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お菓子の家の魔女はヘンゼルとグレーテルの幸せを願っている

作者: 夜月翠雨

 あるところにお菓子の家に住む魔女がいました。その魔女はずいぶんと年寄りで、鼻は曲がり、背も恐ろしく曲がっているのでみんなから恐れられていました。

 最近では、子供をお菓子の家に招き入れては魔女が食っているという噂さえ流れ始めました。

 そんな噂とは真逆に、魔女はとても優しい人でした。お菓子の家も子供たちを喜ばせるためのものでした。しかし、噂のせいでお菓子の家の近くには誰も寄り付かなくなってしまいました。

 魔女はずっと一人で寂しい思いをしていました。


 そんなある日。魔女は小さな白い鳥に姿を変え、散歩をしていました。小さな鳥に姿を変えることが魔女が唯一できる変身魔法でした。

 そして森で目に生気のない男の子と女の子が彷徨っているのをみつけました。兄妹でしょうか。

 よく見ると、その兄妹の服はボロボロで足取りもなんだかおぼつかない様子です。

 魔女はそんな二人を可哀想に思い、お菓子の家に招くことにしました。

 鳥の姿で二人をお菓子の家まで導きます。


 二人はお菓子の家にたどり着くなりさっそく、砂糖でできた屋根や窓などを食べ始めました。よっぽどお腹が空いていたのでしょう。

 魔女は窓から家へ入り、人間の姿に戻ります。魔女は自分の醜い姿が受け入れられるか不安でしたが、勇気を出して二人の前に姿を表します。


「さぁさぁ、子供たち。そんなところにいないで家へお入り。怖いことは何もないよ」


 魔女は精一杯の笑顔で二人の手を取り、家へ招き入れます。そして、ジャムがたっぷりとかかったホットケーキとミルクティーを二人に振る舞いました。

 魔女は誰かと一緒にご飯を食べるのが久しぶりだったので、とても喜びました。


 兄の方がヘンゼル、妹の方がグレーテルと名乗りました。魔女はかわいらしい白いベッドを用意し、ヘンゼルとグレーテルを休ませてあげます。

 二人は天国にいるような気分になりました。

 魔女はぐっすりと眠ったヘンゼルとグレーテルのバラ色の頬を見てにっこりです。


 三人は少しの間、楽しく暮らしました。とくにヘンゼルはいつもグレーテルにご飯を譲っていたのか、とても痩せ細っていたので魔女は腕によりをかけて美味しいものを作り、たくさん食べてもらいます。グレーテルはそんな魔女が大好きで、たくさんお手伝いをします。

 ヘンゼルとグレーテルは魔女を本物の祖母のように、魔女は二人を本物の孫のように思っていました。


 しかし、そんな日々は長く続きませんでした。

 それは魔女がまた鳥の姿で散歩に出かけたときのことです。

 何かを探しながら、森を歩き回る男をみつけました。

 男はこう言っていました。


「ヘンゼルー! グレーテルー! 出てきてくれー! 私が間違ってたんだ! すまなかった!」


 魔女は一心不乱に叫ぶその男がヘンゼルたちの父親だと一目でわかりました。

 そしてこう思ったのです。

 ヘンゼルとグレーテルを待っている家族の元へ返してあげなければと。

 それがヘンゼルとグレーテルにとっての一番の幸せだと魔女は考えたのです。


 しかし、父親の話をしてもヘンゼルたちはお菓子の家から出ていく様子はありませんでした。魔女がいくら説得しても帰らないと言うのです。

 そこで魔女は自分が悪者になって、二人を追い出すことにしました。

 

 魔女はヘンゼルを檻に入れると、グレーテルに怒鳴ります。


「私はお前たちを食うために今まで優しくしていたんだ。ほんとはもっと太ってから食おうと思っていたが、もう太ってようが太ってまいが、明日ヘンゼルを煮込んで食う! だからお前はぐすぐすしてないでさっさと水を汲んでこい!」


 幼いグレーテルは魔女の変わりように驚き、そして怯えました。

 グレーテルは涙を流しながら、神様に「私たちを救ってください」とお願いしました。


「うるさいねっ。泣いたってどうにもならないよっ!」


 魔女は心を痛めながら怒鳴ります。




 次の日。魔女は部屋の見えやすいところに自分が今まで集めた真珠やら宝石やらが入った箱をあちこちに置きました。


 グレーテルは魔女に言われた通り、大釜に水を入れて吊るし、火をおこします。

 グレーテルの近くにやってきた魔女はできるだけ厳しい口調で言います。


「先にパンを焼くよ。もう焼き釜を熱くしてあるし、粉も練ってある」


 焼き釜からは、魔女が魔法でつけた炎が燃えあがっています。


「中に這って入って、パンが入れられるように丁度よく熱くなってるか見てごらん」


 そして魔女は魔法でグレーテルの頭の中に声を送ります。


『その悪い魔女は、あなたが焼き釜に入ると扉を締め、焼いて食べようとしていますよ』


 グレーテルはこの声は神様からの救いの言葉だと思いました。

 そして賢いグレーテルは考えます。


「どうやったらいいのかわからないわ。どうやって入るの?」


 グレーテルの言葉に魔女は内心、うまくいったとほっとしました。魔女は賢いグレーテルがどういう行動を取るのか見抜いていたのです。


「まったくバカだね。戸に入るだけじゃないか。見てごらん。私が自分で入るから」


 そして魔女は釜に近づき、頭を釜の中に入れました。

 グレーテルは魔女のお尻を押して釜の奥に入れ、鉄の戸を閉め、かんぬきをかけました。

 魔女は恐ろしい叫び声を上げます。グレーテルは一瞬、優しい魔女の顔が脳裏に浮かびましたが、あれは演技だったのだと自分に言い聞かせます。

 もちろん魔女は自分の魔法で作った炎なので、ちっとも熱くはありませんでした。釜の中で作戦どおりだと、にっこり笑います。

 

 グレーテルは急いでヘンゼルを檻の中から出し、恐ろしい魔女は死んだと伝えました。二人は抱き合います。

 二人はお菓子の家から出る途中、あちこちに財宝が入った箱をみつけました。二人はそれらを入るだけポケットに詰め込みます。


 そして二人は森に駆け出し、父親が待つ家を探します。

 二人の頬には涙がつたっていました。それは、魔女への恨みなのか、魔女が死んだことへの悲しみなのか、二人にもよくわかりませんでした。

 そんな二人を魔女は鳥の姿になって見守ります。二人が迷いそうになった時は二人を父親の元へ導きます。

 やっとのことで二人が父親の家へ帰り、父親にしっかりと抱きしめられたところを見て、魔女は安心して自分の家へと帰りました。



 魔女はまたひとりぼっちになりました。しかし、前のように悲しくはありません。

 なぜなら、ヘンゼルとグレーテルと過ごした楽しい日々の思い出があるからです。魔女は今、ヘンゼルとグレーテルが幸せに暮らしているだけで満足でした。


 お菓子の家の魔女はヘンゼルとグレーテルの幸せをずっと願っているのです。


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