記憶の痛み
side:神の失敗作
なんだなんだなんだなんだ、なぜ邪魔をする!
妾とやつの死合を。妾がなんのために……殺す
………
「やっぱり今日もここにいた……」
「……」
私はこの男が嫌いだ
「君は女の子なんだ、剣をもつべきじゃない」
こいつは剣士である私を女扱いする。さらに、剣を持つなと言う。
私はこの男が嫌いだ
「全く、また団長に怒られちゃうや」
これは、剣の道しか知らない私の道を狭ねる枷
私はこの男が嫌いだ
「なあそろそろ、やめないか?」
「……」
「はあ、明日もくるよ」
いつも言いたいことだけ言って帰っていく。
私はこの男が嫌いだ
毎日毎日、聞いてくる。
ふと思う。なぜ私に構うのか?それも嘘までついて
団長……それは王国最強の騎士と謳われた私の父だ
父は私に剣を教えた。そして私が幼い頃に死んだ
この国は、父が死んでから団長の席は未だ空席だ。この国に父に変わる騎士はいない。
故に死にした父は団長と呼ぶ人もいる。その数少ない一人が私だ。父の死を受け入れられない。
剣はいい、嫌なことを忘れ。ただひたすらに振るえるから
…………
時は戦中
私の国の敗北に終わった
酷いものだ、私以外の殆どが。抵抗も出来ずに殺され、あまつさえ敵に背を向け逃げ出す始末だ
「斬る」
例え戦争が負けようと、私は王国の騎士。死ぬまでここを離れる訳にはいかなかった
剣が折れた。ならば素手だ
しばらく抵抗するものの所詮は数人。数百数千に敵うはずもない。一人ずつならまだ勝負が出来たかもしれない。だが、相手もそこまで馬鹿ではない。数の有利を活かし、一人に最低3人を付けている。
「あ」
私の目の前に剣が見えた。私の剣ではない、誰かの剣だ
これが味方の剣なら良かっただろう。しかし、父の騎士団は軟な弱者はいない。集団としてでなく、個として戦うことで力を発揮する
「うっ」
左目を失った
「ッグ」
視点が揺らぐ、バランスを崩してしまった。追撃だろうか私の目の前に、剣が覆った
「ああ……」終わり、か
せめてもの抵抗に多くを道連れにしようと思ったが、あまりにも強大な力故に抗えなかった
瞼を閉じ。ただひたすらに死をまった
「やめろーーーー」
痛み……死の痛みがいつまで経ってもこない
ふと、目を開ける。そこには私の嫌いな男がいた
「だから剣、をもつべきじゃないって、いっ…ゴッホ。ッへへ、すみ、ま、せ、んだんちょ…………」
全てを言い終える前に男は死んだ。
私はこの男が嫌いだ。
だからと言って、死んで欲しいと思っていない
私はこの男が嫌いだ
団長、父が常に補佐として連れ歩いているほどの強者だ。普段は飄々としつつもいざ戦争になると、鬼神の如き強さを発揮する
私はこの男が嫌いだ
ただただ羨ましかった。私の願いはただ一つ………なんだ。
私の周りに灰色の剣が現れた。
「ああ」
無意識。
その剣は私の願を叶えられる剣だと。本能が直感。それらが揺れ動く。言葉では言い表せない何かがこれにはあった。
気づくと私はそれを握っていた。
灰色だ。地が海が空が灰色となり、記憶すらも。この世界すべてが色を亡くし灰色へと塗り替わる。
チカラガホシイ。
最初は小さい願いだった。その願いが年を重ねるごとに。そして、父が死んでからさらにその願望が膨れ上がった。
私の中の何かが失われ、そこにナニかが入ってくる。
チカラガホシイ
私から大切な物を奪う存在が憎い。
私から大切な人を奪う存在が憎い。
私から大切な場を奪う存在が憎い。
だから、、、、を手に取り目の前の敵軍を斬った
そこからはよく覚えていない。ただ一つ味方は全滅し敵もまた全滅した。気が付くと、私一人だった
そして気がついてしまった。
『奪われる前に奪ってしまえば良い』
それからはただ力を求める虚無と化した。
………
虫に向かい、数万の剣を放った。虫は消滅するはずだった
『なに』
妾の攻撃を受けて、立ち上がっただ、と
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side:ケイン
ああ、この痛みは私の痛みではない。これは神の失敗作の記憶の痛みだ。それと同時に神の失敗作の思いも流れてきた
因みにマリア・カナテさんは
天使だった頃、一人称は“私”
超越者から、“妾”です