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5食目:たっぷりアイスボックスクッキー

自動人形は概ね人間と同じような体組成をしている。つまり、活動している限り、お腹が空くのは自然だ。そして味覚については昔は制御していたが、今は人間とほぼ同じものだから、味についても少々くらいは気になる所だ。しかも、食事はといえばまあまあ味の良い国だったものだから、人形達も経験値を積んでいて、やや舌が肥えてしまっている。

 結果として、他国の自動人形と比べれば、食事に対してのモチベーション向上効果は比較的高いと言える。

 その結果というか、個人で調理技術にこだわる者もいるわけで。


「300枚くらいクッキー焼いちゃったので食べません?」

「勢いで生きすぎてませんか?」


 銀色の髪をぽよぽよと跳ねさせながら、彼女は白と黒の渦巻模様をしたクッキーを齧っている。わたしはお湯を沸かしながら、フィルターを準備し、豆を挽いていた。


「やはー。こう、冷蔵庫の片隅に消費期限間近になってた無塩バターが600グラムくらいあってねー。勢いで消費するならクッキーかなーって」

「なんで一人で600グラムも溜め込んでおいてたんですか」

「お菓子作ると無制限に使うんですよ。バターって」

「そういう問題でなく、いえ、木更津さんならそうかもしれませんが」


 古い時代のわたし達は、初期設定されている能力以外は、人間と同じように学習する。

 最近の子は行動をパターン化したアプリケーションをあとから追加入力できるらしいけれど、わたし達くらいの世代だとそれが対応できていない。わたしは一応できないでもないのだが腕の動かし方とかそういった細かい技術はやはり上手く体に適用できない。

 そうなると実際に行動して学んでいく他ないのだが、その分個性の際立ち方が強い。効率化や安定化の面では不便だが、これはこれである意味でそういう個性、「らしさ」なのだろう。


「それに、200くらいなら木更津さん、全部食べてしまうでしょう?」

「やーほら、それなら誰かとお茶したほうがいいですし」


 挽いた豆をドリッパーに載せたフィルターの上に流し込み、お湯で蒸らす。香りが強く立ち上り、ガラス製のサーバーに落ちていく雫を見ながら話を続ける。


「それにー」

「それに?」


 そこから温めたカップに注いでて、ふいに表情を見やれば何やら楽しそうで。


「もゆちゃんとこうやってお茶するのは、好きですしね」

「深夜にすることじゃ、なさそうですけれどね」

「休憩は大事ですよー。わたし達、戦闘人形でも」

「近頃はわたしは、ほぼ普及型くらいの仕事しか、していませんけどね」

「作業人形の業務も大事だってー。っていうかそういう問題じゃないのー」

「大丈夫。わかっていますよ」

「そういうめんどくさい所はキライ!」


 むくれてしまった彼女にカップとミルクに砂糖をサーブする。ちなみに彼女用のカプは、小さいティーカップではなく大型のマグカップだ。やっと席についた頃には……クッキーの山は、全体の2割から3割くらいが減っていた。


「いただきます」


 彼女をなだめながらわたしも1枚もらう。噛めばほろほろと崩れて、少しばかり強い甘みが舌に残る。追いかけるように、こちらは普通のティーカップに注いであった珈琲を一口。少しだけ味のバランスを変えてみたけど、どうか。


「……うん」


 香り、良し。苦味と酸味のバランス、良し。やや酸味強めの、苦味がほどほどのもの。このクッキーならもう少し苦味が強くてもよかったかもしれない。


「んんー。これなら前の感じの珈琲のほうが、クッキーにあったかも?」

「ひょっとして前回淹れたものに合わせて、味を?」

「んーん、たまたまだよー」


 彼女からしても同じような感想のようだ。確かに木更津さんの作るお菓子に味ムラはないわけでもない。実は本当に「そう」だったか、あるいはたまたまか。

 どちらにせよ、豆の味をその時のお茶請けに合わせる腕前はまだまだのようだ。緑茶なら、まだ少しはましなのだが。とはいえ、彼女も不満が大きいというわけでもないらしい。クッキーの消費は早くなった気もする。


「さて、じゃあ準備しましょうか」

「よろしくおねがいしまーふ」


 まだ残っている珈琲をたしなみながら、使わなくなった用紙を持ってきて、2,3枚入れて包みはじめる。後で部隊の面々に配るためだ。

 他愛ないおしゃべりと作業に興じながら、残り僅かになったの今日の作業を考える。とりあえず、残りは明日に回して今日は彼女の話に付き合おう。一応、急ぐ作業は終わらせたのだし。

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