ウイスキーボンボン
目覚まし時計と格闘しながら二度寝3度寝しつつまどろんで、あたしはメイクを落とさずに寝たことを思い出した。
ええ、きのうもひとり深酒しましたとも。
「うっ!!まぶしー」
カーテンを開けると、日差しがもろに入ってくる。
二日酔いのあたまに響く暴力的に眩しい朝日。
出勤時間はせまってる。
あなたならどーします?
(こりゃーサボるっきゃないでしょ。)
「399円です。」コンビニでウイスキーのボトルを買って、私は店を出た。
(それでもまだ飲もうってんだから、あたしもたいしたもんだ。)
近頃めっきり酒量が増えた。手っ取り早く酔おうってこの発想もかなしいけど、コンビニでウイスキーの小瓶を買う癖ってのもなんか。
(酒で忘れたいほどに、辛いことなんてないはずなんだけどな。)
たしかに、この春から移った営業促進部は、大袈裟な部署名のわりにあたしの仕事はパソコンに伝票打ち込むだけだし、
部長はハゲでチョビヒゲで顔の造り自体セクハラなような気もする。
同僚の女の子たちに馴染めなくて、お昼は自分の机でお弁当を食べているのだけど。
酔ってできあがって「会社辞めたる!!」と大口叩いてみるものの...
(ふと考えると、まあいいかって思ってるんだよね。気楽に気楽にそれが一番。)
「ごめーん。」
すると、彼がやってきた。
「15分遅れくらい?」
「急に呼んだ割には早いじゃない。そんなにあたしに会いたかった?」
「へっへ。また飲んでるんだ?」
私の彼は5歳も年下の学生だ。
「どこ行こう?」
「俺、金かからないとこならどこでも。」
私たちがやってきたのは、さびれた子供向けの遊園地だった。
「あっはっは。さびれてるー誰が来んだろこんなとこ。」
「ははは。」
「ところで大丈夫?会社休んで遊んじゃったりして。」
「いーんだよ。あたしがいなくても会社はいつも通り動いてんだから。...なーんてな。年くっちゃったね。あたしも。」
「どうしたの?」
...なんかつまんないこと言っちゃったかな。
「あっそうそう。これ。」と言って彼が差し出してきたのは、ウイスキーボンボンだった。
「何?なんで?どーしちゃったの?」
「いや、ほらクリスマス周辺仕事できついって言ってたじゃん?で、ちょっと早いけどケーキがわりっつーか。ウイスキーボンボン、お酒好きでしょ?」
「すき。甘いものも好き。」
「おいしい?」
「おいちい。」
「あのさ、さっきの話なんか年のこと気にしてるみたいだけど、60歳過ぎればみんな同じよーなもんなんだから、気にすることないって。」
「何それー!?やーだよーシワシワじゃん!!相当悲惨だよ、あたし!!」
「それでも俺は多分好き。」
こういう根拠のないことをさらっと言ってしまうことにやっぱり年の差を感じてしまって、少し嫉妬してしまうのだけど。
あたしは持っていたウイスキーのボトルの蓋を閉めた。
「ホイ、封印。」
「何なのそれ?」
「ひっひっひ。今言ったこと忘れないでよ!?」
「?うん。」
「今日からあたしお酒を控えます。」
「あはは。むりむり。」
あたしがいつか涙をながしたりしながらそのウイスキーの蓋を開けるその日までは...とりあえず。彼の言葉を信じてあげようと思った。