スライム牢獄と狂い
スライムの異変を感じさせたのはいつだっただろうか。
いま、あるいは………
3日経過
違和感――
それは、スライムの生命値を5割削った頃に感じられた。
攻撃するのを諦めのか、ある時を境に死ななくなった。
もう一つの変化。それはこいつの防御が高くなった。俺の動きは変わっていない。いや、むしろその鋭さが増した。だが、スライムの動きが無くなった途端、ダメージが通ら無くなった。
(防御に専念したか?)
当たり前のように、そう思い込んでいた。
こいつの恐ろしさを知ることになる。全てのスライムが持っていて、全て魔物が欲する絶対なる種族能力を
7日経過
回復している?
一週間経ち、もうそろそろダメージが出ているだろうと確認する。
そこに表示されたのは、生命値2割ほどが削られていた。
2日前は、確かに5割の生命値が削られていたはずだ
回復速度が早い。
『キュキュ』
「ッグ」
さらに追い打ちをかける形で、攻撃を喰らった。久々だったこともあり、防御も取れず即死。
少しだけ痛みを感じてしまった。
厄介……厄介? なぜだ?
防御が高い。俺には崩壊流がある。
回復する。回復速度より早く斬ればいい。
痛みが感じた。俺には痛みの感情がない。
そう、俺は壊れてもしまったから。
感情を捨てろ。ただ目の前の敵を斬り殺せばいい
10日経過
おかしなことが発生した。スライムは生命値のプールをし始めた。
最大生命値を越えてもなお回復がおこなわれている。既に元の生命値1個分のストックをしていた
2日で回復速度を上回る攻撃が出来ると、思って無かったのは認めよう。だが、プールされるとなると時間がかかりすぎる。
ただでさえ防御力が高くなったいま、限界値が存在するのか。このプールの限界値が無尽蔵なら、攻撃が通じ始めた頃にどれほどのストックを貯められているか。考えただけで恐ろしい。
そして、俺が一番恐れているのは……プールできるのは、なにも生命値だけとは限らない。
(そもそもレベル1の次が200。そこが一番おかしい。)
一ヶ月経過
ようやく、ようやくだ。
回復速度を上回る攻撃を、稀に出るようになった。体感的に1万に一回程度だろうか。
この調子ならあと二日で、これの回復速度を上回るだろう。
因みに今のストック量は、最大生命値6体分。つまりこいつの生命値を6体分斬れば終わることになる
さらに朗報。こいつの攻撃癖が、何となく分かるようになってきた。まだ言葉では何とも言えない感覚的な問題だろう
『キュ』
今ではこのかわいい悲鳴もかわいい、と思える程には俺の感覚も狂ってきている。
「アハハハ」
斬るッ斬るッ斬るッ!!斬って斬って斬りまくり、殺してやる
スライムから全方向触手攻撃を、躱し、逸し、反撃を繰り返していった。
その過程で頭は吹き飛ぼうが、手足が無くなろうが、腹が無くなろうが。構わず斬る
その方が、効率が良いからだ。どうせすぐに再生すると理解しているから。
死ぬときの痛みが、気持ちいいと変換され、興奮する。………人生の充実さが芽生え、生への喜びを感じる。こいつを斬り殺す。それしか考えていない
「あは、アハハハハ」
痛い気持ちいい、痛い気持ちいい、イタイキモチイイッッッ!!
今の俺を見れば誰もが、忌避し離れて行くであろう……
そして、壊れている
、と
この牢獄に囚われ、一月痛み。少しずつ少しずつスライムの生命力を斬っている。
再び何らかの方法で回復された時には、絶望しそれすらキモチイイと感じてしまうだろう。
絶望を何度も何度も繰り返し、与えられることで、体が、心が、絶望を望んでしまう
まともであれば、延々と終わりの見えないナニカを斬っているだけ。それも死の痛みのおまけ付きだ
そしてこのままでは終わらない、そう確信を持てていた