雨降って
レーナは翌日には回復して日常に戻ったがモヤモヤした気持ちは晴れなかった。
自室で読書をしようとするが集中できずにため息が出て侍女たちを心配させていた。
そんな空気の中、父公爵の侍従が来客があると呼びにきた。
今までも予定にない急な来客はないことはなかったが静養してからは初めてのことである。
急ぎ支度して応接室に入るといきなり目の前にユリシーズ王子が跪いた。
王子の登場にも驚いたが王族を跪かせるのはよくない。
謝罪はもう十分なので断ろうとするのを制された。
「レーナ嬢、手紙のやりとりをするうちに貴女のことを愛していることに気付きました。
身勝手にも婚約を破棄した私にこれを言う資格がないのは承知の上ですが、
もうこの気持ちに蓋は出来ない。
どうか私と結婚してください。」
レーナは驚きのあまり固まってしまったが、ジワジワと喜びがこみあげてきた。
もう今までのこともこれからのこともどうだっていい、この手をとらない選択はなかった。
「はい、喜んで。
私もお手紙で生き生きされていた殿下をお慕いしておりました。
よろしくお願いいたします。」
2人だけの世界に浸り込んでいたところに声をかける者がいた。
「殿下、いきなり過ぎます。
貴方の誠意は十分伝わりましたし、レーナも心から望んでいるようだ。
もう文句は言いませんから一旦落ち着いてこれからのことを話しましょう。」
シェイファー公爵が苦笑混じりに窘めると恋人たちはハッとして並んで椅子に座った。
レーナは両親である公爵夫妻と対面することになってしまい急に恥ずかしくなったが、ユリシーズがソッと手を重ねてきたので落ち着きを取り戻した。
公爵夫人は微笑みを扇子で隠していたが目は隠せていなかった。
(婚約していた時よりも今の方がそれらしいのはオカシイだろ…)
公爵は遠い目をしていた。
デーヴィッドに煽られてユリシーズが書いた手紙は父国王とシェイファー公爵宛だった。
内容は王太子でなくてもいいから王族として公務に戻りたい気持ちとレーナに本気で惚れたのでプロポーズをするチャンスが欲しいということをストレートに書いた。
国王も公爵もデーヴィッドからの報告書を逐一読んでいた。
さらに王弟レオンの見極めの結果も聞いたので否やはなかった。
政治的にも王太子はユリシーズ以外になく、レーナの結婚相手はユリシーズ以外にないと結論は出ていたのだ。
話し合いの結果、既に婚約期間は十分にとっていたので、事件でストップした婚姻までのスケジュールを再開することとなった。
本来であれば学園卒業と同時に準備に入り3ヶ月後には結婚式の予定であったのだ。
ユリシーズは謹慎が解けると同時に継承順位を戻され王太子として復帰していた。