テラスの思考
独りで生きていくには、
地上は広すぎて、
大勢で生きていくには、
洞窟は狭すぎて、
堂々巡りの中で人間は、
地面に線を引き始めた。
ココカラハ、オレのバショ。
それは、自然の摂理、
声や体の大きな、強い者が、
広い地面を手に入れた。
小さく弱い者は、隅に追われ、
わずかばかりの地面で、
重なりながら眠った。
肌が触れた。息がかかった。
時に、その中で争いもあった。
しかし近くにいた者同士、
同じ空気を呼吸するうちに、
思いやるようになった。
死者に、花を手向けるように
なった。
広い場所を手に入れた者は、
遅れて、また遅れて、
同じ空気を呼吸する者に出会い、
さらに遅れて、ずっと遅れて、
思いやるようになった。
いつしか、死者には、
周りの者が驚くほどの、
たくさんの花を手向けた。
それは、弱い者達が、
花を手向けている様子を
見ていたからできたことだった。
数百万年が経ち、
世界中で人間は暮らすように
なった。
広い場所は、声や体の大きな、
強い者でなくても、
手に入れることができるようになった。
そのかわり、思いやること、
花を手向けることは、
どこでどう生まれたのか、
どこにどうあるのか、
あやふやになってしまった。
さて、皆はどう思うのだろう。
それはそうと、いい天気。
どこからともなく訪れて、
とこへともなく去ってゆく青空。
眩しく湿る午後、テラスでの思考、
ああ、思いやりは、
梅雨時の晴れ間みたいだ。