第十一話 幼い頃の話
サト視点です。
玄治視点とサトの印象が違うかもしれません。
玄治は「サトさんかわいい」とぽやぽやして見ているし、玄治の前ではサトもやわらかくなっているためです。
「――好きです」
私の告白に、その人はちょっと眉をひそめつつも微笑んでくれた。
「ご迷惑なことはわかっています。でも、どうしてもお伝えしたかったんです。
好きです。とても、好きです」
あきらめようと思った。
年齢が違いすぎる。私はまだ幼すぎる。
それでも、伝えたかった。
勇気をふりしぼるために両手を重ねてぐっと握り、足をふんばった。
じっとお顔を見つめる。恥ずかしくて逃げ出したくなるけれど、ぐっとこらえる。
「――こんなかわいいお嬢さんに告白されるなんて、私もまだまだ捨てたもんじゃないな」
クスリと笑って、私の前にしゃがんで視線を合わせてくださる。
「ありがとう。うれしいよ」
その言葉がうれしくて、赤い顔がさらに赤くなった。
飛び上がるような幸福で胸がいっぱいになる。
「だがね」
続いた言葉に、ふくらんだ喜びがぷしゅうとしぼむ。
「君の相手は私ではない。残念だがね」
ニヤリと笑うそのお顔も素敵で、悲しいのに見惚れてしまう。
「君の『運命』が動くのは――十八歳だな。
どんな相手とどんな出会いをするのかわからないが、君の友人として、君の幸福を祈っているよ」
そう言って、五歳の私の頭をやさしくなでてくださる。
私の初恋のひと。
安倍の主座様。
物心ついたときから自分はかなり霊力が高かった。
遊び感覚で父の研究する術を覚え使った。
突然浮かんだ映像の話をして両親を驚かせた。
その映像は、時には誰かの過去であったり秘密にしたい事柄であったりした。
『先見』と呼ばれるものであることもあった。
家族も、私自身も、このチカラをどう扱うべきか悩んだ。
そんなときに、主座様に出会った。
我が家は代々寺を守っている。
この寺の開祖様のお墓は裏山にあり、月に一度は祖父と開祖様のお墓に参っていた。
その頃の私は色んなものが『視え』すぎて疲れていた。
疲れて、しょっちゅう山の中で過ごしていた。
山の中ならば人間に会わない。
余計なものを『視』なくて済む。
四歳のある時ふと思いついて、開祖様のお墓に参った。
それまで抱えていた不平不満を、開祖様に聞いてもらうように全部吐き出した。
しゃべってしゃべってしゃべり疲れたころには、胸の中がすっきりしていた。
それから何度も開祖様のお墓で愚痴を聞いてもらった。
その日もいつものように愚痴をこぼしていた。
調子よくしゃべっていたら、突然クスクスと笑う声が聞こえた。
あわてて振り向いたら、そこにその人がいた。
ほっそりとしたおじいさんだった。
なでつけたまっ白な髪を肩にかからないくらいの長さでそろえていた。
絵本で見た狐のように吊り上がった目は穏やかな色をたたえていた。
今まで感じたことがないほどの大きな霊力を感じる。
まるで白狐が人間の形をとって出てきたみたいだった。
「こんにちはお嬢さん」
「こ、こんにちは」
優しい声に胸がふるえた。
「邪魔をして申し訳ないね」
「い、いえ。とんでもありません」
何でこんなところに人が来るのか、とか、この人は誰なのか、とか、色々と疑問は浮かんだが、何一つ声にならなかった。
その美しいおじいさんに目を奪われていた。
「私の名は安倍晴明。――知ってるかな?」
「――安倍家の、主座様、ですか!?」
「そうそう。よく知ってるね」
にっこりと微笑むおじいさん。
安倍家の話は聞いていた。
何度も転生しているという主座様の話も。
まさか、その主座様にお会いできるなんて!
「君は?」
問われ、まだ名乗っていなかったことに気付いた。
「西村 智子です。四歳です。青眼寺の娘です」
あわてて名乗り、ぺこりとお辞儀をする。
「青眼寺の」と主座様はうれしそうに微笑まれた。
「私は開祖と友達だったんだ。
年に一度、この時期に毎年墓参りに来ているんだ」
主座様がここにいらっしゃる理由を説明してくださる。
開祖様は四百年くらい前の方だ。
主座様が何度も転生なさっているというのは本当の話らしい。
「で? 君はここで何をしていたんだ?」
主座様に問われ、話をする。
私のチカラのこと。周りの反応のこと。どうしていいかわからないこと。
全部聞いてくださった主座様は「フム」とひとつうなずき、おっしゃった。
「これも何かの縁だろう。よかったら、私がチカラについて教えようか?」
「本当ですか!?」
「ああ。こいつに寺を押し付けたのは私だからね。
その寺の関係者が困っているとなれば、私が手助けせねば、こいつに怒られてしまう。
案外、君の愚痴を聞いたこいつが『なんとかしろ!』って私と会わせたのかもしれないね」
そう言って笑う主座様。
そうかもしれない。ありがとうございます開祖様。
そのまま二人で家に帰り、主座様は家族に挨拶をしてくださった。
両親も祖父母もものすごく驚いていたし恐縮していたけれど、結局主座様と月に一度お会いして色々教えていただけることになった。
主座様は素晴らしい方だった。
幼い私を子供扱いせず、丁寧に教えてくださった。
チカラのこと。術のこと。扱うときの心構え。一般の人にどう対応するか。
時には雑談をまじえながら、時には専門的な話を加えながら、様々なことを教えてくださった。
紳士的な主座様を好きになるのに、時間はかからなかった。
思い余って告白したのが五歳。
その後も主座様は変わらず月に一度は会いに来てくださった。
そして、六歳のある日。
私は呪われた。
主座様に相談した。
でも、主座様でも解呪できなかった。
私のかけた封印が完璧すぎて他の術が干渉できるだけの余地がないらしい。
かといって封印を解くこともできない。
とっさに、必死で封印をかけたから、私自身どんな術式を組んだのかわからなくなってしまったからだ。
「時期を待つしかないな」
主座様がそう結論付けられた。
「封じた妖魔の封印が解けた時に討伐するしか手がない。
今の状態で妖魔を斬ったら、サトまで死んでしまう。
妖魔のかけた術とサトのかけた術が複雑にからみあっていて、私でも解けない」
その妖魔を討伐できる人はいるの?
私のためにあの妖魔と対峙させるの?
仮に封印が解けたとして、私が再封印することができるの?
色々考えた。家族で話し合った。主座様にも意見をいただいた。父と術式を見直し調べ直した。解呪の方法はないか、再封印するすべはないか、ありとあらゆる古文書を読みあさった。
あがいてあがいて、私は受け入れる他なかった。
自分が『呪いもち』であることを。
二十歳まで生きられないということを。




