後悔先に立たず
ユリシーズは王宮にて謹慎していた。
廃されたので王太子宮には居られず王宮内でも王城から離れた奥にひっそりとあった、ここ数十年は使われていない鄙びた宮に数人の使用人を宛てがわれて蟄居していた。
事件から数日後に届けられた正式な調査報告を読んで激しく後悔した。
ユリシーズ自らが尋問した虐めの実行犯すべてがレーナの指示を受けて行ったと証言したのは虚偽であったと自白した。
王太子に追求されてそのまま罪を認めてしまえば自分だけでなく家族にまで塁が及ぶだろう。
その恐怖に耐えられず、王太子の婚約者様の意向に逆らえなかったことにすれば有耶無耶にしてもらえるかもしれないという極限の心理状態で偽証したということだった。
今にして思えばあの物静かで人形のようなレーナがと最初は信じられない思いで何度も確認したものだ。
ユリシーズは優秀な王子として大事にされてきたため真っ直ぐに育った、育ちすぎた。
正義感に溢れていたが人を疑うことを知らなかった。
王族の質問に嘘の回答をするなど思いも寄らなかったのだ。
最初の犯人がそれで上手く立ち回れたためそれ以降踏襲され、結果的にユリシーズは確信を深めることとなってしまった。本人不在のままに。
犯人たちの動機は嫉妬だった。
ユリシーズは王子様然とした美しく逞しい見目で成績優秀、快活な性格で人気が高かった。
婚約者が大貴族の令嬢ということで遠くに眺めて憧れるだけの存在だったのだが、いつのまにか平民風情が寵愛を受けている…という、言われてみればの理由であった。
ユリシーズとしては寵愛など欠けらもなく、ただの正義感から弱者を護っているつもりだったが外野からはそう見えて不思議じゃない、全然不思議じゃなかったと今さらながら気がついて愕然とした。
影響力の有りすぎる王太子自ら行動してはいけなかったのだ。
しかも男女の仲を疑われるようなことになど。
自分から接触したことはなかったがコレットからの接触を拒絶したこともなかった。
慎みが足りてないのは誰よりも自分だったのだ。
破廉恥な浮気者が公衆の面前で婚約破棄を言い渡す…自分以外の目にはそのように映ったはずだ。
羞恥で身を焦がす思いだった。
それまでコレットの死を嘆いていたのだが、報告書を読んでからようやくレーナを深く傷つけたまま謝罪もしてないことに思い至った。
今すぐにレーナのもとに飛んでいって五体投地して赦しを乞いたいが謹慎中の身ゆえそれすらも許されない。
手紙を書くことにした。いつか赦されるその日まで。