問わず語り
ユリシーズからの鬱々とした謝罪の手紙が3日続いてレーナは耐えきれなくなった。
婚約破棄からの鬱陶しい手紙攻撃のコンボ。新手の嫌がらせかな?
怒りの感情は最初の手紙で綺麗さっぱり消失したことを思い出し、こうも続くのは返信していない自分も悪いと少し反省したので面倒だが仕方ないことと割り切って、謝罪は受けとったのでもう気にしてないから手紙はこれ以降不要である旨をしたためた。
ところが次の日にもユリシーズからの手紙が届いた。
眉を顰めて読んでみたところ、身勝手な謝罪を押しつけてしまったことを簡潔に詫びた後に今の謹慎生活の様子が書かれていて不本意ながら興味をひかれてしまった。
レーナにとって手紙とは社交の一部であってプライベートを晒すものではなかったのだ。
王宮奥の鄙びた2階建の宮は下級貴族のタウンハウス並みの小ぢんまりした造りで、使用人の居住スペースや応接室を除くとゲストルームもなく小さな寝室と執務室があるだけの簡素なものだった。
護衛の近衛が2人とメイドが2人、料理人1人が常駐している。
壮年のデーヴィッド・マレットは近衛騎士としてユリシーズが幼少の頃より護衛を務め、謹慎を申し渡された後も志願して付いてくれている。
まだ10代のガイは見習いから騎士になったばかりだ。
平民出のため貧乏くじを引いたのだろうが文句も言わずデーヴィッドに従っている。
料理人のクインシーは無人となった王太子宮からの異動である。
王太子宮では三桁の人数の食事を賄うため料理人も多くいたがここは少人数のためひとりである。
ひとりの方が気楽に作りたいものが作れると逆にやる気を見せている。
メイドは中年のヒルダと10代のジゼル。
ヒルダはふくよかで物静かな女だが経験豊富でなんでも出来る。
ジゼルはそばかすに丸メガネ、おさげ髪の素朴な少女でよく動きよく喋る。
歳の近いガイを意識していることが丸わかりなのだが肝心のガイ本人は全く気づいていない。
侍従も侍女もいないため身の回りのことはユリシーズ自らやらなければならない。
失敗も多いが、気楽であり生きている実感がすると書かれていた。
ユリシーズの手紙に思わず引き込まれてしまったレーナは無視するつもりだったのを忘れて思わず感想を書いて返信してしまった。
公爵邸に引きこもっての静養生活はリラックスは出来ても退屈でもあったので、単純に読み物として楽しんだ。
知らない人物が生き生きと描かれていてとても身近に感じられた。
ユリシーズは意外に文才がある。
「続きが読みたいわ。ガイにジゼルの想いが届く時がくるのかしら…」