届いた手紙
シェイファー公爵邸の庭園にある四阿でレーナは手紙を読んでいた。
あれから1週間。
卒業記念パーティーから邸に帰着するなり倒れてしまった。
レーナは超のつくほどの箱入りで、生まれて初めての怒りの感情に驚き疲れてしまったのだ。
なのであとを引くことなく翌日にはいつも通りの日常に戻っていた。
婚約破棄は悲しかったが侮辱されたことに対する衝撃が大き過ぎたのでどうでもよくなってしまった。
ユリシーズは親に決められた婚約者であり好きかどうかなんて考えたこともなかったのだ。
どちらかといえば…好き?程度の存在であった。
これからのことはまだ未定である。
結婚適齢期ではあるが身分の釣り合う同世代の相手は国内にはいない。
かといって国外に求めようにも離反を疑われるだろう。
結婚を諦めて修道院…王家の過失で公爵家の令嬢の未来が絶たれるなどあってはならない。
これは国王陛下が直々に次の縁談を持ってこなければならない状況であった。
しかし本人的には社交も勉強もしなくていい「静養」とされている現状は悪くないと感じていた。
侍女から手渡された手紙の中に謹慎中のユリシーズからのものがあった。
王宮での再調査によって公式に冤罪と結論づけられたことと謝罪の言葉が並んでいた。
当然だった。レーナにとっては寝耳に水の断罪劇だったのだから。
レーナとユリシーズが最終学年である3年次に上がった頃、入学したての奨学生コレットが下位貴族の令嬢たちに取り囲まれているところにユリシーズが出会して庇護下に置くことにした。
コレットは平民のためユリシーズが王太子であっても気安く接する。
周りがコレットを窘めるとユリシーズに助けを求め、ユリシーズはコレットに手を出すことを禁じ、コレットは味をしめ増長して煽る…というような悪循環が1年続いた結果、全部レーナが悪いとなったようだ。
なんて馬鹿馬鹿しい。
ユリシーズの手紙にはコレットは闇に葬られたと鬱々と書かれていたが、実際にはシェイファー公爵家ゆかりの修道院にほとぼりが冷めるまで保護されている。
公爵家に恩を売るために平民1人どうとでもしてやろうという貴族は少なくない。
シェイファー公爵にとってコレットはどうでもいい存在だが、これ以上王家との対立を深めたくないので余計な血は流させない意向だ。
レーナは手紙を読み終わり、ユリシーズにはお仕置きとしてコレットの生存について教えてやらないと決めたら、ちょっとスッキリした気持ちになり微笑みが溢れた。
お付きの侍女たちはそれを見て事件以降塞ぎ込んでいた(ように見えた)お嬢さまがと胸を撫で下ろした。
レーナはユリシーズの手紙に返事は書かなかったが次の日もその次の日も謝罪の手紙が届いた。