最新GAMESのチュートリアルがツボにハマりすぎて本編を始められない
今日は最新VRMMOSのゲーム『最強の漢は誰だ!〜硬派な奴等に贈る肉体派RPG〜』のリリース日だ。
男女共に遊べるように設定されているのがあたり前のゲーム業界に新星のごとく参入してきた会社で、このゲームのコンセプトは『男性を対象にしたゲームの開発』に特化したマニアな集団が作ったゲームと言う事でリリース前から世の中のゲームマニアの男達がこぞって事前登録をした話題作だった。
ちなみにR18では無いし、女性がプレイしても問題になる事はないらしい。
但し、男目線で世界観が展開されるので精神的に合わない方のプレイは控えてくださいと注意が促されていたが・・・。
そういう僕、前野栗秋もネットで噂になる程のゲームに当然ながら興味をソソられて事前登録したひとりだった。
(前出し情報ではかなり自由度の高い世界観で職業やスキルの構成、さらにボーナスステータスの振り方によってキャラに個性が出るようにプログラムされているらしいから他のプレイヤーの初期情報がネットに上がってから始めた方が無駄がないのか?)
僕も“廃”が付くほどではないが、それなりにゲームはやり込むゲーマーだったので初期の設定で他者に遅れをとる事は出来れば避けたかったので情報を待とうかと考えた。
だが、新たに始まったばかりのゲームだからいきなり纏めサイトに情報を上げられる猛者はそうは居ない。
(やはりやり込みゲーマーの僕達が時間のロスという多大な犠牲を払ってその他大勢を先導するしか無いだろう。
情報を待つなんて甘えた事を言ってたら僕もモブに成り下がってしまうだけだしね)
そう決心した僕はVR機器をセットしてゲームを起動した。
◇◇◇
ーーーようこそ男達の戦いの世界へ。
ゲームを起動させるとタイトルが表示され“初めから”のボタンが点滅している。
その横には“続きから”の文字もあるが当然ながら灰色になり、選択は出来ないようになっていた。
僕はわくわくしながら“初めから”を選び、どんな設定のキャラにしようかと考えていた。
次の画面になった時、名前と年齢を登録するように要求された。当然ながら本名を入れる馬鹿は居ない、もちろんニックネームだ。
僕はこういった通信系のゲームをする時にいつも使うニックネーム『マクアエリノ』を登録し、年齢を20歳とした。
「性別は・・・なんだこれ?“男”しか選択出来ないじゃないか」
僕はその徹底した男性向きの設定に苦笑いをしながら項目を入力していった。
「よし、あらかた初期設定は済んだから早速始めてみるか・・・なになに?」
『ようこそ漢達の世界へ。チュートリアルを開始しますか?【yes】【no】』
(やはりチュートリアルがあるのか、まあVRMMOSは操作方法を良く理解してないと直ぐに死んだり、先に進めなくなったりするからな。
気持ちは早るが基本は押えておかないとな)
僕は少し迷ったが【yes】を選択してチュートリアルをする事にした。
◇◇◇
『ようこそ、こちらはゲームを正しく楽しめるように皆様を導くチュートリアルとなっております。
今からこのゲームのシステムについてご説明させて頂きます。
あなたのチュートリアル担当になりました【ミチビキ】と申します。
どうぞ宜しくお願いしますね』
チュートリアルが開始されると、僕の目の前には20歳前後の猫耳カチューシャを着けた美人メイドがニコリと微笑みながら挨拶をしてきた。
(おお!?メイドさんだ!しかも猫耳カチューシャ付!これは萌える展開だ、運営も分かってるじゃないか)
現在進行系で彼女などいない僕は彼女の仕草に『ドキリ』としながらも(なに、メイドカフェでもこのくらいのサービスはあるじゃないか)と彼女に対して動揺を表に出さないようにしながら話を進めた。
『まず、システムについてですが・・・』
ゲームにおける肝であるシステムや操作性について次々に説明が続いた。
体感時間で10分くらいあっただろうか、途中から説明を聞くのが面倒になってきた僕は視界の右手にある【説明をスキップする】のコマンドに触れようとした。
『まだ全部の説明が出来ておりませんが途中で終わっても宜しいのでしょうか?』
ミチビキが涙目になりながら僕の手を握ると説明スキップの最終確認をしてきた。
『本当に宜しいのてすね?ああ、私の説明が遅く伝わりにくかった為にご主人様を説明不足のままこの世界に送り出そうなんてなんと罪深い事をしてしまったのでしょう!』
ミチビキはさらに悲観的な言葉を続けていく、その場に膝をついて崩れ去り下を向いたまま告げた。
『では、チュートリアルは中断ということで処理しておきます。但し、一度中断されたチュートリアルは再度受けることは出来ませんのでご了承ください』
ミチビキの態度と言葉に精神的罪悪感に苛まれた僕は中断のコマンドをキャンセルしてミチビキに告げた。
「分かったよ。最後まで聞くからそんなに落ち込まないでくれ。そのかわり有益な情報を頼むよ」
(もうこうなったらトコトン聞いてやるか。どうせチュートリアルなんて初めの一回した開かないんだからな。ミチビキも可愛いしな)
『ありがとうございます!精一杯サポートさせて頂きますので見捨てないでくださいね』
ミチビキが満面の笑みで僕に抱きついてきた。
「!?」
もちろんVRゲームなので抱きつかれた実際の感触はないのだが何故か体に電気が走ったような感覚に震えた。
(なんだこのゲームは?間違いなくVRMMOSだったはず。決してアダルティな恋愛シミュレーションゲームではなかったはずだ!?)
僕はお礼を言って離れたミチビキを見ながら「このゲームの開発者は神だな」と本編をしてもいないのに神ゲー認定をしていた。
『ではご主人様。つぎに戦闘に関しての説明になりますが・・・』
(おお、そうだな。システム的なものは説明を受けたけど戦闘についてはまだ詳しく聞いて無かったか)
そう言うとミチビキが僕に『申し訳ありませんが後ろを見て頂けませんか?』と指示をしてきたので素直に後ろを見てみた。
(? 何もないな。てっきり敵でも居るのかと思ったんだけどな)
『もう宜しいですのでこちらを向いてくださいね』
前からミチビキの声が聞こえてきたので僕は意味の分からないままそっちに目を向けた。そこにはメイド服から冒険者の装備に着替えたミチビキが笑顔で立っていた。
「いつの間に着替えたんだ?」
僕はそう言った後でこれがゲームだった事を思い出し「ああ、ゲームだから装備の変更は一瞬だよな」と自分で納得した。
『では、これより模擬戦闘をしますので剣を構えてくださいね』
ミチビキが剣を構えて攻撃の準備動作に入る。慌てた僕はいつの間にか右手に剣を持っている事に気がついて慌てて構えた。
(これでも戦闘ゲームはやり込んだ方だし、操作方法もさっき聞いて大体理解したからそれなりにはやれるはずだ。
彼女に剣を向けるのは気が引けるかこれもチュートリアルのひとつだと思うので本気で行かせてもらおうかな)
僕はミチビキの隙を見極めて防具のある胴を剣で水平に打った。
(貰った!)
僕は勝ちを確信したと思ったが剣が当たったと思った瞬間ミチビキの体を剣がすり抜け、代わりに僕の胴に衝撃が走った。
(何だと!?くそー、チート仕様だったか!)
チュートリアルのチート仕様とは、普通ならば楽勝に勝てる相手なのにイベント仕様で無敵になるか体力が無限になるなど、絶対に勝てないのである。
バシッ!!ドガッ!!
ミチビキに胴を打たれ壁まで跳ばされた僕は、無残にもその場に倒れ気を失った。
ーーーその後、気がついた僕は目の前に心配そうな顔をしたミチビキがいる事に気がついた。
「ここは・・・?」
僕は記憶を辿るが模擬戦闘でチートなミチビキに叩きのめされて気を失ったらしいとしか分からなかった。
『大丈夫ですか?もう少し手加減をすれば良かったのですが、あなたの剣が普通ではない鋭さを持っていたのでつい本気になってしまいました。ごめんなさい』
そう言うミチビキを見上げるように床に寝かされた状態で膝まくらをされていた僕はその事実に頭が真っ白になり顔を真っ赤にしながら飛び退いた。
いつの間にかミチビキはまたメイド服に着替えていたので気恥ずかしさから僕はミチビキをまともに姿を直視出来なかった。
もちろんVRなので感触や体温などある訳無かったが女性に免疫の無い者には殺人的な行為だった。
『あらあら、もう大丈夫なのですか?では、戦闘に関するご主人様の総評を申し上げますわ』
ミチビキが微笑みながら訓練の総評を表示させていく。
『剣技10、体術8、防御5、体力8、戦術10となりました。
防御面が少し弱い傾向ですが十分に前線で活躍出来る剣士としての素養があります』
(やはり剣士タイプに分類されたか。まあ初期パラの振り方もそうなるように調整したからな。やっぱり男ならば前線を張れる剣士だよな)
僕が訓練の結果に満足しているとミチビキが次の説明に進んだ。
『では次に魔法の使い方の実績訓練をします。準備はいいですか?』
「いや、準備と言われても魔法のパラには全くステータスを振ってないから魔法は使えない・・・ぐわっ!?熱い!?」
魔法は使えないと言っているのにミチビキは容赦なく4属性の魔法を放ってくる。
炎、水、風、地、それぞれの初期魔法だったが魔法のパラに加えて魔法防御パラもほとんど入れていなかった僕は簡単にボコボコにされた。
そして、模擬戦闘(剣技)に続いて魔法でもやはり吹き飛ばされて気を失った。
ーーーそして、またミチビキの膝まくらで目を覚ました。2度目ということもあり、びっくりして飛び退くといった事は無かったがやはり何度体験しても慣れる事は無かった。
「何度もすみません。魔法戦闘の総評をお願いします」
ミチビキは僕が落ち着くまで待っていたらしく、ニコニコと笑顔を振りまきながら総評を表示してくれた。
『魔法適正0、魔法防御2、魔法回避5、よってご主人様は魔法の素養はほぼ皆無となります。せめてもう少し魔法防御を上げて頂けるとより戦闘が楽になりますよ』
ミチビキが的確な総評を伝えてくる。
(まあ、分かっていた事だし仕方ないだろう。得てしてこういった対人ゲームは何でもかんでも出来るようにパラを振り分けると器用貧乏になって結局のところ何も出来なくてパーティーから不必要認定されるのがオチなんだよな)
僕は今までのゲームでも大抵は斬込み特攻隊長役を担ってきていた経験が多かったのでこの結果は初期のパラ分けとしては満足していた。
(よし、そろそろチュートリアルも終わるだろうからさっさとレベルを上げて仲間の募集をするかな)
僕はチュートリアルの終わりが近づいていると感じて本編の進め方について考えていた。
『では、これでチュートリアルは終わらせて頂きます。最後までスキップなく受けてくれてありがとうございました。私、ミチビキはご主人のご厚意に厚く感謝をします』
(よしよし、最後の挨拶に入ったな。もう少しだ)
『最後にチュートリアルを最後までスキップ無しでこなされた方限定でプレゼントがありますので受け取ってくださいね』
そう言ってミチビキが呼び指した先にはボタンが浮かび上がっていた。
「なになに、なんて書いてあるんだ?」
僕はボタンに書かれている文字とその横にある説明文を読んだ。
そこには・・・。
【チュートリアル完全クリア無料ガチャ】
【抽選内容:案内人による包容、案内人による握手、案内人による・・・。その数なんと9種類。各11%となっていた。そして最後にしれっと、伝説の武器1%と表示されていた】
「なんじゃこりゃあ!?」
やり込みゲーマーとしてはズルいかもしれないがやはり「伝説の武器」が欲しい。チュートリアルをクリアするだけで手に入るかもしれないチート武器だ。インチキする訳では無いし運営が用意しているのだから運営公認のチート武器という事でリセマラしてでも取りに行くのがゲーマーの魂というものだ。
(チュートリアルが少し長いのがネックだけどミチビキさんは可愛いし、ガチャで外れても一時の夢はあるから当たるまでリセマラしてやる)
そう誓った僕は当たるわけのないガチャを回した。
ーーーキンッ!ビカーッ!!
派手な演出が目の前で展開される。
(まあ、お約束の演出派手で当たらないやつですね)
今まで他のゲームでのガチャ演出から、派手なものでも微レアしか出ない事など多々あり、僕は期待せずに何に確定するのかじっと待った。
ーーーからんからんからん。
突然、鐘ベルの音が鳴り響き目の前には一振りの剣が浮かんでいた。
(うわっ!?マジか。一発で引き当てたよ。1%だろ?強運すぎないか?)
『おめでとうございます。伝説の剣が当たりました。受け取られますか?』
「受け取られますか?とか当然だろ?それとも何かあるのか?」
ミチビキの不自然な物言いに疑問を持った僕はミチビキに聞いてみた。
「この剣を受け取るとどうかなるのか?」
『いえ、その剣を一度受け取ると2度とチュートリアルを受ける事が出来なくなるだけです。つまり私とは2度と会えなくなるだけですので特に問題はありません』
「受け取らなければ?」
『剣を当てた方のみ『今回は受け取らない』選択が出来ます』
「それって何かプレイヤーに得はあるのか?」
『もう一度チュートリアルを受けてもらう必要はありますが、次に剣を引いたらもう一本プレゼントします。
基本的にこの伝説の武器は不買品ですが2本目からは他のプレイヤーに売る事が出来ます』
「ちなみに魔法職のプレイヤーが剣を当てた場合は?」
『ご主人様が魔法職の場合は『伝説の杖』に自動的に変更されます』
(なるほど、ゲーマーとしては最低限1本は自分の武器として確保しておきたいし、複数本確保出来れば仲間に渡すことや売って資金にする事も出来るって訳か。
それにしても1%か・・・また微妙な確率を設定してきたもんだな)
『それでご主人様は今回はどうされますか?』
ミチビキが微笑みながら聞いてきたので僕は迷わず答えた。
「もちろん“今回は受け取らない”で!」
『ありがとうございます!!』
ミチビキがそう言いながら僕に抱きついてきた。思わず体が硬直するがもちろんVRだ。
そしてチュートリアルのクリア回数に1が付き、特殊武器個数にも1が付いた所でセーブされた。
◇◇◇
セーブを確認した僕は一度ゲームの世界から現実の世界へと戻ってきた。
時間を確認すると30分程経過していた。
チュートリアルが濃密すぎて喉が乾いた僕は冷蔵庫から麦茶を出し、グイッとあおりながらふとゲーム掲示板を確認してみた。
そこには早くレベルを上げて優位に立とうとするプレイヤー達がチュートリアルをキャンセルして進めたであろう情報が飛び交っていた。
[このゲーム操作がガチ難だな]
[誰か魔法職は居ませんか?募集中]
[対人バトルしてたら横からモンスターが乱入してきたマジか!?]
そんな事が上がる中、僕はある文章に目が止まった。
[チュートリアルに女の子がいただけで本編にはひとりの女の子も出て来ないんだな]
[分かんないぞ。何処かに隠れキャラで居るかもしれないぞ]
[ウサギを倒したら実はバニーのおねえさんだったとかか?馬鹿かお前は?]
(いや、確かにこのゲームは男性向けのコンセプトだったがNPCにも女性キャラが出ないとかやり過ぎじゃないか運営・・・)
僕はそう思いながらその後何度もチュートリアルに挑んだが、2度目の剣を引き当てる事は無かった。
『ーーー今回も残念ながら特別な景品は当たりませんでしたね。そろそろ冒険の旅に出られますか?それともまた私にお付き合いして貰えるのですか?』
もう、何十回となく聞いたミチビキのセリフに躊躇なく『再度チュートリアルを行う』を選択する僕は。
(このゲームのチュートリアルは、VRMMOSのRPGとしてじゃなく、独り者の男性向け癒しゲームとして別に売り出した方が運営儲かったんじゃないか?)
と勝手な事を思いながら今日もチュートリアルのみループする僕だった。
ー 完 ー
最後まで読んでくれてありがとうございます。
VRMMOSものは初で変な文章だったかもしれませんが少しでも面白かったと思って貰えたら幸いです。
他にもいくつか小説をあげているのでそちらも読んで貰えたら嬉しく思います。但しほとんどがハイファンタジーものですが・・・
宜しくお願いします。