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第六話「超大国の片鱗」


ビストリア連合王国 港湾都市アクスプール


 一時期騒動があったアクスプール。その港では大日照皇国に派遣されるビストリア連合王国使節団が皇国の迎えを待っていた。その使節団員の一人に選ばれた狸人族の外交官ヒルスは出発を前にかなり緊張していた。


「ああ、参ったな。どうして私なんかが選ばれてしまったんだろう……」


 ここ最近の出来事を思い返すと思わずため息が出てしまう。いきなり超巨大な空中戦艦に乗ってきた使節団の相手をさせられたかと思えば、その後に大量の報告書の提出を求められその忙しさに忙殺される日々。それが終わったかと思えば今度は使節団として派遣されることになった。

 休む暇のない毎日に疲弊した彼の肩に手が置かれた。振り返るとそこには狼人族の男が立っていた。


「そう自分を卑下するな。君は自分で思っている以上に優秀だ」


「マルカス将軍……」


 彼の名はマルカス。王国陸軍の老将軍で、銃の発達によって戦いは散兵戦が主体になると提言した人物である。彼は軍務卿の命令により大日照皇国軍の軍事力を推し量ることを目的に、今回の使節派遣に参加していた。


「それに悩んでいても仕方ない。我々はただやるべき事をやる、それだけを考えて行動するだけだ」


 老将に諭させれて気を持ち直したのか、マルカスに向かって微笑んだ。


「そうですね、悩んでいても仕方ないですよね!」


「その意気だ若人よ」


 そうこうしている内に大日照皇国から派遣された空中艦が護衛の1キロメートル級空中戦艦2隻と共に入港してきた。そしてその艦から出てきた鉄の蜂らしきモノがこちらへと向かってくる。

 使節団の目の前で着陸した鉄の蜂の横腹が開き、中から日照人の男が出てきた。


「お待たせしました。ビストリア連合王国使節団の方達ですね?私は案内役を務めさせていただきます中山と申します」


 中山と名乗った男は鉄の蜂から降り立つと使節団の方へ歩み寄って来た。それに応じるように使節団団長を務める壮年の梟族の男、ヘネル団長が手を差し出す。


「使節団団長のヘネルです。よろしくお願いします」


「はい、こちらこそ。さあ皆様、この機体にお乗りになってください」


 使節団全員が乗ったのを確認すると鉄の蜂、『雷蜂(らいほう)』はゆっくりと離陸し空中で待機する航宙客船へと向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




航宙客船『瑞洋丸』船内


 全長5000メートルの白を基調とした船体内部は上流階級向けの豪華な仕様になっており、見事な金細工の彫刻やロココ調の華やかな調度品が見る者の目を喜ばせる。

 船内に入った使節団はまずその明るさに驚き、続いてその豪華絢爛な光景に目を奪われた。


「これは……何という……」


 ヘネル団長は絞り出すように言葉を漏らし、ヒルスとマルカスも唖然とした様子で辺りを見回していた。使節団にも上流階級出身の者達は多くいるが、そんな目の肥えた彼等でもここまでのものを見たことがなかった。


「本土に着くまでの短い間ですが、どうぞごゆっくりなさってください」


 中山はそう言ってその場から去って行った。




 その後使節団一行は優雅な一時を過ごし、数刻後には大日照皇国の領土上空にまで差し掛かった。




『まもなく大日照皇国瑞土地区上空です』


「もう着いたのか、随分早かったな」


 船内放送が流れ大陸共通語に訳された書籍を読んでいたマルカスは、予想していたより早く着いたことに対してそんな感想がふと出た。


「そうですね。国を出てからそれほど時間が経ったとは思いませんが」


 ジュースを飲んでいたヒルスもマルカスに同調する。

 すると今まで居なかった中山が姿を現し、使節団全員に説明を始めた。


「皆様お待たせしました。まもなく大日照皇国領土上空に入ります。このまま瑞土市に着陸、土したいところですが貴国より希望のあった我が国の軍事力の一端をお見せしたいと思います」


 使節団から『おおっ』と喜びの声が上がる。遂に大日照皇国の軍事力がこの目で観れるとあって武官達は色めき立っていた。


「これより本船は大陸北西部にある益荒(ますら)演習場に向かいます」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




瑞土大陸北西部『益荒演習場』


 広大な敷地面積を誇る『益荒演習場』。どこまで続く平原を利用したこの場所には、廃棄予定の戦闘車両や市街地戦闘訓練用の街が建てられていた。その上空で使節団は演習の始まりを待っていた。


「ここが演習場ですか。軍事についてあまり知りませんが、こんなに広い場所でするものなのですか?」


 ヒルスの問いにマルカスは否定する。


「いや、我等が行う演習でもここまで広い土地を必要とはしない。ただ演習をするには広すぎるぐらいだ」


 ビストリア連合王国でも演習自体は何度かやっている。しかし、砲の飛距離やそもそも参加する人数が少ないこともあってその規模は小さいものだった。


「東の空をご覧ください!たった今強襲軍艦艇が降下して来ます!」


 中山の指す方向を見ると、そこには地上に迫る大艦隊の姿があった。全長1キロ級が多数とそれらを上回る超巨大艦が降下して来る。すると各艦の主砲が光を放ち始め、次の瞬間には無数の光弾が地表に降り注いだ。

 耳をつん裂くほどの轟音と空気を震わせる衝撃波が着弾位置から遠く離れたこの船からでも伝わってくる。


「なんと……恐ろしい……!」


 マルカスの絞り出すような声に無言で同意する一同に対して中山が説明を始める。


「今回の演習は支配地域が敵軍に占領された場合を想定した内容になっています。先程の攻撃は降下する部隊の安全を確保するための制圧射撃になります。本来ならもっと高い高度で行うのですが、今回に限り目視しやすい位置での射撃となりました」


 制圧射撃だけでこの破壊力であれば敵軍なんぞとっくに蒸発してしまっているだろう。そんな言葉を飲み込みながら引き続き演習を見た。


「これより降下部隊による空挺降下が始まります」


 中山の言うように空中艦の腹が開き、中から人影と箱型の物体が多数落下して来る。その数およそ十万以上、王国軍の倍はある戦力が空から降下して来る光景にマルカスは言葉を失う。


《自国の領土にこれだけの兵士が空から降ってくれば、たちまち我が国は占領されるだろう》


 その後も演習は続き、地面を自由自在に這う戦車を主体とした装甲軍団に連発式の銃を乱射する歩兵部隊等、王国ではとても太刀打ちのできないような戦力を前に敵対行動の危険性をその身に感じる使節団一同であった。


《演習、と言うには些か小規模だが驚いているようだし策は成功したと見て良いだろう》


 そう、大日照皇国で言う大規模演習とは基本的に最低でも星一つか最大なら銀河一つを使用するのが一般的である。

 今回は使節団に対するサービスの意味合いと、どこかで見ているであろう他国に対する牽制を目的として行われていた。

 中山は腹の中でそんな事を考えながら使節団に対して説明を続けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




瑞土大陸中央西海岸 瑞土市


 演習の視察の後、使節団はようやく首都である瑞土市に上陸を果たした。

 そこは数千メートルはある超巨大建造物の群集地帯と舗装された道を走り回る車輪の無い箱型の馬車、自動車と呼ばれる乗り物が無数に行き交う光景とそれらの上空を飛行する大量の空中船等王国人の常識と大きく乖離した現実があった。


「これより大総督府へご案内いたします」


 中山の先導で使節団はホバー式のバスに乗り込み、一路総督府へと向かって行った。



瑞土市中心部 大総督府



 赤煉瓦を模した建材を基調としたどこか明治時代を連想する建物が瑞土市の中心部に建てられていた。旧地球文明でいうところの台湾総督府に似たその建物に設けられている会議室に使節団は居た。

 会議室にはビストリア連合王国使節団とその向かい側に大総督である優輝を含めた瑞土地区の各役員達が座っていた。

 初めて目にする大日照皇国という国を率いる長を見た感想は若いというものだった。


「若い、とお思いですか?」


 ふと出た優輝の的を得た問いに使節団の中で少し動揺が生まれる。


「まあ、そう思うのも無理はないでしょう。実際に私は若輩者です。この『地区』を任されるには少々経験が足りませんね」


「その、気になっていたのですが」


 使節団団長ヘネルが質問する。


「先程からこの『国』のことを『地区』と呼んでいらっしゃいますが、まるで此処とは別に国があるように聞こえるのですが?」


 ヘネルの問いに対し、優輝は来たかと言った表情で答える。


「簡単ですよ。此処は我が国のほんの一部にしか過ぎないのですから」


 優輝の答えに疑問を持つ暇を与えずに長机に埋め込まれた立体映像装置を起動させる。

 装置によって映し出された映像には現在いる皇国で言うところの第9001植民惑星の姿があった。


「今我々のいる場所がこの瑞土大陸です。知っていましたか?世界というのは巨大な球でできているんですよ」


 赤く塗りつぶされた瑞土大陸の映像から変わって縮小され、大日照皇国の支配する広大な領域が映し出される。


「そしてこれが我等が大日照皇国の全体を映した姿です。これを見て私達がこの場所を『地区』と呼称していた意味がお分かりなっていただけたでしょうか?」


 とてつもない規模の話に使節団全員がついて行けなくなり、完全に固まってしまっている。


「我等大日照皇国は数多の惑星、銀河を支配する巨大国家です。貴国にもいずれは我々の陣営に加盟していただきたいと考えております」


 それは事実上の属国になれと言う話では?とヘネルは言いかけそうになったが、此処は言葉を飲み込んだ。


「無論、我々の陣営に加盟していただければそれ相応の物を貴国に提供する準備が出来ています」


 その一部として、と優輝は映像を切り替え供与する予定の兵器類の映像を映す。


「例えば強力な防衛力はいかがでしょうか?陣営に入ると自発的な戦争行為は謹んでいただきますが、その代わりに貴国を防衛するのに十分な戦力の輸出を行いましょう」


 先程観ていた演習の事を思い出し、もし受け入れればそれには遠く及ばないものの非常に強力な力を手に入れられる。それだけでもコンキスタ帝国の脅威がある王国としては魅力的である。

 続いて映像は変わり、今度は巨大な建築物や舗装された道路、鉄道、航空機、船舶の映像が映される。


「他にもインフラや産業技術、及びそれらを扱う教育はいかがでしょうか?特に教育については貴国の国力の底上げに大きく寄与することを確約致しましょう」


 同じく此処に来るまでに見た光景を思い出し、それに次ぐモノを得られれば王国は今よりも豊かになる。甘い蜜を目の前にした昆虫のように使節団はそれらを手にした姿に想いを馳せる。


「勿論今此処で決めて頂かなくて結構、本国にお持ち帰りになって決めてください。その証拠としてではないですが、供与される物のサンプルのお譲り致しますので」


 優輝の誘惑に似た言葉に頷きながらその日の会談は終わった。後に本国へ戻った使節団一同は上層部に対して皇国の陣営に入るよう働きかける事になる。


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