side咲人
時を遡ること数日
トイレに行くためにベットからおり廊下を歩いていると、一筋の光が差していた。現在の時間は深夜2時、咲人のようにトイレならばいざ知らず、わざわざ電気を付けて電話をすることは不自然極まりない
『例の計画はどうかね。』
「滞りなく」
『そうか』
『話は変わるが、君の息子。ゲーム好きだったかな? 出来ればこの計画を君の息子にも参加してもらいたいものだね』
「そ、それだけ、は。……いえ、息子はゲーム好き、です…」
『そうか。嬉しい限りだ。…ならば1台では不服だろう? 2台送らせてもらうよ。勿論特別版を、だがね。分かっていると思うが、このことは内密に頼むよ。』
(誰かと話? 今何時だと……)
てか俺の名前出てる……ゲームだって。父さん関係でゲームってあの噂は本当だったのか…【IJC】世界初のVRMMOゲームにしてVRを超え。完全なる仮想の世界を実現させた技術。それをあろうことかゲームとして初世界に普及させる、と
まじか! あの【IJC】を出来る! だが特別版ってのが気になるな
あと、さ。最後ら辺俺のことバカにしなかった? まあ、【IJC】に免じて許してや乱でもない
……………
…友達、か
ケンだな。てかケンしかいないだろ
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俺とケン。鏡 ケンとの出会いは中学1年の冬最後の学校の日だった。あの時の俺は灰色…全てがどうでもよかった。誰も俺を“咲人”として見てくれない、皆“鬼嶋”の人間として俺に近づいてくる。
俺だって小学校低学年までは。純粋で何も知らないから、友達や親友と思って、遊んでいた。だが掃除の時間に聞いてしまったんだよ
『なあ鬼嶋のことどう思うよ。俺さ親が仲良くしとけ、って言うから取り敢えず仲良く? してあげてる訳よ。正直、鬼嶋ノリ悪くない?』
『分かる。なんて言うか、『世界は俺中心に回ってますよ』って感じ』
『それな。それに、あいつに転ぶフリして、腹に一発ヤッてみたらさ、あいつ『友達だもんね、大丈夫だよ』だってさ。あのときは笑うの我慢して死ぬかと思った。まじ、慰謝料? 請求すべきだったか?』
『ははっ、それ傑作だな。てか、もう我慢できん。俺あいつと縁切っていじめよっかな〜。お、面白いこと思いついた! あいつの好きな女子知ってるからよ、奪っちゃおうぜ』
『ハハ、そりゃいいわ。その時のあいつの顔が早く見たい』
そんな会話を聞いてしまった。悲しかった今まで友達だと思っていたのに、世界の中心? 俺そんなこと一言も言ってないし、そんな行動もしてないのに…
そ、そうだ。まかちゃん、まかちゃんはそんなこと思ってないはず。
…だってまかちゃんは俺の事、好きって言ってくれたもん
『ちょっと男子、サボってないでこっち来て手伝ってよ。さーくんを少しは見習いなよ』
『良いだろ少しくらい。それより聞いてくれよ、俺等鬼嶋のこと気に入らねーって話してたんだよ。』
『そうそう浅田さんは、鬼嶋のこと実際どう思ってんだよ』
『さーくんのこと悪く言わないで。さーくんはかっこいいって思ってるもん!』
まかちゃん
『そんな見え見えの演技もう良いから。てか鬼嶋以外全員気がついてるぞ』
な、なに、を………
『なーんだそうなの? なんか最近媚びって言うの 疲れてきてたからかな。まあ良いや知ってるからどうしたの、あなた達が幾ら鬼嶋に真実を言ったところで、私を信じるわよ。それに、わたし鬼島に媚び売るのやめないわよ。媚び売っとけば、ぱぱとままが褒めてご褒美にお小遣いくれるの。』
「え、…ま」
……まかちゃん
思わず声が出てしまった
俺は慌てて周囲を確認し、だれも俺に気がついていないと分かり一安心。それと同時に段々と様々な感情が、俺の身体を支配していく。
怒り、苦しみ、そして悲しくなる。何より、気づけなかった、俺自身を恨んでしまった
まかちゃんが演技? 何かと構ったり、庇ってくれたのも。それに好きって言ってくれたのも全部嘘……そん、な
『だ、誰かいるの!』
ま、不味い気づかれる。か、かかか隠れないと
カツ
『やっぱり誰かいる』
『わざわざ隠れて盗み聞きとは……クズだな。もしかして鬼島か?』
『あはは、鬼島だったらタイミングが良いのか悪いのか』
『鬼島が好きで好きで大好きな浅田は、ただ利用させられていただけだったことを知るとか。』
『何も知らずに絶望を味わうか、知ってしまった絶望を味わうか。言うまでもなく、後者の方が面白いな。結果オーライ。』
ち、違う。こ、これはなにかの夢……そう悪い夢だ。そうに違いない。だってこんな、こんな事って
コツコツコツ
「なんだ。やっぱり鬼島だ」
目の前には妖艶に微笑むまかちゃんがいた……
(え、なんで。なんで覚めないの)
「盗み聞きなんてサイテーだよ。さーくん。まあ聞いてたと思うけど、さーくんと仲良くすれば、ぱぱとままがご褒美くれるの。だからこのまま仲のいいクラスメイトでいてね」
「うわー浅田こっわー」
「おいおい見ろよ。鬼島のやつ、傑作だな〜ほんっと嫌いだったから、この顔見てスッキリしたわー」
「もっともっと、絶望しろー」
(いやいやいや。やめて早く覚めてこんな悪い夢覚めてよ。ううっ、何でこんな事に)
「「「あはは」」」
「さーくんこれからは私の……私達のクラスメイトだよ。嬉しいよね? だってさーくんは、私のことだーい好きだもん。あはははは、あ、掃除面倒だからさーくん一人で出来るよね? ばいばい、鬼島。」
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これが小学生の思い出。この時を境に俺は人を信じなくなった。そして成長に連れ心の傷は少しずつ癒えていき、人との距離感を学んだ。
そうして灰色だった俺にある事件……誘拐されてしまった。その時に一緒だったのがケン。このとき俺はケンの事を“可愛そうな奴”としか認知していなかった
「グフ、グフフ。鬼島家のご子息様の誘拐に成功したぞ!! これ、これで。か、かか、金、金さえ手に入れば計画は、グフ」
この誘拐犯もやはり俺ではなく鬼島を見ていた。俺を見ているようでその背後の鬼島家を見ている
(結局は鬼島家なんだよ。俺はいらない、鬼島家だけ。だから俺から“鬼嶋家”を取れば何が起きる? 俺として皆が見てくれるか。そんなわけ無いか……なんで俺は生きてるんだ。)
「ふざけるな!」
「あ"あ"」
(たしかこいつは鏡 ケン…何をしている)
「ふざけるな、と言っている。さっきから聞いていれば、ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩いな。どうでもいい事を二度と喋るな。」
「ど、ど、どうでもいいだと。ガキは黙ってろ。俺はな、寛大深い。だがな、言っていいことと、悪いことがある。今お前の命の主導権を握っているのは、お前ではなく俺だ。黙ってないと殺すぞ。」
「黙るのはお前だよカス。こんなことして何になる。金、金うるせー」
「もういい」
(何をやっているこいつは馬鹿なのか)
たった、数語の会話により、誘拐犯の目標がケンに向いた。そう、あろうことか誘拐犯は、刃物をもって今にもケンに斬りかかろうとしていた。俺は恐怖し、思わず目を瞑ってしまった。だが、いくら時間が経っても、ケンの悲鳴や返り血を浴びることは無かった。
恐る恐る目を開けると、腕を後ろに縄で縛られていたのにも関わらず、いつの間にか前にあり。その腕を縛っている縄で、誘拐犯のナイフを……いや、ナイフ言うには余りにも切れ味が高そうな。最早小刀と言おうか。その小刀を防いだ。
どこまで計算してのことか、はたまたたまたま、偶然、奇跡的なものなのか。判断ができようがない
「ッな」
俺も誘拐犯も、絶句だった
まさか両手足を縛って尚。冷静に判断し、拘束を利用した誘拐犯の小刀を受け止めたのだ
(こんなこと出来るのか)
普通は無理だろう…いくら技があろうと、中学生が成人男性に純粋な力で勝てるはずがない。
だが現実は違う。何らかの技を使っている可能性も否めないが、少なくとも俺の目からは、力で勝手いた。
「き、キサマアアアアッ」
今度こそ終わった。だってそうであろう、たまたま受け止められた可能性。つまり、まぐれだったと思うはずだ。誘拐犯による左ストレートが、今にもケンに当たりそうだ
だが
ケンは拘束をまたも利用し、その小刀を持った誘拐犯に手と、今もなお己を殴ろうとする左ストレートに添えた
「ぎ、ぎゃああああああああ。お、俺のて、ててて、手があああああああああああ」
そうすると、不思議なことに誘拐犯の左手に深々と獲物が刺さり、そのあまりの痛さに殴りを中断してしまった。
そして、誘拐犯が、左手に刺さった小刀に注目した一瞬を付き、更に縄で縛られている両足で蹴った。
そこで完全に誘拐犯の指5本が、切れ返り血と共に絶叫した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛、あ。#&"%$………」
終いには、声にならない声を叫んでいた。
それもそうだろう。実際に誘拐された俺ですら同情する程の傷だ。そしてそれが俺でないことにあんとした。
だが、ケンの苛立ちはまだ終わってはいなかった。
拘束された両足で、誘拐犯の顎を蹴り。その衝撃にて一瞬意識が遠のいた。さらに容赦なく2撃3撃4撃と上から下に、右から左へと、顎を過剰に蹴り誘拐犯に脳震盪を起こさせる。
多分だが、子供なぶん数回ではそこまでの力が無いからだろうが………
(って、あれ? 少し冷静差を取り戻している)
ケンによる顎蹴りが終了したのはそれから1分経ってからだった。
これで終わりかと思いきや、さらなる反撃に出た。なんとケンは誘拐犯の車の中を器用にも、拘束されたまま後座席から運転席へとジャンプし、重力に則って勢いのままに誘拐犯の腹に一撃を加えた。
「グエッ」
それにより誘拐犯は、蛙のような声を出しながら、言葉では出来ないような異物を口の中から出していった。
「ふー」
お、おわった、のか?
ドスッ
なんと、一息ついたと思った矢先。晴れてスッキリした顔をしたケンは、その場でもう一度ジャンプをし、腹に一撃を加えた。
まさに一瞬だった。こんな中学生がいるのか
「ふー挑発に乗ってくれて良かった。あ、君大丈夫? えーと…誰。おれ人の名前覚えるの得意じゃなくて…」
「き……いや咲人だ。」
喉までデカかった。俺にとって、一番と言っていいほど嫌いな単語“鬼嶋”を名乗りそうになった。だが慌てて名前を言い直した。
そして名前を言った瞬間にドンと体が重く感じた。多分緊張が解けた影響だろう。普通に考えれば、誘拐犯よりも、こいつの方がいい危険人物だ。だが、今の俺は冷静な判断が出来ていなかった。
先程までの出来事を、他の事に意識を集中しない限り脳内でリプレイされ、永遠と繰り返される。
(顎に蹴りを数発当てたときくらいには、既に意識が無かったような……)
そんな疑問を持ちつつも、俺には一つの感情が支配させた。それは誘拐された当初とは、全く違う感情……
それに気づかず。もやもやされる。
だが、一つだけこの感情に心当りがある。
それは……憧れ
その圧倒的な強さに。英雄の背が見え憧れでも抱いたのだろうか?
「き? まあいいか咲人行くぞ。」
「え。」
「あれ咲人であってるよな名前。もしかして聞き間違えてた、それかイントネーションの違いか?」
「間違ってはない…ただ」
「じゃあいいじゃん。これも何かの縁って事だ、ほら行くぞ咲人」
「あ、ああ」
いきなり声を掛けられたものだから驚いた。そしてそれが当たり前にように鏡 ケンを追った
(ん?何か忘れているような……あ、そうだよ)
「お、おい。拘束はどうした」
そう、俺たちは間違えなく拘束されていた。誘拐犯が小刀を持っていたことから、それで縄を切ったことは容易に想像がつく。だが聞かなければ、冷製でいられない気がする。
だってそうだろ? いつの間に俺とお前の拘束を切ったんだ
「はあ、お前寝ぼけてるのかよ? さっき切るぞって声かけただろ。それに返事をしてたはずだぞ『あ、ああ』って」
「そうだったか、そう、だったんだろうな。」
そうか、おれは気づいていなかっただけか、余りにも唐突に余りにも理解のしがたい光景に出会い、俺の意識は心ここにあらずの状態と化していたのか。
「おい、ぼっとするなって」
そう言うと、鏡 ケンは右手を、俺に差し出してきた
「あ」
この時ようやく俺はは、灰色の世界が色に満ちた、虹色の世界になり、当の意味で色がついた様なきがした
(鏡 ケン、か……)
これが俺とケンの出会いであり。始まり
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って少し長かったな、話は戻すが。つまり俺の本当の意味での友はケンだけってこと。だから【IJC】はケンを誘おう。
父さんもやるときはやるもにだな。特別版か、ゲーマーとしてそそる。しかも、それをケンと一緒にできるなんて
これが全ての元凶であり。俺がケンに対し恩を仇で返すことになるきっかけだ
これ何で2章始まった2話目にやったかって?
普通に順番間違えただけだーーー
でも問題は無いから大丈夫、だよね?