第二話 家族会議
今日は始業式だけだったので、家で昼飯を食べる。
午後からは造園業の仕事の手伝いに入る。
その予定だった。
はっと気付いたら夕食で、赤飯を食べていた。
何で赤飯?
「玄ちゃんが『呪い』にとらわれたお祝い!」
………は?
「玄にーちゃん。のろいってなーに?」
「ウチには『静原の呪い』って言われるのがあってな」
え? 何?
勇、とりあえずちびどもに説明するのをヤメロ。何か恥ずかしい!
「えー! じゃあ、およめさんがくるの!?」
オヨメサン? よめ? 嫁! 誰が!? 誰の!?
「お嫁さんには来れないのよー。跡取り娘さんだからね。玄ちゃんがお婿に行くのよー」
「え、ちょ、ま、え?」
なんでそんな、お相手のことまで知ってんだ!?
ぽやんとした俺から情報を引き出すのは、赤子の手をひねるよりも簡単だったそうだ。
情けなくてがっくりくる。
どうも俺は学校からずっとぽやんとしていて、ぽやんとしたまま帰宅したらしい。
帰宅した俺の姿を見るなり、ジジイが異変に気付いた。
すぐに母も叔母達も異変に気付き、俺を取り囲んで尋問した。らしい。全然覚えてない。
ぽやんとした俺はぺらぺらとしゃべった。らしい。
「『呪い』にとらわれた」
「お相手は?」
「にしむらさとこさん。今日、新任で学校に来た」
「鳴滝の青眼寺の跡取り娘だって太一が言ってた」
そこからの大人達の行動は早かった。
あちこちに情報収集におもむき、結果、夕食に赤飯が出た。
あちこちに赤飯配った!? なんてことしてんだ母さん!! まさか事情を……話したのかー!!
うわぁーー!! 明日からどんな顔して外歩けばいいんだよー!!
恥ずかしさのあまり立ちあがったら、瞬時に寿美叔母さんに頭をガッとつかまれた。
そのまま床に叩きつけられ「座れ」と冷たく一瞥される。
これだから静原の女は。
退魔もこなす静原の女は容赦ない。
母は他家からの嫁なのでまだ一般的な女だが、この父の妹である叔母は幼い頃から退魔師として育てられた強者だ。逆らってはいけない。
ちなみに我が家は現在、祖父母、母と俺達兄弟、父の二人の弟の妻と子供達、父の妹と子供達の大家族となっている。
子供は俺を含めて十六人。
俺はその長男だ。
男を戦争に取られ、生活するのも退魔をするのもいっぱいいっぱいだったときに一緒に暮らしはじめてそのままになっている。
利点しかないので問題ない。
ぽやんとした俺はいつ昼飯を食ったのか、夕食までどうしていたのか、全く記憶にない。
危ないからと造園業の仕事は免除されていた。気付かなかった。何してたんだ俺。あ、ずーっとぼーっとしてた? 遊びたかったのか。ごめんな。また遊ぼうな。
そして母達が説明してくれる。
鳴滝青眼寺に封じられた妖魔と、さとこさんにかけられた『呪い』について。
その妖魔はずっと昔に封じられた妖魔だという。
五十年に一回、封印をかけ直すことでこれまで何の問題も起きていなかった。
十二年前、その五十年に一度の封印をかけようとしたとき、事件が起きた。
妖魔の封印が解けたのだ。
すぐさま予定の封印をかけたが、はじかれた。
もう駄目かと思ったその時。
当時六歳のさとこさんが、妖魔を封じたのだ。
そのせめぎあいのときに、妖魔に『呪い』をかけられた。
「小娘が!! 許さん! 許さんぞ!!
貴様に『呪い』を刻んだ!
貴様の生命を贄にして我は必ず復活してやる!
十五年の間に、必ず復活してやるぞ!!」
多喜叔母さん、迫真の演技はヤメテ。
大泣きのちびどもどうすんだよ。
「安倍家の主座様にも解呪をお願いしたんだけど、対象が封印されちゃってるから解呪できなかったんだって」
ちびどもは放置か。そうか。
これだから静原の女は。
よしよし、ちびども。抱っこしてやるから泣き止め。
大丈夫大丈夫。こわいのは兄ちゃんがやっつけてやるからな。
両腕にひとりずつ、膝にひとり、背中にひとりのちびをくっつけたまま話を聞く。
「静原にも昔、退魔の依頼が来たけど、安倍の主座様の話だと、術がややこしく入り組んでるみたいで、封じられた本体を斬ると智子ちゃんも一緒に斬られちゃうことになるって。
だから結局何もできずに、今に至るのよ」
「智子ちゃんもあきらめてるみたいでね。
自分は数年で死ぬって言ってるらしいの。
だから、跡取り娘なのに婚約者も恋人もいないって」
それは、どれほど苦しいことだろうか。
さとこさん、可哀想に。
それなのにウチの女ども――母と叔母達は「よかったね玄」なんてのんきに言う。
あんた達ひどくないか!?
「だって、あんなかわいくて気立てのいい娘さんが残ってるなんて、まずないわよ!」
それは確かに。
「あんたそれなりの退魔師なんだから。
その封印された妖魔倒したら『玄治さん、素敵!』てなるかもしれないじゃない!」
そ、そうかな?
「危機を助けられたら、多少のことには目をつぶってもらえるわよきっと!」
なんだよその言い方。
まるで俺に問題があるみたいじゃないか。
「だってあんたデカいし」
「顔こわいし」
「目つき悪いし」
「いっつも怒ってるみたいな顔してるし」
…泣いていいかな?
身内の女性から見た俺の評価が低すぎる。
確かに俺はデカい。
百八十センチ超えの長身なうえに、退魔師と造園業の手伝いでそれなりに鍛えた身体は筋肉もしっかりとついている。
太ってはいないが、肉厚ではある。
顔つきも、優しいとは言いがたい。
太い眉は吊り上がり、それに伴うかのように目も吊り上がっている。
輪郭もゴツゴツしているし、口元だって普段はへの字口だ。
仕事の邪魔になるから髪も短く刈っている。
とても女性受けするとは言えないとは理解しているが、身内なんだからもう少し甘く採点してくれないだろうか。
「おかあちゃんたち、ひどいよ! 玄にいちゃんはカッコいいよ!」
「そうだよ! 大っきくて強くて、ぼくたち、大好きだよ!」
「大丈夫だよ玄にいちゃん。にいちゃんはカッコいいよ! およめさんだってきっと好きになってくれるよ!」
「お前達…。ありがとう」
ちびどもをまとめてぎゅうっと抱きしめてやると、きゃっきゃと喜ぶ。
「父性はあるんだけどね」
「父性じゃあオンナはなびかないわよ」
「ちびにばかりもててもね」
女どもがひどい。
くそう。今に見てろよ!
「今ナニ考えた?」
「なにも考えてませんスミマセン」
頭を握りつぶそうとしないでください!
「ウチの跡取りをどうするかになるが、さしあたり、勇を鍛えるか」
「えええー!! 無理! 絶対無理!!」
祖父の言葉に弟が抵抗する。
「大丈夫大丈夫。玄だって最初は大したことなかったんだから。退魔なんて場数よ勇。早速今夜の仕事からビシバシやりましょう!」
「に、兄ちゃ〜ん!!」
スマン。勇。お前の犠牲は忘れない。
ん? というか、俺が婿入りする前提で話が進んでいるが、何でだ?
「仕方ないじゃない。『呪い』にとらわれたらもう他には目が向かなくなるんだから」
「智子ちゃんと結ばれて婿入りするか、振られて誰とも結婚しないかのどっちかしかないでしょ」
「それが『静原の呪い』」
女どもが口をそろえて断言する。
な、なるほど。確かに、断られる場合も考えられる。
そうか。断られたらもう他には目がいかなくなると。
跡取りだったりすると、後継が残せないから跡取りから外れると。
そう言われると『呪い』というのもあながち大げさではないのかもしれない。
「にいちゃんはカッコいいから大丈夫だよ!」
「およめさん、今度連れてきて!」
ちびどもは楽しそうに俺にまとわりつき、すぐ下の弟の勇治は寿美叔母さんに首根っこを押さえられちいさくなっていた。
他の弟妹達はそんな勇治にあわれみの目を向けつつ、自分に矛先が向かないように気配を消していた。
そして祖父母と母、叔母二人は、俺を見てニヤリと笑った。
あとから思えば、この母達の様子にもっと突っ込んで話を聞けばよかった。




