
能木先輩は僕にとって大切な人だ。だからこそ、余計なことを言うのはためらわれた。
もしも、そのせいで先輩を傷つけることになったとしたら……。
考えれば考えるほど怖くなってしまう。
こんな気持ちは初めてだ。今まで人と深く関わることが苦手だと思っていたけれど、ここまでではなかったはずだ。
きっと、先輩と一緒にいるうちに少しずつ変わっていったのだろう。
今の僕にはそれがはっきりとわかる。
僕らの関係の間には、先輩の弟さんの問題が横たわっている。
僕も先輩も口に出したことがないが、僕の家族の問題も同様だろう。
お互いの心の中には踏み込んでいけない領域がある。
そこに足を踏み入れることは、相手の心の深い部分に土足で入り込むことと変わらない。
だから、僕たちはお互いに距離を取ってきた。
僕たちはこれまではそれで上手くやってこれていた。
でも、今は違う。
このままではいつか破綻してしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。
でも、どうすれば良いのかわからない。
結局、僕はその夜ずっと悩み続けた。
〇「つい2人で遊んでしまった。今日やるはずの調査はやらなかった。調査値−1」(海岸)、今回は七不思議見つからず
調査値合計:6、霊障値合計:2、残り七不思議、あと三つ




