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第七話「開戦準備」


ビストリア連合王国平野部 陸軍演習場


 ビストリア連合王国内陸部にある平野を利用した演習場には多数の人が集まっていた。

 青と赤を基調とした軍服を着たビストリア連合王国軍と赤と黄色を基調とした軍服を着たリングガンド連邦軍、緑と赤を基調とした軍服を着たウッドガルデン王国軍の三国の兵士達が集まっていた。

 三国共に皇国主導の陣営に加盟した国々の兵士達で、今回合同軍事演習という形で集まっていた。

 彼等の視線の先には見慣れないカーキ色の軍服を着た者達が立っていた。彼等は大日照皇国から派遣された教導官達で、本国から輸送されて来た供与武器兵器と共にやって来た。

 教導官達の長である秋山中将は三国の兵士達に対して始まりの挨拶をする。


「大日照皇国陸軍教導団団長の秋山である。これから諸君らには我が国より輸出される武器及び兵器類の操作を習得してもらう。心して掛かって貰いたい。何か質問のある者いないか?」


 それに対して三国軍の中から何人かが手を挙げた。


「うむ、ではそこの君。所属と名前、軍の階級を言いたまえ」


 秋山中将から発言の許可を得た虎人族の男は質問を始める。


「はっ、ビストリア連合王国軍第125擲弾小隊所属、ベオル・ハーパー中尉であります!演習は今日この日を含めて一日のみと聞いていたのですが、新装備の習熟訓練の期間としてあまりにも短いと愚考致しますが閣下はどのようにお考えでしょうか?」


 ハーパー中尉の最もな質問に対して秋山中将はよくぞ聞いてくれたとばかりにニヤリと笑った。


「最もな質問だハーパー中尉。確かに諸君らの常識ではたった一日だけで新しい装備の習熟を終了せよとは無謀に思えるだろう。しかし安心して欲しい、この一日が終わる頃には諸君らは立派な熟練兵となっていることを約束しよう!」


 秋山中将の答えになっていない解答に対して皆一様に首を傾げるが、それ以上のことを言わないため黙っておくことにした。

 その後も質疑応答は行われ、誰も手を挙げなくなったのを確認すると秋山中将は懐から何かを取り出した。

 その手にはカチューシャ型の装置が握られており、そのまま説明に移った。


「今からこれを全員に配る。これをこのように装着するように」


 秋山中将は制帽を外してカチューシャを頭に装着する。なんだか締まらない格好だが、配られた者はその通りに装着していく。

 全員に行き渡ったのを確認した後、秋山中将は近くに設置されたテント群を指差す。


「次にあのテントの中に入り、中に寝具があるのでそこで寝てもらう。それが第一の訓練だ」


 秋山中将の指令に対して一瞬、『は?』と言う声が三国軍から聞こえてくるが中将は気にした様子もなく続ける。


「戦場ではどんな状況になったとしても睡眠を取る必要が出てくる時もある。それは不定期的なもので、場合によっては砲弾が降り注ぐ中であっても寝れるような者が最終的に生き残る可能性が高まると言うものだ」


 秋山中将の納得がいくようなそうでも無いような説明に、湧き出る疑問を抑えつつもその通りに全員が動いた。

 その中には先程質問をしていたハーパー中尉の姿もあった。テントの中は無数のハンモックと寝袋があり、士官階級は寝袋を兵卒はハンモックで寝た。不思議な事にその時はやけに眠り易かった。




「総員起こし!」


 突然の大声と吹き鳴らされる喇叭の高らかな音に驚き、ハンモックから転げ落ちる者や寝袋から飛び起きる者が続出する。

 なんとか状況を掴めた者達は他の者に声を掛けながらテントから出て先程いた場所まで並び直した。既に日は高い所まで上がっており、こんな調子で大丈夫なのかと心配するハーパー中尉であった。

 参加していたのがほとんど即応軍出身のため整列は早くに終わり、皆の視線は秋山中将に向いていた。


「全員揃うまで6分32秒、まぁ初回のため大目に見ておこう。次からは五分以内に集合する様に」


 腕時計を見ていた秋山中将はそう言うと全員に対して向き直る。


「これより訓練に入る。と言いたいところだが、今諸君らの着ている服装では訓練に適していない。よってこれより支給する服装に着替え、その後に訓練に入る」


 全員に新しい服装が行き渡り、それらを携えて再びテントへと戻って行った。



十数分後



 秋山中将達が着ているようなカーキ色の戦闘服に深緑色のヘルメット、そしてそれぞれの国籍を表す腕章を着けた姿になった三国軍の姿がそこにあった。


「よし、これより新式銃を供与する。これは祖国を守る力でもあり、諸君らの命を守ってくれる戦場の神である。それを忘れずに受け取るように」


 秋山中将の指示に従って教導官達により新式銃が手渡された。銃を受け取ったハーパー中尉はまじまじと新しい相棒を見ていた。

 今まで使っていたマッチロック式の銃とは明らかに違う機構、ボルトアクション式の銃である『Kar98k』の機能美溢れる姿に思わず見惚れる。

 供与される歩兵火器は他にもあり、近接戦闘で威力を発揮する短機関銃『MP40』、制圧射撃を得意とする『MG42』、士官クラスに支給される『ワルサーP38』等三国では開発段階にも至っていない強力な武器がたった今渡されたのだ。

 すると演習場の奥の方から唸り声を上げて突き進む一団が見えてきた。

 それらは新設される機甲部隊用の主力装備である戦車、『シャーマン』の車列であった。

 三国軍では知る由もないがこの『シャーマン』は後期型であるM4A3E8、通称『イージーエイト』をベースにしつつ主砲をAMX13に載せられていた61口径75ミリ砲を更に強化した新型75ミリ砲を搭載、装甲も改良され、厚さは変わらないが正面装甲の防御力が実質100ミリと大幅に上昇している。更にエンジンは550馬力のディーゼルエンジンを搭載しており整地での最高時速52キロを達成していた。

 つまり、厳密に言えばシャーマンと言うよりイスラエルのM50スーパーシャーマンに近い代物になっているのである。

 他にも同じく主砲や装甲、登坂機能を改良した『パーシング』重戦車や敵陣地にロケット弾の雨を降らすBM-21『グラート』自走ロケット砲、兵員を安全に輸送するM113装甲兵員輸送車、火砲を牽引するM54トラック、ジープ等が共に供与される事になった。

 初めて見る機甲部隊に圧倒される三国軍の兵士達、その様子を見て上手く行ったとばかりの表情をする秋山中将。


「これより訓練に入る。各員教導官の誘導の下、位置に着け!」


 その後、猛訓練が始まり三国の兵士達は新式銃の扱い方や軍用車両の取り扱いを学んでいく事になる。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 テントの外では豪華な鎧を着たコヨーテ族の男と白衣を着た日照人の男が皆が起きるのを待っていた。


「ところで本当に大丈夫なのかね?」


 コヨーテ族の男、ビストリア連合王国陸軍将軍のヒルルは隣立つ白衣を着た日照人の男、平岡に尋ねる。まだ日は低い位置にあるが、彼等が眠りに就いてからかれこれ三十分が経過しようとしていた。


「無論です。そうですね、今現在の彼等の時間では『二年半』を過ぎた頃でしょうか?」


「しかし、信じられんよ。たった一時間で『五年分』の訓練期間を得られる装置など」


 そう、最初に彼等に配られたのは人の脳に干渉する事でとてもリアルな『夢』を見せる装置だったのである。現実世界での一分間は夢の中にいる彼等にとって三十日に該当し、たった一時間で夢の世界を約五年過ごしたことになる。


「元々は服役期間の簡略化を目的として開発されたのですが、短時間で熟練兵を量産できるとあって我が軍でも活用しています。これで数で勝るコンキスタ帝国への脅威にも耐えることができましょう」


 ヒルル将軍は平岡の自信ある態度を頼もしく思いながら煙草を一息吸った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




同国 港湾都市アクスプール


 ビストリア連合王国にとって重要な戦略拠点であるアクスプールには海軍基地が置かれており、その軍港には今までの主力であったガレオン船ではない鋼鉄製の軍艦が停泊していた。


「我が海軍もここまで来たか」


 ビストリア連合王国海軍の将軍、海蛇族のサーペンスは停泊する鋼鉄の艦隊を見ながらそう呟いた。

 大日照皇国から輸出された艦船の内訳を説明すると、海上戦力はフレッチャー級の最終型であるギアリング級駆逐艦を主力とし艦隊旗艦には指揮能力をより強化したクリーブランド級軽巡洋艦、そして海中戦力としてガトー級の改良型であるバラオ級を就役させていた。

 海軍艦艇の更新は特に王国の財布にダメージを与えたが、その甲斐もあって今までとは段違いの戦力を得ていた。最も皇国の援助によって成り立っている部分もあるが。


「我が海軍は世界に名だたる海軍として世に知られる事になるだろう」


 サーペンス将軍は一人でそう語りながら目の前の艦隊が戦う姿に想いを馳せるのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




同国南東部 コラー空軍基地


 ビストリア連合王国南東部にあるコラー空軍基地ではワイバーンに代わる新しい航空戦力の訓練が行われていた。

 ずんぐりとした胴体に涙滴型のキャノピー、そして大馬力のエンジンが機体を時速719キロで飛ばす、F8Fー2『ベアキャット』の姿がそこにはあった。

 元ワイバーン乗りだった竜騎士達は『ベアキャット』に機種転換をし、空の守り人として悠々と空を飛行していた。この機体に乗った者たちはその速度と高性能ぶりに驚き、ある者は《空を飛んで怖いと思ったのは初めてワイバーンに乗った時以来だ》と語ったと言う。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




瑞土大陸 総督府


 執務室に居た優輝は情報部に対して一つの指令を送った。


「ああ、そうだ。コンキスタ帝国国境付近の村にてウッドガルデン王国人が虐殺されたという偽の資料を作ってくれ」


 戦乱の時は今まさに始まろうとしていた。


M4『シャーマン』

全長5.84メートル

全幅2.62メートル

全高2.67メートル

重量30.5トン

速度52キロ(整地)

行動距離480キロ

主武装:61口径75ミリ戦車砲

副武装:13.2ミリ重機関銃

    7.92ミリ機関銃

エンジン:550馬力ディーゼルエンジン

乗員5名


M26『パーシング』

全長8.48メートル

全幅3.51メートル

全高3.18メートル

重量44トン

速度48キロ(整地)

行動距離260キロ

主武装:71口径88ミリ戦車砲

副武装:13.2ミリ重機関銃

    7.92ミリ機関銃

エンジン:550馬力ディーゼルエンジン

乗員5名


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