2食目:冷めたフライドポテトに野菜ジュース
長い夜にはふと昔を思い出す事もある。
自分という存在が製造されたのは、戦闘、もう少し正確にいえば戦争のためである。お相手はその当時謎とされていた「怪獣」だ。それに対しての中期頃からの対抗策である。
人権などというものはそろそろ軽視されつつある時代だったが、何分根本的な人的資源の減少がひどかった。その結果、労働力及び戦力として製造されたのがわたし達「自動人形」だ。
当時最先端のバイオテクノロジーと、呪的技術の組み合わせで誕生したわたし達は、流入してきた異世界人から「前時代的」と言われ技術向上を見せていた機械工学技術で作り上げられた装備でもってアップデートを繰り返し、見事その「怪獣」を概ね駆逐仕切ることに成功した、はずだ。
はず、というのは大局を確定させた採集作戦後に、わたしは凍結処分になったからである。
目が覚めた時にはちゃんと全部終わってくれていた。何分、己の製造目的に反して、感情のほうは戦う事を生きがいにはしていなかったが故、きっちりと片がついてくれていたのは自分の望む所だ。むしろ、その戦後処理の手伝いができなかった方にこそ歯がゆく思う。
と。やたら小難しく韜晦していたのには理由がもう一つ。
「んー、ハヤシさん、問題なしです! 凍結処理の後遺症はもう問題ないといっていいでしょう。薬も処方しておきますね。経口摂取型なので、食後に1錠ずつ」
「ありがとうございます」
目の前の椅子に座る、我々にとってのドクター……自動人形整備資格持ちのメカニック、「黒井宇宙」さんにお礼を伝える。
理由は単純なものだ。メンテナンス中で、思考回路がヒマだったからという。
「黒井技師、夕飯はとりましたか?」
「え。あー」
金色の長い髪をがしゃがしゃひっかいて、困った顔をする。そんな顔をしても、ダメですから。
そして、仕事で定期メンテナンスに遅れたわたしもよろしくはないのだが、黒井技師は食事に関しては毎回こんな具合だから逆に、わたしからも放っておけない。自分が人造のものだからこそ、自分のエネルギー補給について、そして他人の保有エネルギーについては敏感なのだ。
「やー、すみません。ここの母艦にくると、教本でしか見ないような自動人形の方が多いのでついつい勉強することが多くなってしまって」
つまり、お互い残業仲間、ということである。
「お昼もいつもどおり抜いたんでしょう?」
「いやーお見通しですねえ」
「いえ、毎度のことですから。仮眠流石に何かお腹に入れてから休んでください。あまり、夜中にはよろしくないものしかありませんが」
わたしは、夕方に差し入れで貰って食べそびれた紙袋を手に、彼女を食堂へと誘う。
トースターの中に伸ばした銀紙の上に、紙袋の中身をざばざばぶちまける。
「おー、フライドポテトですかー。なんか久々に見ますね」
「普段は普通のお食事を?」
「いえ、カロリーバーばっかですねえ」
「……今度、なにかまともに食べられるものを準備しておきます。ビタミンなんかを、ちゃんと摂取できるように」
トースターを閉じ加熱作業を進めてから。
「とりあえずこれを」
黒井技師には冷蔵庫にしまってあった、気休め用の紙パック入り野菜ジュースを手渡す。
「むむ。こういう時はやはり炭酸では」
「気持ちはとてもわかりますが、ちょっとは健康に気を使ってください。なので、それは明日の朝に飲んでください」
気持ちはとてもわかるので。こっちもカロリーの気休めに、冷やしておいたレモンの香りがついた炭酸水を改めて手渡す。
「先にこっちくれればよかったのに」
なんていう話をしながら、トースターで食感を取り戻したフライドポテトを銀紙ごと皿に乗せる。
「いただきます」
食事前の一言を言ってから、つまみつつお互いのことを話す。現状のわたしの職場である北方第3母艦の近況や、かつての戦友、現在の同僚達の話。なんだかんだで、向こうに促されてわたしが喋る事が多い、気がする。普段はわたしもここまでおしゃべりじゃない……いや、なかった気がするのだが、解凍後のこの時代ではつい、色々話してしまう、気がする。
仕事が嫌ということはないし、仕事中は必要なこと以外はほとんど、喋っていないと思うのだが。
彼女が聞き上手だからだろうか。
塩気のやや強い味わいと、また軽くなった口当たりに食事が進む。話題とともに、炭酸水も進む。気がつけば夜警組の帰還の時間になり慌てたのは、やむなきことなのだ。