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静原の呪い〜『呪い』にとらわれた彼と『呪いもち』の彼女〜  作者: ももんがー
『呪い』にとらわれた彼
3/14

第三話 見合い

 そして現在。

 何故か俺は見合いの席にいた。

 お相手は、さとこさんだ。



「あんたに任せてたら来世までかかるわ」


 叔母がひどい。だが、反論できない。


 さとこさんがウチの学校に勤めはじめて一月(ひとつき)

 さとこさんを初めて目にして一月。

 その間俺が何をしていたかというと。


 なにもしていない。


 授業以外では接点が全くない。

 授業で顔を合わせても何ひとつ話すことができない。

 彼女のかわいらしさに当てられて固まってしまうのだ。

 授業のあと太一がひっぱってくれてさとこさんの側に行っても、何ひとつ話ができない。

 太一が気をつかって何かと話の糸口を向けてくれるのだが、ことごとく潰してしまう。


 そんな俺が、さとこさんと見合い。


 死ぬ。緊張で死ぬ。



 制服というのもおかしかろうと、亡父の紋付きを引っ張り出して着せられた。

 父も俺と同じく大きな人だったから寸法は問題なかった。

 問題は俺の中身。


 ……デカい七五三か?

 なんでここまで似合わないんだ?


 母よ。叔母達よ。

 笑うならいっそ大声で笑え。

 弟妹よ。

 俺の姿を目にした途端逃げ出すのはやめてくれ。


「大丈夫よ(げん)。あんた(そう)さんに似てるんだから。

 あと数年もすれば似合うようになるわよ」


 母がなぐさめともつかない言葉ではげましてくれる。


 ちなみに『宗さん』は亡くなった父だ。

 静原の男らしく母を大事にしていた。

 俺を先頭に四人も子供がいても「伊都(いと)さん」「宗さん」と呼び合う仲の良い夫婦だった。


 俺も父のような男になりたい。

 誰かと夫婦となれるならば、父母のような夫婦になりたい。

 その『誰か』は、さとこさん以外に考えられない。

 が、そんなことを考えるとアタマが沸騰してぐるぐるして倒れそうになる。


 こんな俺が見合いなんて。

 死出の旅路に出すつもりか?



 祖父母と母に連れられ、どこかの建物のどこかの部屋に入った。

 座敷には卓が置かれており、まわりに座布団が並べてある。

玄治(げんじ)はここ」と言われるままに座る。

 しばらくすると「お越しになられました」の先触れがあった。



 障子の間から姿が見えた途端、また時間が止まった。


 華やかな振袖姿のさとこさんに目をうばわれ、動けない。

 髪をきれいに結い、華やかな髪飾りをつけている。

 化粧もいつもと違う感じがする。

 いつも学校で見るより唇が赤い気がする。

 唇が気になると唇ばかり見てしまい、アタマが沸騰する。

 

 着物も髪飾りもよく似合っている。かわいい。きれいだ。

 言葉だけは次々にあふれるのに、肝心の声にならない。

 パクパクと間抜けに口を開け閉めしていたが、隣の母に卓の下でベジンと足を叩かれ、ぎゅっと口を引き結んだ。

 そんな俺を横目でちらりと見た母が「どうしようもない」と言いたげに目を伏せ首を横に振る。


 だって、仕方ないだろう!?

 こんなかわいいんだぞ!?

 どうしたらいいんだよ!!



「改めまして」

 仲人さんの声に正気に戻る。

 あわてて背筋をシャンと伸ばす。


「こちらが静原(しずはら) 玄治(げんじ)くん」

「静原 玄治です」

 ぺこりと頭を下げる。

 数日前から叔母達によって文字どおり骨の髄まで叩き込まれた挨拶。

 おかげで仲人さんの声に反応してなんとか形になった。


「こちらが西村(にしむら) 智子(さとこ)さん」

「智子です」と頭を下げるさとこさん。かわいい。

 下げた頭を上げたさとこさんと、ぱっと目があった。

 俺に目をあわせたまま、にっこりと微笑んでくれる。


 か、か、か、かわいい!!


 このまま空を飛べそうだ!

 ふわふわする。力がみなぎる。

 ちょっと暴れてこようかな? 今ならどんな妖魔も一撃で倒せそうだ!


 ぎゅうっと太ももをつねられた。

 飛び上がるかと思った。

 母、容赦ない。もうすっかり静原の女だな。

 でも、ありがとう。ちょっと落ち着いた。


 落ち着いて西村家の皆さんを改めて見る。

 あちらも祖父母とお母上が付き添っている。

 釣書ではお父上もご存命だとあったが、どうされたのだろう。ウチに合わせてくれたのかな?


「本日智子の父は寺のほうで外せない用事がありまして…。ご無礼をお許しくださいませ」


 お寺のご用事なら仕方ないだろう。

「とんでもございません」と返す。


 だが、普段から退魔師として気配を察する訓練を受けている俺は気付いてしまった。

 母とさとこさんのお母上が目線でナニカを交わしたのを。二人が小さくうなずいたのを。


 なんだ? お父上に何かあるのか?


「玄治くんはご存知のとおり、高等学校の二年生でして…」

 俺の疑問が形になる前に仲人さんが俺の経歴を紹介していく。

 他人から改めて語られると恥ずかしいものだな。


「有能な退魔師で」

 いやいや俺なんてまだまだです。

 実際ジジイや叔母にはまだ敵わない。

「最近では『北の黒鬼』なんて異名も」

 なんだソレ。初めて聞いたぞ。

 誰がつけたんだそんな恥ずかしい異名! やめさせてくれ!!


 真っ赤になってうつむくことしかできないでいると「智子さんですが」と聞こえた。

 途端にバッと顔を上げ、仲人さんを見る。

 仲人さんはそんな俺に苦笑して、智子さんの経歴を話してくれた。


 三歳からお茶を習っていて、免状も持っていること。

 学校に通いながらお茶の先生の助手として色々と活躍していたこと。

 そのお茶の先生――ウチの高校で茶道を教えて要る橋本先生――が「智子がいる今しか行けない!」と、半年間の米国出張に行ってしまい、学校を卒業した現在、その穴を埋めるためにあちこちで茶道を教えていること。


 二十歳まで生きられないこと。

 

 それから、お互いの事情の話になった。


「ご存知のとおり、智子は『呪い』にかかっております。

 安倍家の主座様でも解呪できなかった『呪い』です。

 それでも、本当によろしいのでしょうか…」


 悔しそうに、申し訳なさそうに、お祖父様が言葉を絞り出す。


 どれだけ無念なことだろう。

 こんなに可愛らしい子が、孫が、二十歳まで生きられないと突きつけられるのは。

 助ける手立てがないというのは。

 仮にウチのちびの誰かが同じ立場になったら。

 あ。駄目だ。

 考えただけで気が狂いそうだ。


 俺が仮定の話で泣きそうになっている間に、ジジイがこちらの事情を話す。


「我が家に伝わる『静原の呪い』についてどのくらいご存知かわかりませんが……。

 この『呪い』にとらわれた者は、その相手以外考えられなくなります。

 玄治は智子さんに『とらわれた』。

 それはもう、智子さん以外目に入らないということです。

 智子さんが二十歳まで生きられないというならばなおのこと、玄治に側に居させてやっていただきたいのです。

 もちろん、玄治が勝手に『とらわれた』だけの話です。

 そちらにご不満があれば、断っていただいて構いません。

 それもまた『静原の呪い』ですから」


 そう。

 誰も彼も結ばれてしあわせになるならば、人が変わるくらいで『呪い』なんてつけられない。

 唯一を得られなかった者、唯一と死に別れた者も確かに存在していた。

 そんな彼ら彼女らの末路を知った者が『呪い』なんてつけたのだ。


 両家の交わす話で、お互いの願いがわかった。


 さとこさん側は、智子さんに『男性に愛されるしあわせ』を感じてもらいたい。

 二十歳までしか生きられないから、結婚はできない。

 それでも、残された時間をしあわせに過ごしてもらいたいと願っている。


 これまでの十八年は、異性に関わることはなかった。

 浮いた話ひとつ無かったと聞いてうれしくなった俺はひどい男かもしれない。

 余命宣告されているさとこさんにとっては、異性に目を向ける余裕はなかった。

 死の恐怖から逃れるように茶道に心の安定を求め、のめり込んでいたという。


 見合いの話が来たこともあったが、皆断っていた。

 だが、俺の話には、さとこさんもすぐには断れなかったと話す。


 同じように『呪い』にかかった。

 自分のせいで『呪い』にかかった。


 さとこさんは、断れなかった。

「見合いだけなら」と、今日の席がもうけられた。


 我が家の願いは単純だ。

『呪い』の相手と過ごさせたい。

 たとえ死に別れるとしても、少しでも許嫁(いいなずけ)として過ごせたならば余生をしあわせに暮らせるだろう。


 それだけだ。


 誰もが、さとこさんはあと数年で死ぬと思っている。

 残された時間を見ている。

 さとこさん本人も。



 両家の祖父母と母親は同意したようだ。

 俺の意見は聞かれない。

 聞くまでもないからだ。

「あとは智子が決めなさい」と祖父にうながされ、さとこさんはしばらく黙ってうつむいた。



 あ、あれ?


 突然、すうっと冷静になった。


 さとこさん、俺が相手では嫌なのかな?

 俺のこと、男として見られないのかな?

 そうだよな。生徒だもんな。

 ま、まさか、俺のこと、嫌いだったりするのか!?


 母や叔母達からの酷評が頭をよぎる。

「デカい」「こわい」と散々だった。

 こんなにちいさくてかわいいさとこさんからみたら、俺なんかまさに『黒鬼』だろう。


 冷静になって考えて、あるひとつの可能性に気付いてしまった。


 お、俺、さとこさんに、嫌われてる? こわがられてる?



 どうしよう。泣いていいかな?

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