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第五話「接触」


ビストリア連合王国

港湾都市アクスプール アクスプール侯爵邸


 ひとまず事情を聞くため王国政府から派遣された狸人族の外交官ヒルスはどうするべきか悩んでいた。

 いきなり超巨大飛行物体三騎で現れた謎の国家大日照皇国、その扱いについて中央が決定を下すまで全権を委譲されているとはいえどのようにあつかえば良いのか未知数だった。

 しかし悩んでいても仕方がない。意を決して向かいの席に座る人族らしき男、神谷大使を前に話を切り出す。


「ええと、貴国ダイヒデル皇国は何故今回このようにような強行的な策で我々と接触したのですか?」


 ヒルスの問いに対して神谷大使は申し訳なさそうな表情で答える。


「貴国の領海であることは重々理解しておりましたが、国交も開設しておらず特に規定もなかったため今回のような手段を取らざるを得ませんでした。その事については謝罪させていただきます」


 神谷大使の誠意ある謝罪に対してヒルスはひとまずそれを受け入れる事にした。


「貴国の謝罪を受け入れます。して、貴国はどちらから来られたので?」


「我々はこの大陸より東側にある大陸から来ました。そこに我等の拠点があります」


「……ああ、なるほど。『転移』されて来たのですね?」


 東側には大陸など無い筈だが、ヒルスはこの世界にある陸地と国家の多くが別の世界から転移して来た存在であると知っていた。


「まあそう言う事にしておきましょうか」


 神谷大使は此処でははっきりと答えなかった。

 続けてヒルスは現在起きている問題について話すことにした。


「それと申し訳無いのですが、アレらを別の場所に移動させて貰えないでしょうか?こちらから追って停泊先を指定しますので」


 ヒルスは領事館の窓に目を向ける。その外では騒ぎを起こした例の超巨大飛行物体が港湾の出入り口で鎮座していた。これでは民間船舶の操業に影響が出てしまう。


「失礼しました。すぐに移動させます」


「いえ、それにしても立派ですね貴国の空中戦艦は」


 ヒルスは世辞でそう言うが神谷大使に訂正を求められることになる。


「戦艦?ああ、あれは巡洋艦と駆逐艦です。貴国の海軍で言うところの三等船と四等船ですよ。戦艦はあれの数倍はありますよ」


 その発言にヒルスは凍りついた。


《あっあれが三等船!?馬鹿な、あの大きさでも規格外なのに、これより数倍大きい物があるというのか!?》


 ビストリア王国でいう三等船というと全長が約20メートル、排水量が100トンにも満たない量産性に富んだ小型船を指す。

 対する相手は自国の三等船どころか最新鋭の全く新しい艦船、戦列艦ですら大きく凌ぐ規模を誇っている。この規模の空中艦船が三等船と同じ扱いならば大日照皇国はこれらの艦を多数就役させているという事になる。


《神谷大使の言うことが本当なら自分は今、想像の域を遥かに超えた存在を相手にしているのだろう。

 いや、そもそもそれが本当だとは限らないしこちらを揺さぶるブラフとも取れる。ここは敢えて明言せず中央に判断を仰ぐとしよう。》


「そ、それはすごいですね。本当なら貴国と是非取引をしたいものですよ。少しの間失礼させていただきます」


 ヒルスは席を立つと中央政府に連絡するため応接室を後にした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『ーって考えてるようですよ』


 神谷大使の護衛、船坂陸軍大佐は体内に埋め込まれたネットワークを通じて大使に話しかける。

 『海燕』による偵察が始められた時からすでにこの大陸には無数のナノマシンが散布され、これらを通じて相手の思考等は全て把握されていた。もちろん皇国と同等の先進国には効かない事が多いが、発展途上国ならその効果は絶大だ。

 つまり、この大陸は皇国に目を付けられたときから既に籠の中に入れられていたのである。


『口を慎みたまえ、今は仕事中だ。私としては外交官としての勘が鈍るから好きではないんだ』


『まぁ、私は先生方と違ってそういうやり取りが苦手なので楽なんですけどね』




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




一方


王都ビストラス 政治部会


 王都ビストラスにある居城の一室で、狐人族の現国王フォクスエル五世を御前に緊急会議が開かれていた。

 会議の内容はもちろん港湾都市アクスプールに現れた超巨大空中艦隊の事である。


「国交開設を断固として断り、使者を追放するべきだ!」


 そう声高に訴える獅子人族の男は今回の騒動でメンツを潰された軍務卿である。彼は強靭な牙を剥きながら怒りの形相で発言する。


「第一に国交を結ぶために何の断りもなく戦闘艦を送り込んでくるなど非常識だ!とても国交開設に来た国とは思えない!」


 軍務卿の発言に対して外務卿が反論する。


「しかし、現実として彼等は超巨大空中戦艦を保有している。その力は本物であり、ここでそのような強硬策を示せばどんな手段を用いて来るかわからない!」


 外務卿の反論に技術卿が同調する。


「左様、全長が1キロもある物体を飛翔させる技術など並大抵のものではない。それに搭載している兵器がどのようなものかわからない以上、下手に刺激するような行動は避けるべきだ」


 二人の発言に対して肯定する者達もいれば当然反対する者達もいる。


「しかし、目の前にある武力に対してすぐに屈するような行動をすれば諸外国から我が国は御し易い国だと思われるだろう」


「それだけではない!今我が国が奴等に屈するような行為をすればリングガンドとウッドガルデンの両国から非難されるだろう!」


 内務卿の発言に続いて軍務卿も加わり議会は白熱する。見かねた王は立ち上がって場を制す。


「双方の意見はよくわかった。だが私としてはその使節とやらに会ってみたい。それにこの話を断れば狭量な国だと他国から思われかねん」


 この鶴の一声によってビストリア連合王国政府は正式に大日照皇国使節団と会談を行うことを決定した。



数刻後



 王城にある謁見の間にて大日照皇国使節団と王は面会を果たした。

 王からして超巨大空中戦艦に乗って来たという異国人の第一印象はただの人族という評価だった。しかし、今まで出会ったきた者達と明らかに違うものを感じた。

 例えばカミヤと名乗った大使の着ている服装は飾り気のない黒を基調とした物だが、どこか洗練された気品さがあり一言で貧相とは言えなかった。

 護衛の軍人と思われる男もそうである。土埃の色をした一見汚らしい服装に見えるが、服の各所至る所に付けられた装飾は派手さは無くとも戦場に立つ戦士として考えれば実に適している格好だと言えた。

 自国とは違う文化と考えが彼等の服装から伝わってくる。フォクスエル五世は一見しただけでそこまでを感じ取り、同時にその深淵を知りたいとも感じた。


「まずはこのような強行的な手段を通じて貴国に接触したことを総督名代大使、神谷より伏して謝罪申し上げます」


 まず神谷大使の謝罪より始まった。


「貴国の謝罪を受け入れよう。さあ面を上げられよ」


 王の言葉に従って神谷大使は顔を上げ、真っ直ぐと見据えた。


「謝罪を受け入れていただき感謝致します」


「何、今回の事は臣民にも要らぬ心配を掛けたため褒められたものでは確かにない。だが、こうして誠意を持って謝罪した者達をどうして責められようか」


 王は寛大な慈心を持ち備えていることを強調するように今回の騒動の件を許した。一見弱腰とも取れる行為だが此処で許すことにより相手が自国に対して危害を加えた場合、その正当性を与えないための一種の牽制も込めていた。


「陛下の寛大なる御高配に今再び感謝を申し上げます」


 神谷大使はその意図に気づきながらも再び感謝の言葉を述べた。


「さて、本題に入りたいのだが我々は貴国の事をよく知らない。故に貴国がどういった国なのか教えてほしい」


「はい、これよりご説明いただきます」


 神谷大使が左腕部に身に付けていた腕時計型の機器を操作すると、空中に立体映像が浮かんだ。

 未知の技術に驚愕しながらもその場にいた王国側の人間は神谷大使の言葉に耳を傾けている。


「我が国、いえ大陸はこの地より約2000キロほど東に位置しており、現在の人口は約5000万人になります」


 立体映像には瑞土大陸の地図とその中心都市である瑞土市の映像が映し出され、大陸共通語で書かれた資料も添付されていた。

 映し出された超未来的な都市に一同は息を呑んだ。このビストリアも世界一とは言わないにしてもそれなりの都市だと思っていたが、今映されている都市に比べれば片田舎も良いところだった。

 しかし、ある疑問が残る。

 何故彼はその大陸が自分達の国家ではないかのような説明をするのか、その疑問が場を制していた。しかしここはあえて口を挟まず神谷大使の発言に注目した。


「この大陸『瑞土大陸』は総督、つまり国家元首にあたる者によって統治されています。国家予算はまだ稼働を始めたばかりなので予想される額は約300兆円、貴国のビス換算で約1500兆ビスと言ったところでしょうか」


 その金額に今度は財務卿が驚愕した。現在の国家予算で7.5兆ビスであることを考えると大日照皇国のそれは自国の実に200倍の数値であった。情報の真偽はわからないが、あの規模の空中戦艦を保有している以上その可能性は非常に大きいところがある。


「続いて軍事になりますが、我が大陸が保有する兵力はおよそ500万人になります」


「ごっ500万だと!?」


 今度は軍務卿が驚く事になる。ビストリア連合王国だけで即応兵力15万人、予備兵力10万人の合計25万人に対して単純な人数だけで20倍の差があることに愕然とする。

 だが、これはあくまで『人間』の数である。派遣された皇国軍には更に機械兵が加えられ、その投入機数は6000万機にも及ぶ。その事実をあえて言わず、神谷大使は続ける。


「主力兵装についてですが、貴国は確か銃を配備していましたね」


「あ、ああ我が国の主力兵装だが」


「我が大陸ではその銃を全部隊に配備しています」


「…………は?」


 軍務卿は一瞬何を言われたのかわからなかった。しかし、理解するにつれて血の気が失せていく。

 ビストリア連合王国を含むエルジア大陸で銃というのは非常に高価なものである。この15年間の軍拡によって王国軍即応部隊に配備することができたのである。それも新旧関係なく。

 その銃を自国の20倍以上の全兵士に行き渡らせるなど必要な費用と人材を考えれば正気の沙汰ではない。


「更に貴国の単発式ではなく連発式をです」


「連発式だと!?」


 未だ三国共同で開発を続けているが先行きが見えない連発式銃を生産、運用している事実にこの場にいた者達に動揺が走った。


「勿論実物も用意しています。船坂大佐」


「了解しました」


 神谷大使の言葉に呼応するように船坂大佐が一歩前に出ると、左手に埋め込まれた装置を起動させ、皇国軍の主力小銃である九九式自動小銃を何もない空間から《引っ張り出した》。

 それだけでも王国側を驚愕させるに十分だが、目の前に出された連発銃に目を奪われる。


「実演射撃を行いたいのでどこか適当な場所はございませんか?」


「それなら練兵場を使うと良い。そこの者案内して差し上げろ」


 使節団と王国側の要人達は練兵場へと移動を始めた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




王城内 練兵場


 主に近衛兵の訓練場として使用されるこの場所の中央には的として旧式の鎧が置かれていた。

 旧式といってもその重さ以外は現用の物に比べて耐久性に優れており、数発程度なら弾丸を受け止められる性能を保持していた。

 その鎧から300メートル離れた先に立つ船坂大佐の手には九九式自動小銃が携えられ、目標に向け照準を合わせていた。

 王国側の常識では銃という武器は密集隊形で一斉射することで、射程距離100メートル以内にいる敵兵の何処かに当たるというものだ。狙って的を射るほど命中率は良くないはずである。

 そうこうしている内に判定員が号令をかける。


「射撃始め!」


 号令を合図に船坂大佐は引き金を引いた。甲高いモーター音と共に金属粒子を使用したペレット状のエネルギー弾が発射され、鎧を貫通してその先にある練兵場の壁をも貫いた。

 単射で兜、胸甲、籠手、脛当てに命中させ、最後に連射で胴当てを横一文字に切り裂いた。上下に泣き別れをした胴当てが金属音を立てて落ちた時、王国側の人々は唖然としていた。


 この出来事をきっかけに王国は大日照皇国を有力な国家として認め、国交を樹立するに至った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「とりあえず第一段階はなんとかなりそうか」


 優輝は定期的に送られてくる報告を読みながら愉快そうに笑った。

 計画は動き始めたばかりだった。


タカオ型航宙駆逐艦

全長3195メートル 全幅312メートル

全高297メートル

重量149万5500トン

速力63宇宙ノット

兵装

艦首1800センチ粒子爆縮放射砲    2基

45口径310センチ複合衝撃砲 三連装18基

60口径13センチ速射砲   連装80基

30ミリ高性能光電子機関砲 三連装160基

120センチ航宙光子魚雷発射管   240門

垂直誘導弾発射機 


フブキ型航宙駆逐艦

全長1279メートル 全幅121メートル

全高107メートル

重量48万3900トン

速力63宇宙ノット

兵装

艦首600センチ粒子爆縮放射砲    1基

45口径120センチ複合衝撃砲 三連装14基

60口径13センチ速射砲   連装40基

30ミリ高性能光電子機関砲 三連装80基

120センチ航宙光子魚雷発射管   160門

垂直誘導弾発射機 


九九式自動小銃

全長739ミリ

重量2,800グラム

使用弾薬:エネルギーパック(1000発)

     5.45*39ミリ弾(30発)

     6.5*43ミリ弾(30発)

     7.92*33ミリ弾(30発)

     7.92*57ミリ弾(20発)

有効射程距離:800メートル(EP)

       600メートル(通常弾)

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